66話 ルール2 二度撃ち
『前進んでねーぞー』
近づいてきたスケルトンに銃撃。頭蓋骨を吹っ飛ばし、そのままがしゃんと倒ればらばらになる様を見つつ、3g弾を装填し直してからMP下級ポーションを飲んで回復しておく。
グラム数で火力が変わると思ったが、そもそもの固定ダメージは変わらないので弾速の部分だけが違う?やっぱりこの辺はもうちょっと検証を重ねておいても良かった気がする。頭蓋骨自体は固定ダメージでバラバラになったみたいだし。
『さっさとなぎ倒して前行かないと、私すぐやられるんだけど?』
『い、いまやってます、やってますからぁ!』
泣き叫ぶ声をさせながら何度も盾をぶつけている音はしているが、あまり先には進んでいるわけではない。今までその重装備で結構機敏に動いていたのだから動けないって事じゃないだろうけど。ともかくハラスメントブロック越しにも背中をばしばしと叩いて先に進ませるのを促す。
『……死に戻りしていい?』
『ひ、ひとりにしないでくださいよぉ!』
『ビビッてたら結局そうなりそうだけど』
私の方にもやってきたゾンビを銃剣で突き、そのまま蹴り飛ばす。よたよたと後ろに後退して上半身をぐらぐらと揺らす。おー、すげえ、オーソドックスな動きの遅いゾンビだ。最近じゃ走ってきたりとか機敏な奴も多いっていうのに。
『すげえな、今時オーソドックスなゾンビだぞ』
『知らないですよそんなことぉ!』
『だったらうだうだいってないで突破しなさいよ、ああ後ろ詰まってきた』
発破を掛けながら泣き言と共に入口の方へとぐいぐいと背中で押して先に進ませる。足が竦むのもわかるし、まさかホラーになるとは思ってないからビビり倒すのもしょうがないってのは分かるけど、それにしても先に進めない程かね。
『ちょっと、マジで早く進まないと私もやばいんだけど?』
『うー……!うー……!』
迫りくる死霊軍団を銃剣で受け、蹴り飛ばして距離を取る。こんな所で火薬と玉使いたくないんだから。
『タンクなら気合入れて盾構えて突っ込みなさいよ!』
『わかりましたよ!』
背中でぐいぐいと押しているとその圧が急に無くなる。やっと覚悟を決めて前にでるようになったか、迫り来ていたゾンビを押し除けてすぐに入口へと走り出す。それにしてもこのゾンビのビジュアル中々に良いな、最近はゾンビ物の映画も造形がリアルになったが展開がマンネリになっているから色々工夫を凝らしてくるよね。歩く死とかもう人間関係ばっかりでシーズン増やすのやめりゃいいのに。
『走るゾンビって言われたら私は映画よりもゲームの方なのよねえ』
『なんの話ですか!?』
『私が一番楽しいって感じたゾンビ物の話、いやー、はまったなあ、1作目は輸入版しかないのに日本語標準装備だったりしてね、ちょっと欠損あるくらいで発禁とか……』
そんな事を思い出しながらパイプライフルで殴って突き飛ばす。あ、そういえばこういう動作もあったなあ、確か2作目からはクールタイム実装されて難易度上がったんだよね。個人的には2作目よりも1作目の方が面白かったっていう珍しいゲームだったなあ……閑話休題。
『よしっ、突破したぁ!』
『いい子ねぇ、そのまま走って階段までいくわよ』
『はい!』
ちょっとは根性出てきたんじゃない?そんなに速いわけではないが、この遅いゾンビやらスケルトン程度なら軽く引き離せる。死霊系は総じて移動速度が遅いのがいいね。機敏な奴は上級種族扱いされている事多いし。
『なんかでかいのが待ち構えているんですけどー!』
『そのまま構えて突っ込め!』
どしどし歩いているチェルシーの後ろで盾越しに相手見てから、メニューを開いてスキルのレベルアップを図る。どうせ上げる予定だったんだ、ここで上げてしまおう。残っていたSP6を全部使い、装填をLv5まで一気に上げる。
スキル名:装填 レベル:5(最大)
詳細:【パッシブ】装填速度が非常に速くなる
:【アクティブ】【MP消費5】銃カテゴリの装填を即時完了させる
備考:直前に発射した同様の物が装填される 無い場合はMP消費せず不発に終わる
またMP消費系のアクティブが増えたよ、装填速度の検証は後にしておいて、とりあえず脱出をするため、目の前にいる奴の対応としての先行投資だ。
で、そのでかいのだが、何だろうな。とりあえずでかいゾンビと言った感じで、大きさ的には2m弱って所だろうか。動作的にはそこまで素早くはない。ちょっと違うとしたら一つ目って所かな?サイクロプスとかギガンテスとか言われるような奴。勿論腐っている。
「意外とファンタジーの王道な相手じゃない……ぶつけて動き止めたら2回攻撃するから、怯んだらごり押して逃げるわよ、いいわね」
「はいー!」
がしゃんと大きい音を立てると共に一つ目巨人にぶつかるが、流石にしっかりしているのか体勢は崩せないし、がっちり盾を抑えられる。V極型だからそもそもダメージは期待してなかったし、重量的な部分で少しは押せると思ったがびくともしないとは。
まあそれくらいは体格差があるから無理とは思っていたよ、大体こういうゾンビ系の敵ってのは、耐久がやたらと脆い割に数が多いか、のろくて高耐久のどっちかだが。
最近多い機敏なタイプだと低耐久高火力が多いかな?どっちかっていうとあれは数で攻めてくることの方が多いか。
「ちょっと我慢しなさい」
ハラスメントブロックを駆使して、チェルシーの肩を足場に、駆け上がり、タワーシールドに片足を掛けた状態にしてからパイプライフルを構え、すぐに照準を合わせて目を狙う。
「早くしないと、押されますよ!」
「いいから」
こういう時に焦って撃つのは二流だ。いつもの様に落ち着いて、息を吐き出してから引き金を絞る。いつもの銃声と言うか爆発音が響くと共に、一つ目ゾンビの目を潰す。
悲痛な叫び声と言うか、声にならない叫び声を上げながらも動きはいまだ止まらない。チェルシーの盾をぐいぐいと引き剥がそうとしているのは変わらない。やっぱりゾンビ系ってのは耐久力が高いのがうりだよ。
そのまま体勢を変えずに片足をタワーシールドに乗せたままで装填のスキルを使用する。
発動と同時に構えた状態のパイプライフルを一度縦に一回転させる動作が勝手に組み込まれる。凄い無駄な魅せスキルな感じ強くない?
