72話 決着

 自重を支えられなくなった超魔タンク。

 どうにか倒れて潰される前に逃げる事は出来たが、結局火を付けて爆破するまでの間に時間をかけすぎ、攻撃を受け過ぎたので一旦撤退……と思ったのだが、動けるのが半分ちぎれたゾンビの足を切断しに行くと、勇ましく突っ込んでいった。

 這いずりゾンビって基本的に後ろに回ると何にもできないので、腕の範囲外の所から大きく迂回して足元に行って叩き斬るという至ってシンプルな方法になるわけだが、そっちはそっちでマイカが先導している。

 そして当の私と言えば120gも使った黒色火薬の事ばかり考えている。硝石4個分、ロックラック20体は覚悟しないとダメかな?マジでマイカとチェルに稼がせてやらんと。

 そういう算段をしながら這いずり状態になったゾンビなんてもう消化試合と変わらん。相変わらず派手にぶっ放している前線攻略組にでかいのは譲って残党のゾンビ狩りに勤しむ。

 正直なところ、もっと撃とうと思っていたのだが、銃剣で捌けるので撃つまでも無いというのが正しいわけだが。


「結局トッププレイヤーみたいな事は出来なかったな」


 ポリゴン状に消失していくゾンビを眺めつつ、派手にスキルをぶっ放している所を遠巻きに見つめる。あいつら自分らがやったとか思ってああやってるんだろうな。

 そうしてしばらく、一方的な嬲り状態を見ていると断末魔が響く。どうやら片付いたようだ。



《超魔タンクが撃破されました》

《村への損壊率は0%》

《完全撃破おめでとうございます》



 それにしても私が発見して止めを刺せなかったというのは若干悔しいな。超魔タンクの撃破と共に残党のゾンビも溶けてポリゴン状に消えていく。なんだもうちょっと戦えると思ったのにそうでもないのか。

 辺りの確認を済ませ、安全を確保したらその場に座り込んで大きくため息。ああ、疲れた。結局4日目の朝方の6時まで戦闘が続いたし。

 丸1日余ったけど、どうするんだろうな。時限の計算をしてみたら6日目の9時に終わるわけだが。全員でお祭り騒ぎでもすんのか?


「終わりましたねぇ……」

「あー、楽しかった」


 死に戻り組と追撃組の二組が私の所へと戻ってくる。終わったんだから解散してもいいのに律儀な奴らだよ。あー、そういえば私、着替えてないな……いや、戦闘中もこれだったし、もう着っぱなしでもいいか。

 それにしても何だかんだで結構な大所帯って言うか、30人くらいはいるな。これだけでグループ1割もいるのか、どっから集めてきたのやら。


「ゆっくり刻印スキルあげていくかあ……そういやレベル上がってたな」


 メニューを開いてステータスを改めて確認する。流石に大量のゾンビとボスの経験値が入ったのか2レベル分上がっている。



名前:アカメ 種族:ドラゴニアン


職業:ガンナー

基本Lv:14 職業Lv:15

HP:21/35(2Up) MP:4/16(1Up) 

STR:7(1Up) AGI:15 VIT:2 

DEX:15(1Up) INT:2  RES:2

SP:残6


 

 STRとDEXに1ずつ振って、SPは温存。しばらく自己強化でSP貰えるクエストとか調べて受けてみるかな?刻印スキルも特殊系って言われてたからそっちで消費するかもしれないし。

 って言うか火縄、フリントロック式の着火方法さえできれば刻印いらないんだよなあ……金属式薬莢で雷管まで作れればなおの事、不必要だし。……いつになったら作れるんだろうな。

 そういえば一応メインストーリーとかあるんだっけか、オープンワールド系にしては珍しくそういうのがあるけど、殆ど触れてないし、余った銃弾ってのもおかしい話だが、それなりに動けるようになったからそれを追うのも楽しいかもしれんなあ。


「さーて、どうしようかな……」


 足を放り出して座り込んだまま元に戻った空模様を眺める。日の出の綺麗な空が目の前に広がるのをゆっくり時間を感じながら見るわけだが、こんな風に風景を見て回るってのもいいかもしれん。SS(スクリーンショット)を取るって事をあんまりしない私でもちょっと撮っておこうと思うくらいにはいい景色だ。


「何やってるんですか?」

「あー……まだゲーム始まって3日だけど、生き急いでるなーって思って」

「ゲームなのにですか」

「そうよぉー?」


 声の方へと軽く顔を向けていつものギザ歯をにぃっと見せる。それにしても濃厚な5時間だよ、ゲーム内時間で2週間弱経ってるけど、リアルじゃ3日だし、時間の感覚がずれるよなあ。


「まぁ、ちょっとの付き合いだったけど、よかったわよ、あんた」

「僕は振り回されまくりでしたけど」


 どんちゃん騒ぎをしているマイカや他のプレイヤーを遠巻きに見つめながら隣に座られる。あんだけビビり倒してたのに、フィルターの力ってすげえな。それにしてもタンクと色物に縁があるな、私は。

