164話 決着

 気を利かせて1対1の状況になってるのは良いんだけど、私としては逃げ道が無いし、隠れて一息何て事も出来ないから実は結構大変だったりする。

 まあ、それでも正面向かって戦うって相手から言われてるから、ある程度は意思を尊重してやりたい。


 って気なんてさらさらないので先手打つけどさ。

 もうそりゃあ簡単に引き金引けるくらいには撃つよ。


「うわっ、ちょっと、もう少し雰囲気とか気にしたらどうですか!」


 はいはい、ふいんきふいんき、変換できない。

 よっぽどアホなプレイして遊んでるって状況じゃなきゃ乗るわけないでしょ。


 銃声を響かせて不意打ちの1発の後に、2発目を連続発射。

 二度撃ちするのにはあの盾をどうにか抜けるタイミングを計らないと無理だわ。抜けさせるとしたら跳弾の効果中に二度撃ち使って反射させるって形か?


 ってか、盾がまあうざい。

 2発目に撃った奴も良い感じに受け流すようにしてるし、金属音はかなり響くけど、貫通しているわけではない。抜けない盾って現代の軍隊でも使うし、ファンタジーベースのこのゲームじゃ色々強度が高まってるんだろう。

 

 しっかり盾を構え、じりじりと前に進んでくるのはタンクとしては正しいんだろうな。どういうプレイの仕方であんな風なのをやるのか分からんが、実は日本人じゃないとか?

 やけに紅茶飲んでるし、イギリス人だったりするのかね。ものすごい偏見に満ちた言い方をしているが。


「アカメさん、遠距離だけだとこっちが勝ちますよ?」


 うっさいわね、知ってるわよ。だからそれをどう突破しようかって考えてるのに。

 耐久力に振ってるって話なら接近戦で銃格闘と銃剣で立ち回って合間に銃弾を叩きこんでダメージ与え、鳳仙花で止めって流れが一番いいか?

 どっちにしろこのまま不意打ちが掛けられない状態なら接近戦した方がまだ勝率は高いと思う。

 しかしそれだと銃剣の付いているウサ銃をメインに使うって事になるし、両手が塞がるから咄嗟にDボアを抜く事が難しい。勿論銃剣の付いた武器じゃないと受けられないって訳じゃないが。


 葉巻を大きめにまた吸ってから紫煙を吐き出しながら、鳳仙花の弾を余裕たっぷりに見せつけながら装填する。

 じゃこっと音を立てて中折れを戻しつつ、葉巻を揺らしてどうするかを考える。


 タンク型に対して相性が良いと言うのは確かだが、ガン待ちで盾受けされるのはやっぱり厳しい。相性が良いと言うのは上手く固定ダメージが入るって条件だったの忘れてたわ。

 モンスター相手だと装備だったり遮蔽物を扱い奴がいないから、ガンガン固定ダメージでごり押せていたが、肉入りの相手だったらそりゃ対処するよね。

 

「私としては此処で耐えるだけで『勝ち』が手に入るのでね」


 どっちにしろ正面で殴り合いするしかないか。

 あんまり接近戦って得意じゃないけど、ゲーム開始していた時よりは楽だろう。


 そういう訳で葉巻を揺らしながら近づいて、10mないくらいの所にまで寄っていく。


「接近戦なんて随分ですね」

「接近戦が出来ないなんて一度でも言ったか?」


 少しだけ口角を上げて顔を横に振ってから、盾と剣を構えてこっちに走りだしてくる。

 重いんだろうなあ、一撃。

 とりあえず盾横からの突き攻撃を盾側に体をずらすことによって避ける。

 結構大きい盾みたいだけど、視界塞がるからあんまりよろしくないんじゃない?現代のシールドだって覗き穴付いてるんだしさ。


 そんな事を思っていたらすぐに一歩踏み込んできてシールドバッシュ。あー、誘われたっぽいな、こりゃ……とりあえず鳳仙花で受け防御して、12ダメージってとこか。


「む、受けるとは中々」


 まだ反射神経は衰えてないと思うんだよ、いや、どっちかって言うとゲームの仕様か。案外思った通りに動けるのはゲームとして素敵だよね。

 それで受けた攻撃で多少後ろにたじろいで体勢を崩したけど、反撃としてDボアを抜いて1射。

 幾ら無理な体勢で撃ったとは言えガンと金属音をさせながら、盾受けしてくるとは……やけに勘が良い気がするんだけど、なんなんだ。

 とは言え撃った衝撃までは吸収できないので、追撃は来なかったので距離を取り、また葉巻を吸い、一息……しようと思っていたらもう吸い切っていたのでぷっと吐き捨てる。


 やっぱり接近戦がきついわ、かといって遠距離で亀作戦されるとそれはそれで厳しい。

 あれ、結構詰んでね?


