54話 さらば愛しきものよ

 鍛冶クランを出てどうするかと思案。

 一応ゲーム内でも公式のお知らせ自体は確認する事が出来るが、あまり世界観を壊してはいけないためかメニューの結構深い所まで行かないとみる事が出来ない。

 ……なるほど、リアルタイムでゲーム開始3日目の土曜18時からイベント開催と書いてある。で拘束時間が5時間、イベント専用マップでのゲーム内時間は5日間になる。1時間で24時間ってすげえ早く感じるけど、やってるとそこまで気にならない。イベント詳細は特に記載されていないのでレイド系のボスなのか、それとも協力系なのかまでは書いてはいない。

 

「初回イベントだし、協力系だとは思うんだけどなぁ……いきなり対立するようなのはないと思うが」


 そもそも自分自身が戦力外通告なので寄生プレイまっしぐらだ。早急に戦力を上げておかないと。とりあえず今がリアル20時なのであと22時間ある。ただ流石に休みとは言えぶっ続けでやるのは体力的にきつくなる。長時間ログインは健康を損なう恐れがあるので一定時間ごとにログアウトして休憩をはさむのを推奨しているし、なにより私が持たないので6時間程度はしっかり寝ておきたい。

 そうなってくると残り16時間、飯やら風呂やらを済ませるとして昼夜で2時間、イベント開始前の待機や準備を考えると更に1時間掛かるとして残り13時間、不意の時間経過を考えて1時間さらに掛かるとして12時間。

 当初の計画ではじっくり進めようと思っていたのに、イベント参戦の方向でまた予定が狂った気がする。


「とりあえず刻印は後回しにして、火薬の量産と銃の改良、防具の用意ね」


 事前に書いてあった計画をメニューから確認してイベント参加の方針へと切り替える。寄り道や検証は後回しだ。イベント報酬とかは取っておくに越したことはない。それにしてもだいぶ計画破綻っていうか修正してるな。


1:パイプ銃の改良

2:黒色火薬の量産

3:防具の新調


 とりあえずこの3項目さえできればイベント準備は完了だ。公式サイトなんてアップデートとかする時以外見ることないからなおさら見落としていた。FPS系のゲームじゃ一回のアプデで産廃になったり強武器になったり、振り幅がアホ過ぎて運営に振り回されることが多かったというのに。それと逆にMMORPGのは自分と関係ない所のものやエンドコンテンツばっかり増えて延命処置が多いから、その所まで行かないと確認しない。この二つの差って大きいな。

 

「さて、とりあえずパイプ銃の改良を考えるか」


 そういっても基本的には安定化と照準さえどうにかすればいい、やる事は基本的に鍛冶と木工の組み合わせだが、以前と違いガンスミスのスキルを持っている訳だから多少なりと変化が起きるだろう。

 なのでここは一気にガンスミスのSLvを上げる方針で決定だ。幸いSPには余裕があるし、今後の事も考えていけば戦闘術よりもあげる優先度は高い。ポイントがあるからと何でもかんでも上げまくるというのは悪手だ。

 さくさくっとガンスミスのSLvを2つ上げる。



スキル名:ガンスミス レベル:3

詳細:【特殊生産スキル】

【パッシブ】

1:カテゴリー「銃」及び銃弾の製造の際に一定の品質補正が掛かる

2:銃破損から銃故障へと置き換わる

【アクティブ】

1:カテゴリー「銃」の修理が可能になる レベル上昇により修理時の成功率上昇

備考:修理の際には一定の材料が必要 レベル上昇により修理時の使用材料の減少

2:カテゴリー「銃」の分解が可能になる レベル上昇により破損確率減少


 

 なるほど、分解が出来るようになったのか。とは言え後半の破損確率というのは引っかかるが、まあいいだろう。多分だがパイプ銃であれば危ないのは針金と木工パーツだ。ばらすときに壊しそうな部分というだけでの予想だが。

 残りSPは6、上げるとしたら先込式のデメリットである装填か銃格闘を1つ上げておくと言った所だろうか。残しておいて、不足を感じた場合にあげても遅くはないが……銃格闘が有効な相手としてコボルトしか遭遇していなかったし、連射できる拳銃が無いのであまりメリットはないか。



 そう言う訳で早速ガンスミスの効果を試してみたいと思ったのだが、考えてみればなるべくばれない様に鍛冶をしたり製造したりって難易度高くないか?テンション高いままで錬金で自爆騒ぎ起こしたり、鍛冶ギルドで思い切り叫びあげたりしたし、結構やばい事してない?

