67話 再突入
前日と同じように老人の家に戻り、一旦の仮眠。
流石に深夜の3時、仮眠を取ったらきっちり6時間食らったので3日目の9時になっていた。
プレイヤーメールへの全体と個人順位を確認する。
まさかとは思っていたが、全体グループ順位が上から6番目、全体個人が19位 グループ個人が11位になっている。やはりあそこの屋敷を見つけたという点で順位が上がったのだろうか?イベント自体も進行したのだろうけど、現時点ではまだ起きたばかりだし、これから確認しないと。
『アカメさん!起きてますか!』
『うっさいわね……モーニングコールにはなったわよ』
老人はもう出ているのか、この場にはいないので家の中で眠たい……わけではない目を擦りながら返事をするわけだが、慌てぶりがちょっとおかしい気がする。
『僕たちが踏んだイベントのフラグでまずいことになってますから!とにかく村長の家にきてください!』
『もー……朝から金策しようと思ってたのに』
寝起きのまだエンジンの掛かっていない体を起こして外に出る。
青い空白い雲、眩しい太陽に心地の良い風……なんて物は無く、紫色の空に、暗い太陽、じっとりと張り付くような生ぬるい風。よくもまあこんなことになるもんだな。やっぱり無計画にいきなり突入なんてしなければよかったか?
「すげえ、一気に辛気臭くなったわね……」
「じゃのう……お主何をした?」
外の様子を確認していると横にいつもの老人が立っている。
「そうねぇ……怪しい本拠地を見つけたら、向こうが本気を出してきたって所かしらね」
「……ちゃんといつも通りにするんじゃぞ」
「大変そうだから手伝ってくれない?」
「老人はいたわるもんじゃ」
そう言うと自宅に入りながら、いってらっしゃいと一言。このぐらいの余裕をもってみたいもんだよ。イベント片付けたらまた晩飯のおかずくらい取りにいかないとだめだな。とりあえず村長宅に行ってやるか。
雑貨屋で先にMPポーションを手に入れたかったが、早く早くとせかされていたししょうがない。そこそこのんびりとした足取りで言われた地点に到着。
「で、どうしたの」
「あの空模様見てなんも思わないんですか!?絶対僕たちが」
「あの屋敷に行ったから」と、言いかけた所で手で口を塞ぐ。この辺りのぽろっと言ってしまうクセも直してやらないとだめだな。
『こういう貴重な情報はあまり言うんじゃないの、あんまり目立ちたくないんだから』
『むぅ……すいません……』
『とにかく、あの屋敷を攻略するのがポイントだと思うんだけど』
『ですよねぇ……』
『苦手な物に対してフィルター掛けられるでしょ、それでもだめ?』
『デフォルメでもやっぱり苦手な物は苦手なんですよ』
まあ、それもそうだな、フライとか見たとき嫌悪感でやばかったし。かと言ってデフォルメされたものとかマイルドな演出ってそれはそれで面白くない。最近のゲームも欠損部分黒く塗りつぶしたり、血すら見せないけど、没入感が薄れるからあれ嫌いだわ。
『とにかくメンバーを集めよう。その上で集まる、集まらないに関わらず遅くても今日の深夜には攻略再開だ。私は私で準備を進めるからあんたも準備を進めなさい?』
『苦手な物をこの短時間で克服って……厳しくないですか?』
『頑張るしかないわねぇ、それは』
そういうとその場を離れて、各々の準備を……する前に一応村長に話を聞いてみるか。
「と、言う訳で、村人が失踪しているのはご存じで?」
「そ、そんな事……」
「独り身であまり村人と関わっていないのが狙われたみたいだが、そういうのは?」
「ない……とは言い切れん……」
「あと一つ、村長はこの件に関して関りはないと?」
「こんな空模様になったのも周辺に化け物が出てきたのも初めて見た」
なるほど、事態は把握していたが、そこまで深刻な事態として捉えていなかったというのが正しいのだろう。何にせよこの事態は村としては認識しておらず、ギルドでその事態を把握した……と言った感じの流れなのだろう。とは言えあんまりイベントの裏事情とか気にし過ぎると目の前の事が疎かになるし、この辺りでいいか。
