177話 アカメのいない日
「平和だな」
地下室から上がっていつも通りのアカメの自宅庭先に出て、一息。
そういえば留守番を頼むと言われたが、あいつの自宅でフレンドしか入れないと言うのに何を留守番するのかは謎だ。
とりあえず、仕込みも終わったし、自分の畑の管理とレベリングでもするか。
自分のやりたい事と言うか、遊べると言うのでこのゲームをやり始めたが、まさかマフィアの密造酒を担当するとは思わなかったが、比較的楽しくやれている。
うちのボスは何か言えば文句を言いながらもやってくれるし、地下室と庭も作ってくれたから良いボスではあるんだが、いまいち何を考えているのか分からんところもある。
北東エリア1-1から火山ダンジョンに行くだけって言うのにあんなにも重装備で、がちがちに用意をするものかね。
純戦闘職ではあるがソロで接近戦が苦手な後衛職だから、死なないようにするためか。
「そういえばうちのボスはまだ北東エリアにいるのか」
「だろうな、街中で死に戻りしてたのを見たしな」
「やっとガンシールド出来たのに、クランもフレンドも反応して来ないって、相当のめり込んでるか」
そういえばイベントの時や、何かやる時はそれしか見えなくなると言う癖があったな。集中力が高いのか、頭に血が上りやすいのか、どっちなんだろう。そこそこ年齢の行っている儂よりも落ち着きが無いと言うのは分かるが、短気と言うのは頂けんな。
「それ、儂が持って行ってやろうか?」
「お、いいの?」
「鍛冶手伝ってもらってるしな」
留守番組の儂らは普通に鍛冶手伝いしたり、のんびり過ごしている時が多い。案外交流があるって事もアカメの奴は知らないんだろうな。
「それにしてもいい盾だな、薄く軽く硬くって所か」
「いや、まだまだ重いよ、本当は樹脂製を目指したいんだけど、材料がイマイチ集まらないし」
「アカメの奴が絶対作れって言ってきそうだな」
「そもそもガンナーだったら、絶対欲しい素材ではあるんだよ、プラスチックって」
そうなのか、あまり銃器に詳しくないから全部鉄だったり木製だと思ったのだが、そういう訳じゃないんだな。ゲームはそこそこやるのだが、マニアックなのはどこにでもいるもんだ。
「う、うむ……」
「この辺は話すとめんどくさいから……んじゃ、それ宜しく」
「ああ、分かった」
まったく、目的に対して一直線になりすぎるのも考え物だぞ。
北東エリアに来て、辺りを見回すのだが特に変わった様子もなく、コボルト、オーク、ドレイクが闊歩している山岳地帯と言った感想しか出てこない。
……そもそも此処まで一人で来れるんだから、自分で火山に行けばいいじゃないかと言われればそれで終わりだな。
「さーて、どこにいるのか」
この間の対人イベントで使っていた双眼鏡、アカメの奴に借りていたが、自分でも購入して使うとは。それでもリアルでもバードウォッチングだったり山に入る事も多く、それで使う事もあるのにゲームで使わないってのは無い話だな。
「ふーむ……死に戻ったか?」
クランとフレンドでコールをしていたのだが、やはり応答はない。もしかしたら一時的に会話を切っている可能性もあるし、会話で集中が切れるのが嫌だと言っていたのもちらりと聞いた事がある。
やはり扱いがめんどくさい、目の離せない奴だ。
双眼鏡を構え、辺りを見回しつつ、マップを進行していくのだが、やはり見つからない。
どこまで深い所に行ってるのか、それとも突破したのか……何とも言えん。
パイプ爆弾を作っていたのも見たからどっかで爆破してくれるのが一番いいし、なんだったら銃声の一つや二つ響かせてくれればいいのだが。
そんな事を思いながら適当にモンスターを捌きながらエリアを歩き回る。
何個か拠点のような所を見つけたのだが、黒煙を上げ、ボロボロになった所が散見される。あれを一つずつ潰して回っていると言うのならそろそろ音の一つや二つ上げても良いと思うのだが。
