第261話『復興大廉売だぞ』

魔法少女マヂカ


261『復興大廉売だぞ』語り手:マヂカ  






 外観に大きな傷跡は見られなかったけど、三越百貨店の内部は、かなりの被害を被った様子。


 と言っても、グチャグチャというわけではない。



 売り場の陳列棚やショーケースがまちまちで、中には、応急の修理跡が窺えるものもある。


 壁の剥落やひび割れは大廉売の張り紙などでカバーしているが、覗いた隙間には店員が工夫したのだろう、鶴や花の折り紙や短冊などで隠してあるのが痛々しい。


 しかし、痛々しいなどと感じているのは、魔法少女の眇(すがめ)だろうな。


 何百年も戦ってきたので、観察と状況判断は習い性になっている。


 霧子たちは、人が救護を求めるためにではなく、買い物のたに、ぞめき歩いている様が嬉しいようだ。


「やっぱり、一階二階は生活必需品が多いわね」


 鍋釜の台所用品や、茶碗、小机、筆記用具、救急用品、家庭医薬品、日曜大工道具、電球電灯、靴や草履、理容品などが並べられていて、大勢の人たちが群がって活気がある。


「よく揃えてあるわ」


 霧子の言葉も、単に量の事を言っているのではない。


 震災の前後を行き来しているうちに身に着いた、人と物を見る目なんだ。


 部屋に閉じこもって、寄ると触ると人も物も傷つけていたのがウソのようだ。


「じゃ、上に上がろうか」


 高坂邸は大きな被害が無かったので、復興用の日用品には用事は無い。一巡すると階段で三階まで上がる。


 チーーン


 階段の横はエレベーターになっていて、三階に着いたとたんに音がしたので、なんだか、自分たちの到着を知らせるベルのようで、なんだか可笑しく、JK西郷が吹いて、それにつられてみんなで笑ってしまう。


 たかが、エレベーターのベルで笑えてしまうのは、十代の感性のみずみずしさであるし、それを許してくれる銀座や三越の雰囲気だろう。



「あら、衣料品がまとめられているわ」



 霧子が驚く。


「呉服や和装用品は四階だったのに……」


「お洋服多いね」


 JK西郷が見かけどおりの子ども言葉で感心する。


「ねえ、再生服の人もけっこういてるよ」


「うちの生地じゃないから、大日本服飾さんのでしょうねえ……」


 そうなのだ、高坂家の再生服に共鳴して、服飾大手メーカーが数社、大規模に再生服の製造を始めたんだ。


「あ、高坂のお嬢様方!」


 見覚えのある眼鏡男が額の汗を拭きながらやってきた。


「あ、大日本服飾の工場長さん」


「はい、帝国衣料さんや武蔵縫製さんたちも共鳴していただきまして、当初の七倍以上の生産になりました」


「工場長さんが、販売やってんのん?」


「生産から販売に力点が移って来まして、それなら、再生服に最初から関わっている者が相応しいという社の方針で」


「あ、そう言えば、工場長さんの服装?」


「あ、工場の作業服です。臨場感がありますし、お客さまにも親しみが感じられると喜んでいただいております」


「いいことですね(^▽^)/」


「お洋服が多いのね、再生服は」


「はい、復興のため、身軽に動くのには洋服がいちばんです。わたしども、ご婦人方にも洋服を広めようと思っております」


「そうね、活発、手軽に動くには洋服よね!」


 霧子が華を膨らませる。


「実は、お客さまから、こんな声がございまして……震災直後の火災の中、洋服の方が助かる確率が高かったと」


「それは?」「なんで?」「どうして?」


 霧子とノンコが興味津々。自分たちで毎日ミシンを踏んだんだものな。


 JS西郷は、まあ、調子のいいブリッコだ。


「その……和装ですと裾の乱れがどうしても(^_^;)」


「ああ、パンツ!」


 JS西郷が無邪気に声をあげるので工場長は顔を真っ赤にした。


「あ、いえ、まあ……」


「工場長、それはいいことです!」


 思わず言ってしまった。


「高層階から非難する時、女性の和装はいけません、白木屋の火災でも……」


「白木屋?」


 いかん、白木屋の火災は、日本最初の高層階火災で、和装の女店員や客が裾を気にして転落死する者が相次いで、それ以来、女性の洋装が広まることになるが、それは昭和七年のことだ。


「いえ、大日本服飾は先見の明ですね(^_^;)」


「ありがとうございます。三越さまも、月末には全従業員の洋装制服に切り替えられます」


「あ、請け負ったのは工場長さんのとこね?」


「あ、いや、恐縮です(#^_^#)。あ、それでは失礼します」


 頭を掻きながら売り場に戻る工場長を三人笑顔で見送った。


「あの人なら、会社を発展させていくでしょうね」


「ああ……」


「あいまいな返事ね」


「いや、きっとそうさ」


 工場長というのは現場のたたき上げだ。長は付いてもノンキャリア、出世はおぼつかない。


 昭和に入れば戦争の影が忍び寄る、見たところ、工場長は四十に届いてはいないだろう……すると、終戦前後に六十歳、定年を前に苦労する……いや、この時代定年は五十五歳だったか。


 時代を飛んでいると、こういう知識や感覚がボケてくる。


 あ、ずっと工場長で通してきて、名前を知らない。


 こっちの不注意もあるんだろうが、戦前の日本男子は個人の名前よりも役職や職分で働いているところがある。


「ちょっと待っていてくれ、あ、ステッキ返すぞ」


「うん、早くねえ」


 売り場の傍まで行く、案の定、工場長は日報を携帯している。


 悪いが日報を透視して名前を確認。


 田中一郎


 執事長と同姓だ。


 どちらも、書類の書式のように平凡。まるで、日本男子の見本のようだな。


 そのあと、三人で最上階の食堂に行って食事。JS西郷には約束通りお子様ランチを奢ってやろう……と思ったらメニューに無い!?


 そうか、お子様ランチもチョコパフェも昭和にならなければ出現しない。


 仕方がないので、みんな揃ってランチとアイス。


 量が多いので、JS西郷は、むしろ感激。他愛のない奴だ……しかし、お子様ランチもチョコパフェも知っていた。


 こいつ、やっぱり、わたしらの時代の人間か?


「ああ、おいしかったあ(⌒▽⌒)」


 まあ、無邪気に喜んでる。


「それだけ喜んでくれたら、連れて来た甲斐がある」


「ほんと、JS西郷は可愛いなあ~」


「あんたも似たようなもんでしょ」


「アイタ! ステッキで叩かんといてくれる!」


「え?」


「どうかした?」


「ちょっと、ステッキ軽い……」


「ちょっと貸せ!」


 JS西郷の手からもぎ取ると、ステッキはただのステッキにになっている。


 こいつは、難波大助が摂政宮を狙撃するはずだった仕込み銃だったんだぞ!


「どうしよう……すり替えられたあ(꒪△꒪)」


 ちょっとヤバいぞ……。




※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査


 


 

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