 イベント終わったらマイハウス関連調べておこう、足りない金は情報クランに高値で情報売りつけて自宅買わせてやるのもいいかもしれんし。……まあどうせやらなきゃならないからいつも通り鍛冶ギルドの生産施設の片隅にやってくるわけだが。


「とりあえず早速使って、照準作れるかやってみるか」

『パイプ銃を分解しますか?』


 作業台にパイプ銃を置いてから、ガンスミスのスキルを選択、分解からパイプ銃を選ぶと「Yes/No」の選択がさらに出てくるので、このまま「Yes」を押す。そうしていつものゲーム処理で光に包まれ、それが収まると、各パーツごとになった元パイプ銃が作業台に置かれている。針金だけは消失していた。巻いて固定していただけだから処理的に切断されたと言う事なのだろう。

 刻印された鉄パイプと木工は問題なく使えるが、木工パーツも破棄だな。そういえばアイテムは集めたそばからインベントリにがんがん突っ込んでるが、一応削除も可能だ。流石に「コ」の字型にしただけの木工パーツじゃブレも大きくなる。せめて内側を丸くして安定度を上げたい。ついでにもう少し延長もさせて腋で締めたい。もう短銃じゃないな、これ。


「よくよく考えれば短銃は接近戦での威力を重視してるから、ある程度距離取って一撃、装填してから接近戦の流れでいけば、長銃化は確実にいるよなあ」


 銃身の長さは鉄パイプ基準だがそれでもまあ30㎝程度はある。火薬を詰めたり底を潰してるのを考えればもう少し実際の長さは短いだろう。しかしポイントはそこではなく今のうちに銃床部分を完成させれば銃身の付け替えでいろいろと幅が出るはずだ。

 銃の製造する際に分かったと言うか、理解したというか、銃身と銃床を固定してしまえばある程度はゲーム処理でいい感じに出来上がるのは実証済みだ。細かい所まで厳密にしていったらまともに銃なんて作れないわけだし。

 とにかく今は照準を作ってただの鉄パイプから銃身に強化しよう。

 

 ……さて、ここからどうやって照準を作るかという話になるのだが、こればっかりは調べても出てこないわけだし、オリジナル方法でやろう、多分できるだろ。私の考えで作っているので現代でどうやるのかはしらんがそのうちぽろっと作れるようになると思っておきたい。

 とりあえず照星と照門を合わせるアイアンサイト型でいこう。凹部分に重ねるあれだ。

 

 銃口部分の上下に切り口をまず入れ、同じように反対側に1か所だけ切り口を軽く入れ、切り口部分に引っかかる様に糸を這わしていく。この際、目印が付くように木炭で糸を黒くしておく、これくらいなら木炭自体は消費されなかった、そのうちチョークでも作りたい。

 炭で黒くしたうえで上下の糸をしっかりと固定しぴんと糸が張ったら数回糸を持ち上げて銃身自体に炭を付ける。現実でも大工が墨壺というのを使って線を引いているが、あれと一緒だ。

 何度か糸を打ち付け印が付いたら糸を外し、サイト部分を付けていく訳だが、此処が問題になる。


「とりあえず処理を選んで作ってみる?結構怖いけど」


 鉄延べ棒を消費して銃口の付近に縦型の照星、そのまま真っすぐ底側の方に凹型の照門を付ける。やっぱゲームってすげえわ、ガンスミスの効果かもしれないが、溶接加工されてるよ、すげえや。


「やればできるもんねぇ……ちょーっと歪だけどご愛敬」



名称:銃身(質2)

詳細:照準の付いた鉄パイプ、火刻印済み



 照準が合う様に銃身の後ろから狙いを付けてみる、案外真っすぐになったんじゃない?悪い感じはないし、初めての割には出来がいいよ、これ。もう一回鉄パイプに刻印して初めから作るって覚悟をしてただけあって、結構な時短になったんじゃない?


 で、次は木工パーツの部分なんだけど、これが問題になる。照準の時と一緒で凹型の木材を作ってそれにはめ込むわけだが、ここも試作品と銃身のすり合わせをしていくが、まあ多分行けるだろ。だってパイプ銃でも針金固定でばらばらにならなかったわけだし?


 しかしそれでも時間が掛かるわけで、完成型があれば見様見真似で……待てよ?

 1から全部作るんだから時間が掛かるわけで、完成品があれば分解からの製造で銃身の付け替えが出来るわけじゃないか。

 

「これも一つの覚悟か……まあ流用はできそうだし、無駄になるわけじゃない」


 メニューを開き、さっきと同じようにガンスミスからアイテムを選択しどんどんと操作を進めていき、最後の工程で手を一旦止める。




『M2ラビットを分解しますか?』

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