今回の古典:紫式部『源氏物語』「蛍」
(抜粋)
殿もこなたかなたにかかる物どもの散りつつ、御目に離れねば、「あなむつかし。女こそ物うるさがらず、人に
【現代語訳】
殿さまも、あちらでもこちらでもこのような絵物語がいろいろ散らばっていて終始お目につくので、「ええうるさい。女って、面倒がらず、人に騙されるように生まれついているのだな。たくさんの絵物語のなかに、真実はごく少ないだろうに、そうと知りながら、こうしたつまらないことに気を取られ、たぶらかされなさって、暑苦しい五月雨に髪の乱れるのもかまわないで、お書きになっていらっしゃる」と、お笑いなさるものの、また「こんな
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平安時代、
本作「序章(中)」のタイトルは、「蛍」のなかにある「長雨、例の年よりもいたくして、晴るる方なくつれづれなれば、御方々
この絵物語というのは、挿絵のある物語のことだろうか。
しかし、その直後「こちなくも聞えおとしてけるかな(失礼にも物語の悪口を申しました)」と反省した光源氏は、すぐに「深きこと浅きことのけぢめこそあらめ、ひたぶるに
また、この発言の直前に光源氏は「神代より世にあることを記し置きけるなるる『日本紀』などはただかたそばぞかし。これらにこそ道々しくくはしき事はあらめ(神代から世にあることを記しておいたという『日本紀』などは、実は、人生のほんの片はしのことが書いてあるだけで、数々の物語のほうにこそ人生の真実や詳しいことは書いてあるのでしょう)」と言っているが、これは紫式部自身が経験したことを反映しているのかもしれない。
当時の学問の世界で重んじられていた『日本書紀』に対して、こういう批評を下すことは、かなりの勇気がいることだったはずである。これは作者・紫式部自身の「物語」にかける意気込みを表明した文章だと言えるだろう。生きていく上で「心に
紫式部が書いた日記によれば、「うちの上の、源氏の物語、人に読ませたまひつつ聞こしめしけるに、『この人は、
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参考文献:
☆角川ソフィア文庫『源氏物語 第五巻 螢~藤裏葉』訳注:
☆岩波文庫『源氏物語 四』校注:
☆新潮社『新潮日本古典集成(第三五回) 紫式部日記・紫式部集』校注:
☆角川文庫ソフィア『新版 枕草子 下巻』訳注:
☆岩波現代文庫『源氏物語』著:
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