 

「私以上にあんたの事振り回せる奴なんて後にも先にも私だけよ」

「ですねぇ……初めてV極型でよかったって思いました」

「魔法攻撃こなくてよかったわ」


 に、しても私がリーダーみたいになったのはどうなんだろう、5万プレイヤーのうちの30人だからそこまで大きく目立つことはないだろうけど……と思ったけど話ってのはすぐに広がるし、そもそも率いていた私が見つからないって訳がないよね。

 ただでさえ初期ガンナーってので悪目立ちしてるのになあ。こんな不遇職誰もやってねえって笑われてるのに。


「そういえばアカメさん、レベル12って」

「上がったから14だけどなぁ」

「低すぎると思うんですけど……?僕だってレベル24ですよ?」

「別にレベリングって人それぞれな気もするけど」

「いや、レベルのわりに火力が高いってのが気になって」


 ああ、そりゃ固定ダメージと元の攻撃力の話になるよ、むしろそれも無かったらただの弓の方が強いし、取り得なんだから当たり前だろ。弓職の方が遠距離するには圧倒的に楽だろうけど。


「これでダメージも低かったら不遇とかの前にクソ職まっしぐらよ」

「そうなんですか?」


 そういえば手製銃見て何も思わなかったけど、私もそうだが基本的に他人の装備ってあまり気になるものでもないんだよなあ、多分チェルが使っていたタワーシールドもネームが付いているだろうけど、それを聞いた所で使えないし、興味もない。

 トカゲの奴は生産職としての興味で私の銃に興味を持ったわけだし、そもそもガンナーとして最初に募集を掛けてたから銃を使える、火薬を使えるってのは分かり切ってる事だろうし、今更それどんな銃ですか?って使えない奴が聞いた所で意味はない。そもそも手製銃って言わなきゃ分からん。

 

「今更クソ職だとか、不遇だとか言われた所でやめる気はさらさらないけど」

「結構苦行なんですねぇ」

「まあ、おかげで爆弾作れたり、特殊スキル覚えたりで楽しいわよ」

「あれは流石にやりすぎかと思いますけど……」

「いいでしょ?楽しんでる先の特権よ。エルスタンからエリア2の先に進んだことも無いってのにね」


 自分の事を笑いながら「ふー」っと息を吐き出して朝陽が昇るのをゆっくりと眺める。このままエンディングかよって位すがすがしいな、イベントのエンディングと言えばそうだが。


 そうしてだらっと過ごしているとプレイヤーメールに順位が発表される。


(暫定)

全体グループ1位

全体個人11位

グループ内個人8位


 最後まで撃破してないのに高すぎでしょ。


「あんたは?」

「えっと……全体12位で個人9位ですね」

「ふむ、マイカの奴はもうちょっと高そうね」


 まあ何だかんだで上位に入ってるし、いいだろう。初イベントでここまで戦績残せてるし。これ以上を望まなくてもいいか。


「それにしても目立ったなあ……ひっそりこっそりやれたらよかったのに」

「その恰好は目立ちますよ」


 多少と言うか結構ボロボロになっているキャットスーツを指さされる。何だかんだでこの防御力があったから耐えられた部分もあるし、ゴリマッチョにも礼を言わないとなあ。

 あとはトカゲの奴の所にもいかないといけないし、ガサツエルフの所も顔出して……何だかんだで色んなプレイヤーと関りあっているな。

 

「お礼参りにいかないとなあ」

「それ意味違いますよね」

「そうだっけ?」


 そんなくだらない事を言いながらぐいっと伸びをする。やっぱり前線張ってどうこうするのって性に合わないわ。いつもの銃剣戦闘よりも疲れたよ。

 ゆっくりしようと老人の所に顔出して睡眠でもとるかと思っていたら他プレイヤーに呼び止められる。急になんだよ、お前らは。


「姉御と一緒にいったおかげで順位あがったっす!あざっす!」

「はいはい、よかったよかった」

「役立たずでごめんなさい……」


 30人も面倒見てないのに群がるんじゃないの、誰だ先導した奴は……ってマイカしかいないわけだが。


「ああ、もう鬱陶しい、この役立たず共!」


 手で振り払うが、それがいいとかもっと叱ってとか言いだす。厄介な奴ら引き連れてきたよ。


「リーダーはこいつだから!」

「うぇえ!?」


 チェルの背中を「どん」と押して集まってきたプレイヤー共にけしかける。途端に兄貴コールで沸き始めるのをため息を吐き出しつつ村の外に一度一人離れる

 


「おかえり」

「ただいま」


 相変わらずの不愛想な対応の老人に山菜と肉を渡してからどかっと座る。


「で、どうだった?」

「言わなくても分かるでしょ」

「そうじゃの」


 今日は塩味の鍋らしい。


「次は料理スキルでも上げるか」


 受け取った椀の中に入った汁を啜りながらそんな事を思う。

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