第242話『アジア号の罠』

魔法少女マヂカ・242


『アジア号の罠』語り手:マヂカ  






 大正時代の大連駅は……まだ改築前だったはず……!?



 だけではない、アジア号も大正時代には存在しない! 上野駅をモデルにした大連駅は昭和12年(1937)、超特急アジア号は、それよりも前だが昭和9年(1934)にならなければ出現しない。


「オレもマジカも、この時代はヨーロッパに居たからな、これは騙されて……」


 シュボッ!


 ブリンダの言葉が終わらないうちに空間が閉じてしまった!


 霧の向こうには偽物の大連駅舎以外の建物は見えない。


 マズイ!


 同時に声をあげて、うしろにジャンプ!



 ポォーーーーーー!



 ひときわ高く汽笛が鳴ったかと思うと、上野駅に似た駅舎がパックリ割れて、割れた向こうからアジア号が走って来る。


「なんだ、あいつは?」


「腕が付いてるのか?」


 動輪を動かすロッドから一対腕が出てきた。


「しかし、拳を振り上げても、レールは駅の手前で切れているんだから届かないだろう……いや、そもそもソウルが形を持っただけだから、ただの3Dの幻だろう」


「ブリンダ、油断は禁物。あれは、普通の蒸気機関車に憑りついてパワーアップした化け物かも……」


 それが聞こえたのか、アジア号は腕を振るってガッツポーズを作った。


「試してやる」


 コートの懐に両手を交差させて潜り込ませると、両手にコルトを取り出してぶっ放した!


 ドキューーーン!


 パシパシ!


 アジア号の鼻面に火花が散った。


「鋼鉄で出来ていやがる、このコルトは戦艦の装甲だってぶち破るんだぞ」


「満州は鉄が豊富だからね……力押しでやっつけるしかないよ」


 わたしも、覚悟を決めて得物を取り出す。


「マジカ、おまえ、風切丸で立ち向かおうというのか?」


「得物は得意なものに限る……いくよ!」


「おお!」


 ポォーーーーーー!!


 こちらが踏み込むのとアジア号の汽笛が同時だった。


 ドキューーーン!


 ブン!


 ブリンダが放った銃弾は命中することなく、アジア号の背後の空間に消え、踏み込んで振り下ろした風切丸の切っ先も虚しく空を切るのみだ。


「「え!?」」


 アジア号は、目にもとまらぬ速さで驀進してくる。


 並の走り方ではない、二本の腕が空中からレールを取り出し、目にもとまらぬ早業で自分の前に敷設していく。


 取りあえずは、わたしとブリンダの攻撃を躱し、その勢いで、500メートルほど先に行ってしまったが、グルリと弧を描いて、こちらに突進してくる。


 ポォーーーーーー!


 勘が狂う、見かけは世界最大の蒸気機関車だけど、そのスピードは、超音速の魔法少女に引けを取らない。


 セイ!


 トリャーー!


 跳躍と銃撃と斬撃を繰り返す。


 瞬間、鋼鉄の車体を掠ることはあるけど、風切丸もコルトも致命傷を与えることができない。


 ドキューーーン!


 セイ!


 ガシ!


 トリャーー!


「大和を相手にした時よりもてこずる……」


「大和を沈めたのはブリンダ?」


「え、ああ、止めの魚雷に気を籠めたのはオレだ……放っておくと、なにかが憑りついて航空隊だけでは始末できなくなりそうだったからな」


「そうか……」


「文句あるのか?」


「いや、サラトガを沈めるのに手を貸したのはわたしだしね」


「じゃ、なんだ?」


「危ない!」


 ブン!


 今まで以上の速さで迫ってきたアジア号の拳が胸元を掠める。


「チ、すごい風圧、セーターの前が弾けてしまった!」


「オレは、コートを切られた!」


 ブン!


「ブリンダ!」


「なんだ!?」


「大和の致命傷は水蒸気爆発だった」


「それは、転覆してからの話だろう?」


 ブン!


 ドキューーーン!


「そうなんだけど、それで大和は完全にバラバラになって死んでしまった……そうなんだ、水蒸気爆発なんだ!」


 ガシ!


 ドキューーーン!


「昔話なら、後にしろ!」


「ブリンダ、やつの煙突に水を送り込もう!」


「え、あ……そうか!?」


 気づくと早かった、二人の得物を消防自動車のホースのノズルに変えた。


「フフ、カリフォルニアの山火事を消して以来だな」


「いくよ!」


「おお!」


 ビュン!


 アジア号と交差する寸前に全力放水!


 ドドオオオオオオオオオ


 過たず、二本の水流は煙突に集中し、一瞬でアジア号のボイラーを満たした!


 

 ドッゴーーーーーン!!!



 狙い通り、アジア号は大爆発を起こし、無数の破片を花火のようにまき散らした。



 やった……



 二人とも、破片と爆風で来ているもののほとんどを吹き飛ばされて、あられもない姿になったが……勝った。


「なんとか、やっつけたな」


「なんとかね……」


 二人で、胸をなでおろして……そして気が付いた。


 アジア号が敷設したレールがまるで巨大な鳥かごのようなものを形成してしまい、我々は、閉じ込められてしまった!


「マジか……」


「なに?」


 すぐに、わたしを呼んだんじゃないことは分かった。


 レールの鳥かごは二重三重に絡まって、魔法少女の力をしても、ちょっと手こずりそうだ。


 アジア号の狙いはこれだったのか……どこからか、ラスプーチンの高笑いがしたような気がした。


 


※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査

孫悟空嬢       中国一の魔法少女


 


 

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