351話 そういうイベント

「イベントがこういうタイプとは思わなかったなあ」

「次のアップデート準備、マップの使い回しじゃろうなあ」

「ああー、確かに」

「準備できたぞ」

「それじゃ……まあ、行きますか」


 イベント開始してから固定の面子で動いているが、クランで動いている時と違ってやはり勝手が違うので微妙に噛み合わない事が多いのだが、それでも何とか持たせている状態でもある。こういう時に限って私の性格というか、今までのスタンスからして新しい人を引っ張ってこれないってのは悪い所だ。本当に誰もいなくなったら三姉妹とクランハウスで余生を過ごすって肝心いなるんかなあ。


「油断はいかんぞ」

「わあってるよ」

「斎藤殿、悪魔殿、おしゃべりはそこまでで」


 私って爺とおっさんに好かれる質なのかな。






 少し遡り。


「イベント参加する人ー」


 クランハウスの2Fでいつものようにゆったりしている時に、たまたま全員がいるので招集したうえで、参加の有無を聞いてみる。とりあえずその場にいた7人が手を上げるなり返事をするなりして反応してくれるのは良い事だ。


「全員出るのはいいけど、部外者が一人いるわね」


 一応クランハウス2Fまでは侵入を許しておいたポンコツがいるのがあれだが、復活地点が私のクランハウスになっているからそこはしょうがない。

 その代わりという訳ではないが、共有ボックスは開けるはずもないし、三姉妹に至っては完全に他人扱いしているので、わしゃろうとしたポンコツの手を無情に払って冷めた目つきで見下ろしているのは中々に笑い所だった。って言うか指差してゲラゲラ笑ってた。


「ももちゃん、あんだけ啖呵切ったわりに出戻りってダサいなぁ」

「それ言ったら皆だって抜けて入って繰り返してるじゃんか!」

「出向しているだけだからな、完全に独立したのはお前だけど」


 こっちもいつものようにグラスに酒を注いで楽しんでいる髭親父の奴が結構えぐい一撃を放ってぐうの音も出なくさせる。私としては別に構わないし、一応プレイヤーとしての許可は取っているからいいんだけど。


「んで、イベント内容はみた?」

「あれだろ、特別マップで勢力争いみたいな事するって……どういう舞台かというのは何にもなかったけど、ファンタジー系マップじゃねえかな」

「イベントマップと通常マップに行ったり来たりは出来るみたいだし、期間も1~2週間で大きいイベだね」


 紫髪と猫耳が一緒になってイベントの概要をかいつまんで見つつ、それぞれもイベント内容をチェックしなおす。ちなみに何でここでって話で言えば、今日がそのイベント開始日だからって話になる。

 

「イベント期間はチェックするけど中身はさらっとしか見ないのはみんなして同じかい」

「こういっちゃなんだけど、結構行き当たりばったりでどうにかなるし大丈夫なんだろ、アドリブに強いのはボスのせいだけど」

「褒めても銃弾しかでねーぞ」


 葉巻の紫煙をぷかぷかと燻らせつつイベント開始時間までまったりと過ごすのでこんな状態でもある。


「イベント見る限りではクラン単位じゃないから、うちの中でも派閥が違う可能性もあるし、全員が同じ場所からスタートって訳でもないだろうから……もしも敵対しても恨みっこ無しだからな」

「うちのクランで弱い奴なんていないだろう」

「あ、自分弱いです」

「金髪エルフは生産全振りだしなあ、それでもイベント参加はどういう意図なんだ」

「戦闘しなくても楽しめるってあるので、そっちで遊ぼうかと」


 ふんすとちょっとだけ得意な顔をしているが、戦闘力ってのは限りなく0に近い金髪エルフ。猫耳やゴリマッチョみたいに生産は出来つつ戦闘も出来ますって言う、所謂ハイブリット型の生産じゃない辺り、やっぱりこいつも中々の尖り具合ではある。


 そんな事を考えているとアナウンスが発生し、イベント参加の有無を聞いてくるウィンドウが目の間に表示される。これ戦闘中に出されたらどうなるんだろうな、すっげえ邪魔だよ。

 とりあえず参加を選択、すぐにイベントマップに飛ぶかどうかってのを聞かれるのでこっちも「Yes」と選択するとマップ転移のカウントダウンが始まる。


「とりあえず私がいない間の業務はいつも通りで、何かあったらメッセージな」

「かしこまりました、クランマスターアカメ様」


 サイオンがぺこりと私にお辞儀をしてくるので、軽くわしゃわしゃとしていると足元から転移の輪が出てくる。こういう時に全部準備済みなのは、ここの運営の評価できるポイントの一つ。


