261話 人脈

 それにしても此処まで来るのこんなに疲れるとは思わなかった。

 単純に弾切れしてるだけで、あんなに立ち回り出来なくなるのかって話になるのだが、こんなにへなちょこか?今までが大分楽していたと言うか、固定ダメージの恩恵が強かったって事でしかないか。

 魔法弾なんてあったらいいんだけどなあ、MP変換で弾込めて何発か撃てる、みたいな?弓職がそう言った魔法矢があるんだから、無いとは言い切れなさそうなんだけど、望み薄ではある。


「どっちにしろ銃を使わずに戦える術が無いとこれ以上先は厳しいか」


 自分のステータスやスキルを眺めながら葉巻の紫煙を辺りに撒き散らしつつ唸り続ける。どうにかこうにかやれる事があればいいんだけど、ぱっと思いつかないから結構手詰まり感が強い。

 こういう時にいいアイディアを出してくれるような奴がうちのクランにはいないからしょうがない。


「ボスー、換気したらどう?」

「色々考えてたんだよ」


 相変わらずのポンコツピンクがドアからひょっこりと顔を出して手でぱたぱたとその顔の前を仰いでいる。健康にも害はないし、ついでに言えばバステも付かないってのに気にしすぎなんだよ。

 そのままパタパタと手を振りながら近づいてきて、私が座っている椅子の背もたれに乗りかかってその上をぐいんぐいんと乗り続ける。何でか知らないが、私の座る椅子にもたれる奴が多いって。


「そういやあんた、私が初めに教えてた銃格闘ずっと使ってたんでしょ?」

「んー?そうだよー、あれが無かったらガンナーはやってなかったねぇ」

「弾無しでどのくらい戦える?」

「格上は厳しいかなぁ……同じレベル帯くらいなら、負けないけど、勝てもしないって感じ」


 ふむ、銃格闘って伸ばしたらそんなところまで行けるのか。一応上げてはいるけど3止まりで、それなりに動けるって所だしなあ。


「ただ銃格闘の派生でCQCってのがあるから、さらに特化する形になるからなんとも?」

「ふーむ……SPも無いしそっちに進むってのは難しいか……」

「って言うかボス、何をやりたいの?」

「弾無しでも戦えるようにとりあえずなって、ソロでどこまで進めるかなーって」


 アイオンが持っている灰皿に葉巻を押し付けて火を消してから残っていた紫煙でぽわっと煙の輪を出して一息。不意打ち気味に立ち上がると、背もたれに体重を掛けていたのでがたんと大きい音をさせて倒れ込むポンコツピンク。


「いったーい!」

「しょうがない、他の奴の話も聞きに行くかな」

「いててて……他っていうけどボスよりも強いガンナーがいないじゃんか」


 確かに強いと言う部類では私以上に強いガンナーは知らない。もちろん1ヶ月の間ずっとやっていたんだから、それくらいのアドバンテージはある。

 ただ、あくまで大きい括りで強いと言う話なので、専門的になれば、そっちの奴の方が強いに決まっている。私を例に出して言えば、ケルベロスなので大型銃器を扱わせれば確かに強い。ただそれ以外の銃器に関しては他のガンナーと遜色がない所だな。


「出来る出来ないは良いとして、視野を広く持つ事や情報を集めるってのは武器になんのよ?」


 椅子で倒れたままのポンコツピンクに背中を向けたまま、軽く顔を向けてにぃっと笑ってやる。


「お、おす……」

「あんたの事は気に入ってんだからね」


 手をぷらぷらと振って、そのままサイオン姉妹に見送られながらエルスタンに転移する。


「ねー、シオンちゃん、ボスのあの顔ずるくない?」

「はい、マスターアカメ様は素敵な方です」

「それはどういう理由かなぁー?」

「ももえ様のわしゃわしゃはマスター程嬉しくありません」

「だろうなー……私も強くなりにいこーっと」




 

「そういえばこの格好するのは久々だな」


 宇宙猫Tとサングラスを外して、黒いスーツに赤い差色の入った多少くたびれてきたコートをはためかせながら、とあるクランハウスの目の前に。その入り口を大きく音を立てて開け放ち中に入る。

 

「ちょっと、誰……え、あ……」

「此処のマスターに用事があるんだけど、呼んでくんない?」

「た、ただいま!」


 ばたばたと奥の部屋に行くクランメンバーを目で追いながら葉巻に火を付け、暫く待ちながらクランショップの物を物色して回る。

 そして暫く物色していると、またばたばたと奥から私の方へと1人やってくる。


「えっと、何でうちに……?」

「用事があるから来るに決まってるだろう」


 もてなせと言う様に顎で指しつつ、奥の部屋に案内されてから、適当な椅子に座って一息。

 部屋の外では私の事をちらちらとクランメンバーがやたらとみている。


「接近戦に強いガンナー、いない?」


 そういえば困った顔で青い髪が揺れる。明らかに私の所にいる方が強いだろうって顔をしているし、申し訳ないって顔をしているのも分かるのだが。


「えっと、うちのガンナーの最大レベルが30なんで、そんなにいないんですけど……」

「とりあえずどう立ち回ってるか聞きたいのよ」


 葉巻の紫煙を燻らせつつ、話を黙って聞きながらメモ帳を開き、その内容をまとめていく。


「んー……やっぱり接近戦は銃格闘と銃剣しかないか」

「そう、ですね……一応僕たちの方で見つけているのはその二つだけと言うか、それ以外にあるのかが」

「分かんないって事だよな」


 大きめに紫煙を吐き出し、部屋の中を煙で満たしつつ、席を立つ。


「言うても私も40レベル行ってないし、ちょっと本気出せばすぐに追いつくって」

「ガンナーのレベリングって大変じゃないですか、あんな大技持ってるのも少ないんですよ」

「そこはほら立ち回りでどうにかしなさい?弾も潤沢にあるんだから、ちょっとしたパワーレベリングして、私の事を追い抜いてちょーだいよ」


 礼を言ってから部屋を一緒に出ると、覗き見していた他のクランメンバーがばたばたと道を開けていく。

 明らかに恐怖って言うかマフィアやヤクザを見るような目で見ながらクランハウスの入口まで全員ぞろぞろと私に付いてくる。


「さっさと私の事を追い抜いて、俺が最強だってっていう位に成長しなさい?」

「うぇ、あ、はい!」

「まー、助かったわ」


 ふーむ、こうなってくるとやっぱり別アプローチで強くなるしかないな。





『ちょっと会えない?』

『……明日は雨でも降るんでしょうか』

『あんたのところのメカクレも一緒にいると良いんだけど』

『ふむ……とりあえずボス討伐した後でいいなら、って条件になりますが』

『それでいいわ、場所の指定して頂戴』

『では30分後に、エルスタンで』


 分かったと返事をしてから転移地点のいつものベンチで30分程葉巻を楽しみつつ、犬野郎とメカクレを待つ。


「お待たせしました」

「お、お久しぶりです……」

「あんたとゲーム始めたときに出会って良かったとは思わなかったわ」


 早速と言う様に自前のティーセットをインベントリから出してさくっと準備してベンチに3人横並びで紅茶を楽しむ。


「して、どういう用件で」

「わ、私が呼ばれる理由も……?」

「魔法弓と接近戦のコツと知りたくてね」


 オーソドックスな騎士タイプと、MPタンクをしょった魔法弓のトップなら何かしら良いアイディアが出てくるだろうて。


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