第225話『クマさんの悲鳴』

魔法少女マヂカ・225


『クマさんの悲鳴』語り手:マヂカ   





 あ あああ!



 表門の方でクマさんの悲鳴がした!


 台所でお茶を飲んでいた箕作巡査は、瞬間で請願巡査の使命感に燃え、腰のサーベルを押えて表門に向かった。


「どうした、虎沢さん!?」


 箕作巡査は、クマさんとは呼ばない。たとえ本名だとはいえ二十歳にもならない女の子に「クマさん」とは呼べないのだ。箕作巡査は下町の育ちなので、クマさんというと落語のクマさんになってしまのだ。


 一度「他の人はクマさんとかクマちゃんとか呼んでるんだから」と水を向けてみたのだが「いや、やっぱり本官は……」と頭を掻いて、虎沢さんと丁寧に呼んでいる。


 門の外に出てみると、据え付け式の郵便受けが壊れて、いっぱいの郵便物がこぼれ落ちて、クマさんが埋もれてしまっている。


「大丈夫か、虎沢さん!?」


「だ、大丈夫、ちょっとビックリしただけだから(^_^;)」


「ちょっと待っていてください!」


 箕作巡査は、門の脇の巡査詰所から柳行李を持ってくると、クマさんを埋めている郵便物を行李の中に移して救助にかかった。


「お礼の手紙が昨日の倍もきて、さすがに郵便受けも壊れてしまって……あ、あたしやりますから、箕作さん、まだご休憩中でしょうに」


「緊急事態が勃発すれば、巡査の休憩など関係ないのです」


「は、はあ、すみません」


 田中執事長をはじめ、高坂家の人間は気づいているのだが、あえて助けには行かない。


 台所では、使用人たちがニヤニヤしながら、門外の様子を窺っている。


 七三の割合で、相思相愛になっている二人なのだ。


 箕作巡査は、見かけはイギリスの騎兵将校みたいだが、中身は典型的な日本男児なのだ、素直に好きとは言えない。


 令和を生きているノンコや、大正少女としては開けすぎている霧子には歯がゆい限り。


 しかし、田中執事長や春日メイド長は「そっとしておくに限る」と意見の一致を見、高坂家の者たちは主従共々、暖かい目で見守っている最中なのだ。


「二人がうまくいけば、震災復興の良い希望になる」


 いつの間にか公爵も事情を承知して「あぶないのは、霧子だ。余計な手出しをしないように目を光らせておいておくれ」とわたし達にも言っている。


 だから、クマさんの悲鳴が聞こえて箕作巡査が駆けていくところを見ると、「さ、宿題やりましょ、ここのところ再生服にかまけていたから」と、さっさと窓辺から離れて机に向かう。


 ウフフフ(* ´艸`)。


「なにが可笑しいの!」


 微笑ましくて笑ってしまったノンコに八つ当たり。ノンコは、霧子をほっぽらかして一階に下りて行った。



―― お嬢様! 感謝の手紙がいっぱい来ておりますよお! ――



 クマさんの明るい声が上って来る。『これ、はしたない!』春日メイド長がたしなめる。『すみません、つい嬉しくって(^_^;)』クマさんが謝っている。


「霧子、見に行こう!」


「なによ、真智香まで」


「だって、感謝の手紙だよ」


「そりゃ、世間様のお役に立ったんだから手紙くらい来るわよ。まとめてお父様にお見せしとけばいいのに……」


 タタタタタ


 さっき下に下りたばかりのノンコの足音。


「霧子、今日はのは霧子宛ばっかりやし!」


「え、え、どうして?」


「ほら、見に行こ!」


「う、うん」


 玄関ホールに行くと、柳行李二杯の手紙。


 そのほとんどが、霧子宛だった。




※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査

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