244話 脱獄2-2日目

 このアイテム探し、これはかなり有用だった。

 何がどこにあって、どういう方法で手に入るかのまでは分からなかったが、それを分かる為のクエストと言った感じに構成されていた。

 T2Wって結構そういった誘導が多いんだよな。何から何まで秘匿で全部手探りでどうにかしろって投げっぱなしのゲームも多いわけだが、手探りで時間ばっかり掛かるってそれはそれでただの苦行な訳だし。

 NPCの囚人が持っているのを奪ったり、そのNPCと取引して交換したり、食堂や看守の目を盗んでロッカールームに忍び込んでアイテム盗んだり、色々入手できる手段が多かった。

 看守をダウンさせて懐からアイテムかっぱらう時に服も一緒にひん剥いておけば良かった。流石に時間が無かったのでそれは出来なかったのだが、次やる時はやってみるかな。


「まー、色々アイテムは見つけたわけだけど……全部渡すのがそこそこ惜しいな」


 ただ、全部渡して3周目の用意ってのもありだし、此処は周回の為に犠牲になって貰おう。

 ため息交じりに集め切ったアイテムを渡して脱出経路が書かれている紙と交換する形になる。何か紙でのやり取り多いな。


 そんな事はさておき、記されている脱出経路についてだが。

 私が使ったトンネル、西側の金網を抜ける方法、正面から突破する凱旋脱出、看守から服を奪って正面から脱出、暴動までは書いてあるな。

 まだほかに色々方法はあるっぽいけど、今の所判明しているのはこんな所だな。

 脱出経路をパッと見る限りでは色んな奴が脱出した方法の統計って感じはあるな、うちのクランがもっと人数がいるって言うのならどういう脱出したか聞けるんだが、こういうイベントを誘わないとやらなさそうな面子だから、聞いた所であまり有用じゃないんだろうな。

 そもそも1回クリアしてから、攻略やWikiを見て色々と試すと言うのが一般的なんだろうけど、そんな事を一切やっていないので全部イベント内での自前で攻略を作っている状態だもん。


「さーて、どう脱出するかな」


 金網を突破するってのが一番楽……って訳でもないな、どうやって突破するかが問題になるわけだし、楽なのは看守の服をかっぱらって仲間面しながら外に出ていくってのがいいかもしれん。

 暴動と正面突破と正面から脱出ってのはどう違うのかが分からないのだが、逃げるか逃げないかって所か?

 マッチングしたプレイヤー全員と協力してここの監獄を制圧したら暴動ってクリアになるとは思うのだが、人数集めるのって結構苦労するから難しいだろうな。多分そんなに人数はいらないと思うのだが、戦える奴が少ないと無理っぽいな。

 看守殴って気絶させる時も結構な泥試合になるのは確かだからそこそこ戦闘慣れしてる奴じゃないとしょうがない。


「こういう時にコミュ力おばけのおしゃべり忍者がいれば色々やりやすいんだろうけど、あいつといると疲れるしなあ」


 私のフレンドやクラン員を連れてきてもしょうがないのが多いってのもあるのだが。


「やっぱり逃げ道は金網使うか?」


 そうなると有刺鉄線を超えるか、金網を切るかって話になるわけだが、有刺鉄線は現実的ではないからパスだな、コイル状になっているし返しになっていたのでそもそも乗り越える事が難しい。

 やはり金網を突破……と考えていたのだが、どう脆いかを2日目で確認したうえで、3日目に突破ってなると難しい。

 既に2日目の朝なので夜までに見つけて必死こいて突破して3日目……はぎりっぽいしなあ、必要なアイテムを入手しなきゃならんけど、夜は看守の見回りが多いからあまり動くのは避けておきたい。


「看守の服かっぱらっておいて、いつものように何か起こしている間に逃げるほうが楽っちゃ楽だが……」


 ふいーっと煙草の煙を吐き出しながら考え込む。

 やっぱさくっとクリアなら看守の服をパクるか。今日パクって、明日にでも騒ぎを起こして、着替えてそのどさくさに紛れてって流れなら3日目クリアが行けるだろう。


「よーし、それじゃあ、動いてみるか」


 昼飯前の自由時間が終わると共に立ち上がって、ぐいっと伸び一つ。じゃあ動くかな……と、思った矢先に警報が鳴り響いて看守がなだれ込んでくる。

 どうやら誰か別の奴が看守にでも殴って警報を鳴らしたみたいで、そのまま看守に押し出されながら自分の独房に戻されてしまう。50人もマッチングしているから誰かが余計な事をすると全員が連帯責任になってしまうゲーム性だからしょうがない。