拠点の惨状を見つつモンスターの相手をしていると、少し遠くの方で爆発音と銃声が響く。
どうやら向こうの方でドンパチやっているみたいだ。
「全く、うちのボスは元気いっぱいだな」
たまには子供と孫に会いに行くっていいかもしれんな。
「誰もいないと面白くないなぁ」
ちぇーっと口を尖らせながら庭先に置いてある樽にげしげしっと蹴りを入れつつ、蹴りを入れるのと同時に当てた蹴り足を使って飛び上がって、さらに空中で2連撃をかまして空中コンボの練習。
何かいっつもここに帰ってくるたび誰もいないの寂しいなぁ。
アカメちゃんはアカメちゃんで最近バタバタしてて相手してくれないし、十兵衛ちゃんは地下室に籠ってるし、バイパーちゃんはバイパーちゃんで鍛冶場や木工場に行って、外でて帰ってくるし、面白くないんだよねぇ……。
あ、でもここに来た時庭と樽人形?出来てた時はすっごい嬉しかったよね。いっつもバトルジャンキーとか言うくせに、ちゃんと約束覚えててくれるアカメちゃん超優しい。
「何か北東エリア行くとかいってたっけかぁ……あそこってどんな相手だったかなぁ……」
色んな相手をしてきたけど、あそこはちょっとモンスターの生態ルールが違ったんだったかなぁ。確かモンスター同士の抗争をしている所で、プレイヤーが第四勢力扱いになるとかどうとか?
んー、たまにはどんな戦い方してるか見に行こうかなぁ、対人と対モンスターって違うし、色々準備しているのをちらちら見たし、聞いたし、面白そうだし。
「たまにはちょっかい出しにいこーっとぉ」
飛び上がると同時に樽人形を思い切り蹴るとバラバラに吹っ飛ぶ。うーん、やっぱりもうちょっと耐久力のあるのが欲しいなあ。
「片付けないと怒られるって」
「あ、おかえりぃ」
「うちのボス綺麗好きなんだから」
「分かってるよぉ」
バイパーちゃんは気にしいだなぁ。
「引き抜きされたのはいいけど、むちゃくちゃなクランだ」
いや、まあ、ヘパイストスにいたときも無茶苦茶なマスターだったのと、明らかに趣味が悪いと言うか趣味ぶっちぎりに走っているのしかいなかったから好きにやれるって言う点では同じか。
趣味に走ったからこそ、ガンナーに作り直したうえで自作銃を作ったわけだし、興味があったわけだからここに来たし、銃弾も作れたからなあ。
「だからこそ、こういったものを作る訳だし?」
手回しガトリングの設計図を見つめつつ、うんうんと納得する。
ちょっと前に作れた銃弾も何発か確認して構造だったり、発射条件を色々調べた上で、自作手回しガトリング銃って言う浪漫兵器に辿り着いたし、何だったらこれを成功させてうちのボスに自慢してやろう。
けど、その前に頼まれたガンシールドを作らないと。
これって自分も初期銃が拳銃だったから近接戦闘する時には欲しかったから丁度いい。ただ、問題としてはどうしても硬質プラスチック系の樹脂が手に入らないから作成難易度高いんだけど。
樹脂素材さえ手に入れたらハンドガンやライフルの銃身に使えるようにもなるから研究もしたい、うちのボスが火山でいい素材手に入れてくれたらその辺りの開発も出来るんだろうけど、まだ分からないんだよね。
とりあえず片手で使えて、ガンナーが装備して動きを阻害せずに、それなりな防御力があって取り回しのいい……これ、あの犬紳士に要求された盾より難易度高くない?
自分にも使えるから、レシピさえ確立できれば今後のガンナー御用達みたいな……おお、すごい浪漫だ。やっぱりゲームをするのに浪漫って大事だよな。
「ボスが一番なのは分かるが……そりゃー、男の子なら負けたくないってな」
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