第283話『自然体・2』
魔法少女マヂカ
283『自然体・2』語り手:マヂカ
自然体が一番
オブジェクトには、そっけない文字が、仄かに光って浮かんでいる。
「「「なんだ、これは?」」」
「あ、もう綾香ネエに戻ったほうがいい、リアルみたいだから」
「「「あ、そうか」
言い始めの「「「あ」」」は三つ頭のケルベロスだったけど、「そうか」のところでは、こっちのリアル世界の綾香ネエに戻っているケルベロス。
「でも、なんだろうね『工事中』とか書いてあると納得なんだけど『自然体が一番』てのはイミフよね」
「さっきの、自然体がどうのこうのって、二人の話……聞かれてた?」
「だれに?」
…………!?
同時に危険を感じて、飛び退る!
魔法少女の反射神経なので、お互い二十メートルも後ろの向かい合ったビルとマンションの屋上まで飛んだ。
オブジェクトがホワホワ点滅して――ゲ、爆発するか!?――と身構えたけど、点滅の末に現れたのはフォントサイズを二つほど上げた、二文字の固有名詞だ。
魔王
「ん? どこかのキャバクラの看板?」
「クラブ『魔王』?」
『馬鹿者めが!』
骨伝導イヤホンめいた声が響いたかと思うと、二つのビルの間、道路の上20メートルのところに腕組みした魔王が現れた。
「「魔王!?」」
同じ「魔王!?」だけども、綾香ネエの方は微妙にトゲがある。わたしにとっては制度上の上司に過ぎないが、綾香ネエのケルベロスには直属の、言ってみれば『ご主人と飼い犬』、親しい分だけ、感情が剥き出し。いや、日ごろからカチンとくることが多いのかもしれない。
『いささか苦労しておるようだから、儂の方から出向いてやったぞ』
「たった今、魔王府に向かっておりました」」」
綾香ネエは、再びケルベロスの姿に戻って返答するが、頭の方は綾香ネエの声だ。
『落ち着いて話せ、ケルベロスよ』
「はい、では、これで」」「いかがでしょう」」」「「「いや、こっちか?」
『ちょっと、気持ち悪いぞ』
胴体が綾香ネエで、首がケルベロス……胴体がケルベロスで、首二つが綾香ネエ一つがケルベロス……ちょっと混乱して来ている。
「あ、あれえ(;'∀')」」」
『どうも重症であるなあ……地獄城に入れなくてよかったぞ。そのように混乱した状態では、地獄の獄卒どもに示しがつかん』
「こないだも、位相変換して部屋を大きくしたり、無理してましたからね。しばらく、地獄病院で療養した方がいいかもしれませんねえ」
『本当は、今回の敵と戦ううえで、肝要なのは自然体がもっとも大事と思ってな。それを伝えようと思ったのだ。マジカにとっての自然体、ケルベロスの自然体、そして敵の自然体』
「敵の自然体?」
『ああ、敵もバルチック艦隊、北洋艦隊、魔法少女、怪人ファントム、と、様々に姿を変え、さらに、明治・大正・令和と無理な時間移動もしておる。中身はケルベロス以上に混乱し始めておるだろう。自分にとっての自然体も踏まえつつ、敵に当れば勝機もつかめよう。ケルベロス、おまえにも無理をさせた。しばし、はじまりの姿に戻って療養いたせ』
魔王が指を振ると、ケルベロスは始まりの姿になって、魔王の腕の中に収まった。
ケルベロスの始まりは、黒い子犬。首は、当然のごとく一つしかない。
三つの首というのは、歴代の魔王が、さまざまに無理な任務を負わせたための過剰適応であったのかもしれない。
そういえば、わたしは、自分のことにばかりかまけて、こちらの世界での渡辺綾香としての働きには少しも気を向けていなかった。
ファントムを撃滅しクマさんの救出が済んだら、すこし気にかけてみよう。
まずは、敵にとっての自然体……どう受け止めて攻めてやるかだな。
そう思い定めた時、魔王もケルベロスの姿も、明け始めた東の空の星々と共に消えていた。
※ 主な登場人物
渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル ブリンダの使い魔
サム(サマンサ) 霊雁島の第七艦隊の魔法少女
ソーリャ ロシアの魔法少女
孫悟嬢 中国の魔法少女
※ この章の登場人物
高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
春日 高坂家のメイド長
田中 高坂家の執事長
虎沢クマ 霧子お付きのメイド
松本 高坂家の運転手
新畑 インバネスの男
箕作健人 請願巡査
ファントム 時空を超えたお尋ね者
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます