280話 サンドバック1号
単純にこのゲームをやっている間はあまり見せようと思っていなかったのだが、どうしても根っこの部分と言うのは人間変わらないのでどうしても滲み出てしまう。
頭を使って立ち回るのは単純にシミュ系ゲームのようで楽しんでいるし、生産回りに関しても農場経営ゲームのようだし、どっちかっていうとあれもシミュ系に当たるか。
立ち回りや戦い方に関しては格闘ゲームやアクションゲームの感覚に近く、闘技場のコンテンツ自体もそういった分類として言えるのだがやっぱり勝敗が絡んでくるというのがでかい。
人によっては勝敗関係なく、いい試合だったから楽しかった、負けたけど理想的な動きが出来たから良かったなどなど、あるわけだが。
『だから?』
と、しか感想が出てこない。
結果的に負けているのであればいい試合でもないし、負けてるのに理想の動きってなんだ?そもそも負けてる時点で理想的な動きが出来てないだろ。
まあ、そういった声を散々聞いて色々なゲーム仲間と別れまくってきた経験があるからこその現状ってのがまあ悲しい話だが。
まあ、ちょっとした話だが、何でこういう話をしたのかって言うと、あまりにも本気でやりすぎたせいで戦う相手がいなくなっている。
最初に爆裂手裏剣で吹っ飛ばしたのは問題なかったのが、それからが問題だった。
やはり実地試験なので違う状況、相手、使い方を色々試すためにさらに数戦こなしたのだが、ランクマッチが公開制だったのが結構足を引っ張っていた。
火薬や爆弾、何だったらガトリングなんてもんを出してくる闘技場でさほど珍しいものではないのだが、私の背負っていた名前もでかすぎた。
「闘技場上位のガトリングトカゲを従えているボスがランクを急上昇させている」
これがまず一つ目の問題。ただでさえかなり目立っているトカゲ野郎の大本がランクを荒らしに来た、と言う認識らしい。ついでに言えば最近入れた紫髪もそれなりのランクだったのでなおの事言われている。上位を自クランで固めようって魂胆だろう……って話。
そして次の問題が。
「サブだけで立ち回っている舐めプ野郎」
って点だな。これに関してはしょうがないな、舐めプと言われてもしょうがないくらいには手裏剣しか使ってないのもあるが、そもそも銃なんか抜かなくてもランクは上げられるんだよって見せつけてるようなもんだな。
オンラインゲーム上の縛りプレイってのはつまるところ自慰と同じだから、他人に見せたり強要するもんじゃない。だからこそのガチでやりあうランク戦で縛りプレイをしている奴は舐めプと言われる。
まあ、どっちにしろ爆破してるだけでやられてるてめえらが雑魚なんだろって話なんだが。
「マッチ待ちってどんだけよ」
闘技場の受付近くにある椅子に座りながら葉巻を吹かす。
あんまりにもマッチしなさ過ぎたせいで、かれこれ十数分こうやって葉巻を揺らしている。カジュアルマッチにして回数重ねるのも良いけど、やっぱトカゲと紫髪が上にいるってなら私も多少は見栄えのいい位置にまで上がりたい。って言うか足を突っ込んだなら勝ち進むってのがなんぼよ。
トカゲでも誘って実験台にしてやろうかと思ったが、あいつはガトだからあんまり相手にならないな。あいつとやり合うならまだ的撃ちしてる方が有意義な気がする。
紫髪の方はリベンジに燃えてるし、ちょうどいい相手……ポンコツでも呼ぼうと思ったけど、あいつは配信してるから毎度のことながら思いっきり炎上する可能性もある。
「暇ねぇ……」
ぷぁーっと煙を吐き出している様も見られているので、何だあいつって雰囲気が凄いわ。
それにしても両者承認じゃないと戦闘開始されないってのが中々ネックになる。まあ誰でも良いですって状態でやっても構わないのだがだったらカジュアル……自由対戦でやれって話になる。
「って言うか逆指定くらい出来るよな」
マッチング検索させたままで受付でランクマッチの項目をぽちぽちと。
あんまり上の奴とやると実験台に出来ないから、自分のランクに近いのを指定して、対戦申し込み。
この辺のシステムも結構しっかりしてて、闘技場で対戦可能な相手しか羅列されないし、選択できないってのはマジでいいわ。
と、まあこっちから片っ端に実験台を探していく訳だが、全然承認されない。くっそ、警戒されすぎだろ。
「実験台すら確保出来ないってのはあ……こっちは投げ足りないってのに」