とにかく村長は「村人が失踪するのは知っていた」「原因は知らない」「こういう状況になるのは初めて」なので黒幕だったりするのは違うと思う。だったら最初から自分の家の地下とかに連れ込んで何かしらを行うだろう。
現状の情報から推理を行い、村長宅から出て、この間と同じように露店でのPTメンバーの募集を掛ける。
「PT募集 前衛一人 此方タンク1ガンナー1 コール求む」
と、露店の詳細部分に書いておいてその場を離れる。
多分だが、他のプレイヤーも私が起こした爆発だったり、自力で屋敷を探し当てたのはいるはずだ。そもそもこの空模様に気が付かないって奴はいないだろう、気が付いてないなら相当の馬鹿か鈍感なだけだ。
「さーて……金策してMPポーションの代金稼ぐかな」
こんな気味の悪い空になってもラビットはぴょこぴょこと飛び跳ねて、私に肉を献上してくれる。とは言え、違ってくるのは一つだけあって、この悪い空気のせいでアクティブ化していると言う事だろう。
「探す手間が省けるってのは良いんだけどね」
飛び掛かってくるラビットを斬り倒して、一息。とりあえずMP下級ポーション4本分の肉を確保完了。アクティブ化してからさらにドロップ率が上がった気がする。そもそもT2Wにおけるアクティブモンスターはノンアクティブよりもドロップ率が高い傾向があると思う。あくまで経験則だが。
「と……良いタイミングだよ」
ピコンピコンとSEが鳴る。どうやら露店の詳細を見た奴がコールしてきたようだ。
『で、前衛なんだろうね?』
自分の思い通りに事が進んでいると笑みが零れるよ。にぃーっとギザ歯を見せる笑顔を浮かべながら村に戻りつつ対応を続ける。
もうちょっと頑張らないと行けないってのは自分でも分かっている。
タンクとしてと言うか、男としてもうちょっとしっかりするべきだってのは分かっている。
「あんな人だとは思わなかったけど……」
ぐいぐい押してくるし、物怖じしないし、カッコいいけど……やる事、無茶苦茶で上からがんがん物言ってくるのだけイメージと違った。
「苦手生物のフィルターレベル上げて、ちょっとでも頑張れるようにして……」
攻撃するのは苦手だし、その手の装備は一個もないので持ってる盾でどうにかしないといけないし、これが自分の売りだってのも理解してる。T2Wにおけるダメージ表現はリアルでちゃんと振動が起きたり電流が流れるようなピリッとした感じがあると言われていたのでV極型にして痛くない様にしたけど、思っていたほど痛くなかった。
だけど、途中からステ振りを変えると中途半端になりそうだし、だったら突き詰めていった方がぶれないし、そもそも攻撃苦手だし。
「……全部おんぶにだっこってのもちょっと悔しいもんね」
単純に隣で戦っていて分かったのは、ずっと期待してくれているし、頼りにされている。じゃないと背中預けてくれないし、どうでもいい相手ならあれだけ言って来ないよね。
「それにしてもあの防具どこから調達したんだろう」
って言うかあの防具、優秀なんだろうけど、直視したら悪い気がするけど、かっこいいから見ちゃうけど、あまりじろじろ見るのも失礼な気がする。……イケメン長身美人のああいう格好って見ない方が難しいよ、もう。
「うん、頑張ろう!」
アイテムの整理をしてHPポーションを出しやすい所に配置、盾もいつも使っているタワーシールドじゃない、小さい物も用意しておく。さっきみたいに一つの盾じゃ、何かあった時の対応が出来ないのは悪いし、やっぱりアカメさんみたいに臨機応変に動けるのは理想的だもんね。
『相手は死霊系だけど問題ない?』
『爬虫類じゃなきゃ大丈夫!』
『私ドラゴニアンだけど』
『あ、えっと、蛇じゃなかったら、大丈夫!』
『ふむ……得物は?』
『格闘術です!』
『ゾンビ相手に戦えるならいいわよ』
『だ、大丈夫……!』
『分かったわ、それじゃあ村の西側に3時間後、もう1人のタンクとそっちに集合するわ』
『分かりました!』
ぷつっとそれでコールが切れる。まさかの格闘系とは思わなかったけど、それでも大事な前衛戦闘職だから問題ないだろう。
『いる?』
『あっ、はい、何ですか!』
『3時間後、村の西に集合、夜まで待ったらやばそうだし、他のプレイヤーも来るだろうからさっさと突破するわよ』