「手を抜いている、訳ではなさそうですが、私が知ってる限りもっと強かった気が」

「何でこうも私の周りはおしゃべりが多いのやら……」


 とりあえず跳弾を使ってみよう、今まで使う必要も無かったのでどう跳ねるかまでは分からないが、出来る事は全部やってからやられるのも有りだよな。

 いちいちスキル使うのにスキル名叫ぶって対人じゃアウトだよな。 


 また正面にどっしり盾を構えてこっちににじり寄ってくる犬野郎を見据えながら、どこに跳ねさせるかを考える。

 瓦礫はあるから、それを基点にして盾を持っていない方向から撃つのがいいか。そこそこのリアリティがあると言うの考えればある程度硬い所じゃないと跳弾しないんじゃね?


「こっちから行きますよ!」


 って、考えている間にのしのし距離を詰めてくる。もうちょっと考える時間は欲しいってのに。

 流石に剣術はあまり振ってないのか、結構大振りに攻撃してくる。

 さっきは盾の方に行ってしくじったから、剣側の方に避けるのを意識して回避、したら横に振ってくるか。

 勿論だが、それも鳳仙花での銃受けをしたうえで同じようにDボアを抜いて1射。

 「うぐ」っと呻くような声を漏らしたあたり、しっかり直撃したか。


 そのまま剣を銃で受けていたのでさらに押し込まれ、一旦距離を取らされる。タンクとしては一旦距離取ってしっかり正面に私を見据えるって動作が正解すぎてぐうの音もでねえ。

 やっぱり直撃しなきゃ大丈夫ってしっかり理解してやがるな。


「接近戦はしますけど、しっかり1つずつダメージは稼がせてもらいますよ!」


 分かってるっての。

 タンクだから派手にダメージが出るスキルもないって分かってる。

 ってか隙がねえ、あのタワーシールドって確か以前組んだ時に使っていた奴だよな、2人隠れても蝙蝠の奴に攻撃貰わないくらいには隠れられる奴なんだから、そりゃ隙間はないわ。


 さーて、どう攻略するか……。


「私がモンスター側だったら、すげーめんどくさい相手ってのはよくわかったわ」


 そんな事言って距離取りつつ落ち着いてたら跳弾スキルの効果切れ。残りの銃弾数が少ないからあまり

実験的に撃ってミスるって事したくないのになあ。

 

 とりあえず再使用したうえで、鳳仙花を構える。跳弾ってそこまで良いイメージが無いと言うか、発射してる弾がスーパーボールになってるって言われた方がまだ納得するような挙動するのが多いわけだが、これ子弾も全部跳ねるのって所も問題だよな。

 あと自爆ダメージも気になる。爆死した経験と炎上ダメージ貰ったのを考えると跳弾して自分の所に跳ねてきたら普通にダメージ貰うんじゃね?

 

 ……正面に構えてる盾に撃って跳ね返ってこっちに来たら確実に大ダメージだろ。

 かといって跳ねさせるような場所に撃つってのも難しいよな、スキル使ったの失敗してね?


「何を考えてるかわかりませんが、行きますよ!」


 いちいち攻撃するのに宣言するなって、TRPGじゃないんだからさ。

 のしのし近づいてきて、さっきと同じように細かい突き攻撃を繰り出すので、斜め後ろ盾側に体をずらして、またシールドバッシュ。

 もろに食らったので20程のダメージだが、密着している以上剣の振りは来ないので、そのまま盾に体を預けた状態で鳳仙花を構え、犬野郎の後ろにある瓦礫に雑に2射。

 どこ撃ってるんだって顔をしたすぐに、驚いた顔をしてダメージを確認しているのが目に見える。


 でもまあ自爆跳弾が怖いなら他人を盾にすればいいじゃないって結論。

 

 体を預けたままで無理やり盾から後ろにあった瓦礫を撃ったわけだが、追撃でDボアを抜いて、次は直接犬野郎に向けて引き金を絞る。

 

 流石にその攻撃まで入れさせてくれないのか、盾を手放して距離を取り、その銃弾を避ける。

 小癪な奴め。


「盾1枚使わせる辺り、やっぱ私強くね」

 

