その七

?』


 俺はわざと彼に怪訝けげんそうな口調で言った。

彼は煙草を咥えて火をつけ、それを察したかのように笑みを浮かべる。


『あんたも探偵なんかでメシを喰っているんだ。想像がつくだろう。』


 すると、ドアの向こう側が、何やら騒がしくなった。


『親分、サツが来ましたぜ』


 彼はゆっくりと煙草を灰にすると、灰皿にねじつけ、ゆっくりとソファから立ち上がり、


『来たか・・・・じゃ、頼むぜ。探偵さん』


 ポケットに両手を突っ込んだまま彼は立ち上がり、広間の方に出て行った。


 広間には腕章をつけ、略帽姿の私服と制服警官が、組員と押し問答をしている。


『騒ぐな!』


 鋭く、それでいて低く、切るような声が瞬の口から出ると、それまで騒いでいた組員が押し黙る。


『鬼丸瞬だな?凶器準備集合罪並びに結集罪の容疑で逮捕状が出ている』


 略帽姿の私服が逮捕令状を彼の前にかざして見せる。


 瞬は『わざわざどうも』と、低い声で言い、両手を組み合わせ、彼らの前に突き出した。


 銀色の手錠が腕にはめられると、また組員たちが騒ぎ出そうとしたが、今度は若頭が手を挙げて制する。


『よお、探偵屋じゃないか?!』


 警官おまわりの中に顔見知りがいた。この間の松井刑事である。(何でも神奈川県警と警視庁さくらだもんの合同捜査らしい)


『やあ』


 俺は知らん顔を装って素っ気ない声を出す。


『なんだ。お前さんやっぱり来ていたのか?ついでに話を聞きたいといったら、ご同道願えるかね?』


『任意だろう?なら断る。俺は自分の仕事でここに来たに過ぎん。』俺が答えると、彼は苦い顔をして唇をへの字に曲げた。

 別の警官が捜索差押令状がさじょうを示して、一斉に事務所内の捜索を始めた。


 結局捜索の末に出てきたのは日本刀四振と短刀ドスが三口、それにブリキの玩具みたいな改造拳銃が三丁だけだった。


 俺は要件を済ませてさっさと出ようと思ったが、警官おまわりってのは頭が固いもんだ。

『規則だから』と、椅子に座らせて外に出してくれなかった。


 やっと捜索が終わり、俺が外に出た時、手錠を掛けられた鬼丸瞬組長が警官に背中を押されてパトカーに乗り込むところだった。


『探偵さん・・・・彼女にはありのままを伝えてくれよ。』


 俺の方を首だけ向け、それだけ告げると、警官に促されて車中の人となり、そのまま走り出した。


 後でさっきの刑事・・・・松井巡査部長が俺に話してくれたところによると、対立していた元の若頭補佐も逮捕されたという。


『まあ、大したものも出て来なかったし、それにまだ本格的なは始まっちゃいないからな。執行猶予はつかないにしても、実刑五年から七年くらいがいいところだろう。奴らにとっては痛くも痒くもないさ』


 警察としては、事前に血の雨が降ることを避けたかったんだろう。


 俺はため息をひとつつき、シナモンスティックを咥えながら、車列が消えるまで見送った。



 


 



 

 


 


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