『前衛の人来たんですか?』
『そういう事。それじゃあ私も作業と準備するから、後でね』
『はいー!』
PT会話を終わらせてからインベントリを開いて現状をもう一度確認する。
【装填】のアクティブスキルの備考が気になった。さっき使った時は紙薬莢の3g弾がたまたま2発分あったから大丈夫だったが、普通に火薬を入れてくず鉄玉の装填だったらどうなるのか試しておかないと。
会話の為に一旦村の中に入ってたが一度外に出る。とりあえず他のプレイヤーがいないのを確認してから3gの黒色火薬、くず鉄玉を装填する。流石SLv5だよ、火薬とくず鉄玉を入れるまでの動作が非常にスムーズ、しかも何度か押し込む動作も一発で完了する。
「やっぱ上げておいてよかったなあ、先込めってどうしても手間が掛かるし」
適当にその辺の木に狙いを付けていつもよりも軽く引き金を絞って発砲。【装填】のアクティブスキルを使用する、が。
『装填不備を起こしました。アクティブスキル【装填】が発動されません』
ふむ……こうなってくると一つのアイテムとして存在しているというのがトリガーになるのかもしれない。言ってしまえば現状だと「火薬」と「玉」の2種を自分の分量で入れて詰めているから別々の2アイテムを使っていると言う訳だ。だったら簡単だ。
紙薬莢型の先込め専用銃弾を作ればいいだけ。燃焼しやすくした油紙はまだあるので5g弾をあるだけ作る。既に1発分作っていたのでMPさえ切れなければこれで6発連射出来るわけだし。
「直前に発射した同様の物って事がポイントだったか。2g弾撃った時も特にダメージとかは変わらなかったし、流石に故障はしない……かな」
とにかくこれで私としての準備は整ったわけだし、パッシブだけの効果でも装填速度はかなり速くなってるから、先込め連射は切り札みたいなもんだ。
そうして武器とアイテムの準備は整ったので、露店を回収した後に老人の所に余った肉と山菜をもって帰る。
「おかえり」
「ただいま」
最初に振舞ってもらった味噌鍋の様なものを食べ進め予定の時間になるまで会話も無く食事をし、家でゆっくりとする。そうして集合時間として言った3時間の少し前に家から出る。
「行くのか」
「そうよ」
「頑張れよ」
老人の言葉を背中に受けながら移動しつつキャットスーツを装備し、コートを羽織る。
そして集合場所でもある村の西に時間ぴったりに到着する。
「集まったわね」
「はい」
「よろしくお願いします!」
茶髪の中肉中背、普通のヒューマンの女の子が元気よく頭を下げている。どうやらこの子がコールしてきたので間違いないだろう。
「私はアカメ、そいつは」
「チェルシーです」
「あたしはマイカ!」
ガントレットに鉄板入りのブーツ?を履いているのを見るとがっつり格闘系の戦闘職だろう。服装も格闘家と言った感じのノースリーブの上着にだぼっとしたカンフーパンツだ。そんな目の前のカンフー少女にPT申請を送り、それを承認させる。
『これからやる事を説明しながら移動するわ』
『はい!』
『えっと、PT会話はこうして……』
これから村人が消えた屋敷に行くこと、中を探索と殲滅をする事、村人の捜索をする事を説明しながら屋敷の道を辿っていく。マップマーカーは打っているので問題なく近づける……と思っていたのだが。
『まさか外に溢れてるとはね』
『うっ、でも屋敷の周りだけですし……突破します?』
『うぇー、ゾンビって初めて見た』
『チェルシーを前にしてハラスメントブロックを使って押して加速、多分屋敷の入口は開いてると思うから一気に中に入るわよ』
二人が頷いて、チェルシーを前に三角形のフォーメーションになってから背中に手を当てぐいっと押すと、ハラスメントブロックの反発で移動速度を無理やりあげ、体勢を支えたままで一気に屋敷の中へ。
吹っ飛ばした床はそのままでぽっかりと穴も開いたままだが、階段の下からもうめき声が聞こえる。……これ私がやってなかったら溢れなかったんだろうな。
『行くわよ』
『はい!』
『頑張るぞー!』
保護者じゃねえんだぞ、私は。
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