「それじゃあ、敵対しても文句なし……って前にも同じような事言った気がする」

「ボコボコにされても泣くなよ」

「だってよ、ポンコツ」

「なんで私に振ったのかな」


 何のことやらと言いながら転移の準備が完了し、視界が白くなって、少しすると一気に視界が明るくなっていく。





 視界が明けると共に、とりあえず辺りをぐるりと見渡す。

 時間は夜、いきなり放り出されたわけだが……周りに人はおらず、建物は……。


「ビルだな、ここ」


 いきなりビルの屋上に放り出されているのは良いとして、いきなりファンタジーから現代に飛ばされたのか?少しだけビルの下を確認してみれば、現代とは思えない煩雑さ、電飾の数々を見るとどうやらSF系の世界観になっているっぽい。


「なるほど、ファンタジー世界よりも超人として現代なり近未来の世界を動いてみたいってのは確かに分かる」


 現代ギャングのゲームだったのに、4作目あたりでいきなり宇宙人の襲来、SF世界に放り込まれて超人プレイなんてゲームもあったっけか。そんな事を考えていたら私の近くに2人分の転移の輪が出てきてプレイヤーが現れる。


「おほ、これまた面白い所にでたのう……」

「む、悪魔殿ではないか……して、ここは?」

「どうやらファンタジーじゃなくて現代SFみたいっぽいよ」


 私はスーツだから良いとして、目の前に現れた知った顔は、完全にファンタジー……でもないな、斎藤の爺に関しちゃ和服だし、私の事を悪魔呼ばわりしたのは忍者服だし。


「とりあえず自己紹介?」

「ふむ、儂は斎藤じゃ」

「拙者は児雷也」

「私はアカメ……で、此処からどうするのかしらね」


 さあ?と全員が首を傾げ、どういう状況か分からないので軽く自己紹介をした後はビルの屋上で全員がうろうろと。流石に飛び降りるには高すぎるし、他のビルに飛び移るってのも出来ない状況なので、所謂スタックしたって感じだ。

 何て事を思って暫くしていると、メッセージが一つ飛んでくると共に、ビルの真ん中にアイテムが手元に一つ。


『ようこそ、最低の街へ。

 貴方達はこれからこの街で派閥争いをしてもらいます。

 手始めにそこのビルから脱出し、指定の場所まで来てください、話の続きはそれから』


「だってさ」

「ほほ、何やら楽しそうなアイテムもあったのう」

「どうやらワイヤーのようで、これで降りろと」

「ラペリングしろってかい……いいじゃん、楽しそうだしやろうや」


 そういうとさくっとワイヤーを設置、自分達に繋げて外れないのを確認してから屋根の縁に立って下を見る。


「私高い所にいると面白くなるんだけど、2人は」

「婆さんは苦手じゃったなあ」

「拙者は特に何も」

「んじゃー、ま、降りていきますか」


 ブレーキ用のグリップを握ったうえで、ビルの壁面に足を掛け、一気に滑り降り始める。

 

「それにしたって、降りるだけなのに何でこんな……」

 

 三人揃って滑り降り始めた所で屋上がいきなり爆発が起こる。それと共に警報がなり、辺りが騒々しくなってくる。


「さしずめ、破壊工作した後なんじゃろうな」

「こういうのって映画だと途中でワイヤーが外れるとか、中から撃たれるのよね」

「そんな縁起でもない事を言うと……ほら」


 文字通り、滑り降りた少し上の階から人がこっちを覗くと共に、ファイアーボールなのか火球を連打して放ってくる。それをそれぞれ体を揺らして回避しつつ残り数階って所で私のワイヤーが切れる。

 高さ的には2階から3階って所かな、ガラスの屋根に思い切り落ちて、肺から空気が絞り出される。


「げほ、えほっ!私だけとばっちりがひでえよ」

「児雷也、抱えてやれるかい」

「斎藤殿は足の確保を」


 落下ダメージで一気に赤くなった表示と危険表示を消すためにインベントリからHPポーションを取り出して飲みつつ、忍者に抱えられ、上から振ってくる攻撃を避けつつ道路に出る。


「こういう、オープンフィールドのゲームって、大体車両が用意されてるんだけど……」

「うむ、鍵が無くてもエンジンが掛けられるのう」

「動けるのならば拙者が後続を」

 

 路駐している車の窓をあっさりと割って爺がカギを開けるとすぐさま乗り込み直結で掛け始める。あんなの映画やドラマでしか見た事ないけど掛けられるのか……って思ったらあっさり掛かってるわ。


「ほほー、いいのうこれ、はよう乗り」

「後続相手はしなくていいから、さっさと乗り込んで、逃げるよ」

「む、それでは、御免」


 ビルの入口に向かって煙幕を投げ、後続を断つと共に車に乗り込んで発進。


「アクション映画じゃ定番だなあ、この流れ」

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