 手放されて支えの無くなった盾と共に音を立てて倒れ、距離を取った犬野郎と視線が合わさる。

 そんな悔しい顔をするな、面白くなるだろ。


 そしてこう言う所で追撃しないのが甘い所だぞ、倒れたままだが装填スキルで即リロードからの鳳仙花構えて2射。

 直撃だろ、って思ったらもう1枚の盾出して防いできたよ、マジで小癪だな。


 それにしてもやけに持ち替えや構えが速いのを見るに、やっぱり動作を高速化できるようなスキルがあるって事か。そのスキル教えろよ、ほしいわ。


 とりあえず射撃で盾構えさせた間に立ちあがって、Dボアで追撃……するにしても跳弾が怖くて追撃できん。

 やっぱり対モンスター用のスキルを対人に持ち込むのは無理があるって事か。

 効果時間残ってるけど効果を任意終了させてから一息ついてまた対峙。


 二人とも別に速度の速い動きって訳でもないし、連射出来ない銃弾の数ってのもあるから、ちょいちょい仕切り直しが起きるのはしょうがない。

 あのタワーシールドがん構えされたままで走って回り込もうとしても距離詰められて足止められればおわりだし、かといって距離とれば旋回するまでの猶予があるから防がれる。

 相性はいいけど相性は悪いな。


「泥試合にも程があるわ」


 落ちた盾を踏みつつ、拾われないように鳳仙花でさらに追撃。

 金属がぶつかる細かい音をさせるのを見つつ、また素早く銃身を折り、しゅぽんと小気味良い音をさせて薬莢を抜いてから、次の銃弾を入れて銃身を戻すと共に、もう一度追撃。

 ぎゃんぎゃん音なって蹈鞴踏ませるの超楽しい。

 

 で、勿論これもすぐに装填を済ませて腰構えのまま一息。


「大分厳しいですけどね」


 ポーションの割れる音をさせつつ向こうも一息ついている。

 やっぱ完全に泥仕合だわ。


 こっちもポーションを飲んで回復しつつ。生活火魔法で火炎瓶に火を付け、犬野郎の少し後ろに投げ、燃え上がる前にDボアを抜いて2発。

 盾構えのままで耐えているので走りこんで思いっきり盾を蹴りこんで燃え上がっている中に突っ込ませる。

 銃格闘ってこういう事で正しくない気がするなあ。


 兎に角相手を押し込み続けて炎上させ続ける方法なので、盾に体と鳳仙花を押し付けたままで焦がしてやる。


 流石にバカにならない炎上ダメージと盾越しの銃撃でも通常ダメージは入ってるだろうから止めは刺せると思うんだが、しぶといな。


 そう思っていたのだが盾の隙間からショートソードが飛び込んできて、思い切り腹部に刺さる。

 ああ、やばい、HPの高さで反撃してきたか……いや、此処で諦めるのは良くない。

 跳弾を使い、さっきと同じように後ろに撃ち、跳弾での跳ね返り追撃させながら、さらに泥試合よ。


 とにかく残ってる銃弾を全部使い切ったうえで耐久ゲームになるとは。


 てか向こうも向こうでがっちり抜けない様に力込めてやがる。

 一撃で30ダメージ入ってる上に、継続ダメージ入りとか言うえげつない状態なんだが。


「此れで、私の勝ちですね!」

「まーねー……まあ、私としてはさっきも言った通り目的は達してるし『勝ち』っちゃ『勝ち』なんだけど」

 

 どこぞの黒いバッタが使う、ライトセーバーのような杖みたいに押し込んでからさらに力いれてるな。

 火花が散ったり爆散しないからいいけど、分かる人には分かるあの一動作。

 

 それにしても、勝ったと思って止めを刺さないってのはダメじゃないか。しっかり最後までキルを取るって大事なんだぞ?

 余裕たっぷりに獲物の前で講釈垂れる前にきっちりと止めを刺すというのを教えてやらないと駄目だな。きっと紳士だからそういった事も邪道っていうんだろうけどさ。


 全年齢のゲームだから血が出たりなんだりはないけど、自分の腹に剣が刺さってる絵面って中々見ないな。

 いや、それでも矢が刺さったり、骨折したり、データ上では手足が吹っ飛んでるって事にもゲームがあるんだし、そうでもないか。


「まー、置き土産としては十分じゃないかしらね」


 徐々に減っていくHPを見つつ、腹に剣が刺さったままの状態で、最後の葉巻を咥えて火を付ける。

 最後のといった感じに、手を出してこないのは紳士的だが、本当にさっさと止めを刺すべき相手だぞ、私は。


 コートに仕舞って置いた火炎瓶に葉巻から火を付け、あの犬野郎に向かって投げ……ずに、さらに奥で観戦していた犬野郎のクラン員に対して投げ、さらにパイプ爆弾も合わせて投げる。


「1人でやられるのは何か悔しいから、お前のクラン壊滅させてから死ぬわ」


 当たり前だが不意打ちだから殆ど対策出来ずに、炎上ダメージと爆破ダメージで吹っ飛んでいく。

 ざまあみろ。

 絵面的に特撮の怪人に止めを刺した後の爆発みたいな感じだな。やられてるけど。


「その『マジで?』って顔が面白かったから素直に負けを認めてやる」


 何て事をといった顔をしつつ、口をぱくつかせている犬野郎を見て満足気に、にぃーっと笑う。

 そんな顔を見せている間にもゆっくりと減っていたHPなのだが、ついにゲージがすっからかん、0になると共に画面が一気に白くなっていく。


 そうそう、死に戻りする時ってこんな感じなんだよな。

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