受付のカウンターに肘をついて自分のランクに近い奴へ対戦申請するけど、微妙だな。
「……しょーがないなあ……」
全然マッチしないし、フレンド誘って実験台にするか。
で、自分のフレンドでオンラインになっている奴を探して、対人戦やってくれそうなのに声を掛けてみる。
暫くして私の少ないフレンドの一人がやって来て、すぐさま対戦開始。
色々探してこいつってのが何とも言えんが、実験台としては一番良いってのが腹立つわ。
多少久しぶりに声を掛けられたと思ったら「サンドバックになってくれ(意訳)」と言われるとは。
声を掛けられた時って、大体こういうのが多い気がするのだが、ある意味では一番信用してくれていると思ってもいいだろう。
それくらいやってくれないと割に合わないし、折角来たってのに何も面白くない、楽しくないならこんな所にまで来ないって話でもあるのだが。
「折角来たわけですけど、何かまた面白い事を見つけたんですか?」
「まー、そうなんだけど、強すぎて誰も相手にしてくんねーのよ、だから私の知ってる一番強い奴で実験する事にしたのよ」
「人の事呼んでおいて実験体呼ばわりですか」
「此れでも褒めてんのよ?」
分かっていますとも、ここぞという時や何かしらの時にちょくちょく誘われるって知っています。
「でもまー、あんたが私よりランクが低いとは思わなかったけど」
「あんまり対人ってする事がないので」
「イベントの時は活躍してたのに?」
「それはそれ、これはこれ、ですよ」
いつも使っているショートソードを抜きつつ、中腰に盾を構えて相手を見据える。
ふむ……どうやらサブ職で戦っているみたいですね、いつも提げている銃や腰に据えている銃弾もなく、何かを入れているポーチが気になりますね。
此処に来るまでの間にずっと秘密だと言うし、他のプレイヤーからも情報を入れないでくれって言われたのも気がかりですが、だとしてもですね。
「よーし、すぐ死ぬなよ」
「努力はします」
いい返事だと言っていると戦闘開始の合図が響くので、獲物を構えたまま近づいていく。
こっちからアカメさんをやる場合、不意打ちや奇抜な戦法を警戒しなければならないが、すでに相手の場所が分かっているうえで、正面で向き合っているのでとにかく視界から外さないのが重要になる。
ある程度は反射で防御出来るが、変な所から攻撃を貰うのが一番……っと。
どうやら投げ物をメインにした職……盗賊系か、シューター系ですか。流石に手裏剣で盾を抜こうってよりも防御に手を回させると言ったところですね。
攻撃され続けても視界は外さないように、かといって接近する足は止めずに近づくが、近づけば近づくほど手裏剣の密度が濃くなっていく。
「いつの間にかそんな技を使う様になっているとは」
「よそ見してっとやられるぞ」
頭の辺りに狙いを付けた手裏剣を盾で防ぎ、一瞬視界が防がれた時、さっきよりも風切り音が強い攻撃を感じるので、身を縮めて盾にすっぽり隠れるように体を入れ込む。
防御せざるを得ない所で攻勢にでる、と。対人慣れしてますね、アカメさんは。
「相変わらずカチカチねえ」
「キィン」と金属同士強くぶつかった音を響かせるが、防御を固めた所に攻撃と言う事は盾狙いじゃない、狙いは、こっち。
常にこっちに直接投げてきていたのに、急に外した足元の1発、こっちが本命。
しかし何で外し……?
「どかーん」
その声を聞いた瞬間、しゃがんで身をさらに縮めると共に、爆発。
炸裂した手裏剣の刃が盾や鎧に弾かれ、音を鳴らし、爆風で耳が揺れる。
「やっぱりガンナーって強い職じゃないですか?」
「創意工夫をしている私が強いと言って欲しいわ」
ガンナーじゃなくても貴女自体が強いと言う事はとっくの昔に知っていますって。
とりあえず攻撃が一旦止んだ所で盾の位置をずらしてアカメさんを捉えるが、一定距離を保ちながらまた手裏剣の嵐。
あの爆裂する手裏剣が残り何発あって、直撃したらどれくらいダメージが出るのか分からないってのもネックですが……銃の固定ダメージがないのなら防御しきれば勝てるはず。
「長期戦は覚悟してほしいですね」
「上等」
あなたのその凶悪な笑み、何度見た事か。
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