そして一回転して同じ構えに戻り、さっきと同じように息を吐き出して引き金を絞ると、さっきと同じような爆発音と共に、2発目のくず鉄玉が一つ目ゾンビの頭に鮮血を飛び散らせる。
「いけいけいけ!」
「りょー!」
流石に2発も頭にぶち込んだら体勢を崩す。ゾンビ系だとしても無敵ではないだろうし、これだけダメージを与えれば多少なりと隙ができるだろう。
その様子を見てすぐさま降りてからチェルシーの背中をぐいぐいと押す。その押されている本人は盾に密着し、相手に一度盾を押し込んで横に隙間を作り、その盾を支点としてぐるりと体を回転させ横にすり抜ける。結構器用な事やってくれるじゃない。
「よぉーし、やりゃあ出来るじゃねえか!」
「はいー!」
そのままの勢いで階段を駆け上がり、屋敷の入口にまでシールドバッシュでぶち抜いて脱出。すぐさまに入口を閉めて、真っすぐに駆け降りる。
余計な事して追撃されるよりはこのまま下山しきって村で一度プレイヤーなり、NPCに事情を話して再突入するのが最善だろう。とは言え、突入自体がキーになっているとはこの時は何一つ思っていなかったわけだが。
「ふう、ふう……あの強制装填は私にはきつすぎる……」
「フルダイブのホラーって強烈……」
下山しきって膝に手を付いてぜいぜいと息を吐き出す。肉体的には別に疲れていないが、やってしまうのが人の性というものだ。
最初に追跡断念した地点まで走りきったわけだが、歩いて20分の距離だからそこそこ遠かったわ。
「つーか、ガンナー不遇すぎじゃねえの……MP消費ばっかり食らうし……」
火刻印を使う着火方法だからさっきの組み合わせコンボだけでも11MPも使う結構な大技だよ。これだけ使ったらもっと強い魔法攻撃とか出来そうだし。……って言うかそもそも固定ダメージで高火力命中だから、その兼ね合いが全体的に重すぎる。
「先込めとの相性が悪いのか、良いのかわからないけど、MP下級ポーションも量産できるようにしないとなあ……」
メモ帳を開いてやる事の一つとして追加で書き込みながら、チェルシーの様子を見る。まだそこまで落ち着いてはいないが中にいる時よりはまだマシになっている。
「それでイベント、ホラー関係で確定だけど大丈夫なの?」
「ギブアップしたいですよ……」
「それは困るわね……結構あてにしてんだから」
何気なく言った一言で、ちょっとだけ目つきが変わった気がする。なんだ、覚悟の一つや二つ決めたのか?
「とにかく、あと3日……じゃないな、2日目の深夜に来たからもう3日目に入ってるのか」
「とりあえず村戻って睡眠取ってからもう一人くらいPTメンバー募集しませんか?」
「そうね……あと一発撃ったらガス欠だったし、攻撃役は欲しいわ……露店出して様子見するかな」
キャットスーツからローブに切り替えて村の方へと歩き出す。それを見たのかチェルシーもアーマーを装備解除したうえで付いてくる。ホラーじゃない限りは結構信頼できるタンクではあるんだけどなあ。
「追跡と場所判明は終わっているから昼間からでも行けるし、準備が終わったらPT会話で連絡、それでいい?」
「僕はHP回復さえできれば大丈夫ですし、あのビジュアルさえ我慢できればいつでも」
「頼りにしているわよ、メインタンク」
とにかくMP下級ポーションをもう少し確保しておかないと連射もままならん。後は装填の効果確認も次の突入前に確かめておかないと。
ああー、やる事増えて大変だなー。
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