 それにしても、誰が騒ぎを起こしたのかという問題になるのだが、誰かが分かればそいつに頼んでもう一度騒ぎを起こしてもらうって言うのも手だな。その代わりの何かを調達してくる必要があるとしてもだ。





「この警報のギミック、釣りとして考えれば結構優秀なんだろうけど……使い所が難しいな」


 独房のベッドに寝転がったまま、警戒状態が解けるのを暫く待ちつつ、脱獄計画を考える。土竜はこんな時にもずっとトンネルを掘っていたと思うと、中々狂気的だな。


 どっちにしろ動き方の方向性は決まったし、後はどのタイミングで仕掛けるかって話だ。もう1人くらい使える奴がいれば、囮にするのも手なんだが。

 

 とりあえず動き方としては今日中に看守服を盗んで、そこから騒ぎを起こして警報を鳴らす、着替えてどさくさにまぎれ込んで逃げる。


 さっきも考えた通りではあるのだが、よくよく考えればピンポイントで1人でやるには難易度が高い所があるな。

 他のプレイヤーを確認してみたものの、1周目ですって感じの奴が大半で、探り探りやっているのが多いからあまり信用ができない。

 あー、ポンコツピンクでもいりゃ、手足の様に使いこんでやるんだけど、それも難しい。


「おねーさん、おねーさん」

「あんー?」

「あたしと組まない?」

「急に誘ってくる奴は大体裏があんだよなあ」


 ベッドから起き上がり、独房にもたれてこっちを眺めている女性キャラを確認する。

 紫色のストレートヘアー、前髪横髪で口元以外全て隠しており、口は私と同じようなギザ歯の種族不明って所だな、耳がとがっている訳じゃないからエルフでもないし、かといってヒューマンでもない感じ。


「おねーさん、看守とヤりあう気でしょ?」

「まー、ある程度はなぁ」

「あたしは正面突破する気なんだけど、そっちでやんない?」

「……勝てる算段があるなら」

「やり、じゃあ聞いて……まず看守部屋の隣に保管室があって、此処に飛ばされる時に持っていたアイテムを一式手に入る訳」


 鉄格子越しに話を聞きながら煙草の紫煙がゆらゆらと揺れていく。


「転移前一式装備だったら、あたしは看守に負けない自信もあるし突破出来る気もあるのよ」

「正面を突破できないってのが問題だと思うがな、その作戦は」

「そ、こ、で、おねーさんの出番ってわけ」


 にぃっと私と同じようなギザ歯を見せる笑いをしながら指で銃の形を作って私の方へと狙ってくる。


「おねーさん、ボスでも何でも一撃で破壊出来るスキルあるよね、あれで正面玄関吹っ飛ばすってどーお?」

「30秒持たないなら無理だぞ」

「そこはねぇ、暴動を起こそうと思うのよ、結構色んな人に声掛けてるし?それに看守は看守で武器を奪われる危険性があるから、警棒くらいしかもってないから、撃つときに守れれば勝ち、でしょ」

「やるなら明日だけど」

「いいや、今夜」

「……冗談だろ?」

「兵は拙速を尊ぶって言うでしょー」


 確かに2日で脱出できるならいいかもしれん、それに此処まで言うのならある程度成功できる自信もあるんだろう。確かに言う通り、あれこれ考えるなら成功しやすい作戦でさくっと攻略した方が良いってのも分かる。

 

「分かった、今夜ね」

「おねーさん、やっさしぃー」

「FWSを知ってる辺り、名前まで知ってるくせに」

「まぁーねー♪」


 紫色の髪を揺らしながら私の鉄格子からスキップ交じりに去っていく。

 ポンコツピンク、あんたの事を久々に褒めてやろうと思ったわ。

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