第224話『大日本服飾の申し出』
魔法少女マヂカ・224
『大日本服飾の申し出』語り手:霧子
再生服の頒布は好評だった。
なんせ、元は廃棄するカーテンだったりテーブルクロスだったり。そのことを隠さないで配るのだから、もらう方も気が楽だ。中には日焼けや色褪せがハッキリわかるものもあったけど、春日メイド長のアイデアで生地の取り方を工夫して、自然なグラデーションに見えるようにしてある。
「こりゃ紫裾濃(むらさきすそご)だ(^▽^)」「紅匂(くれないにおい)だよ(^□^)」と年配や、粋筋のおばさんたちにも喜んでもらえた。
子どもたちには色褪せたテーブルクロスの再生服。子どもは、思い切り遊びたいものだ、だから、多少よれていたり、褪せていたほうが気を遣わなくていい。
「救援に来てくれた兵隊さんが、こんなの着てた!」
男の子たちは、兵隊さんたちに通じるような『働く服』的なものが嬉しいようだった。
女の子たちには、ワンピース。
胸の下で切り返しになっているのは、生地の都合(変色とか、寸が足りなかったり)なんだけど、その切り返しを逆手にとって色合いや柄を変えてみると、けっこうおもしろい。女の子は、どんな時でもお洒落が好きだ。
そして特筆すべきは、みんな笑顔になってきたことだ。配る方も配られる方も。
最初は教会の周りを走り回って、疲れが滲んだ顔でやっていたんだけど、もらった子どもたちが「おねーちゃんありがとう(#^□^#)」と笑顔を返してくると、こっちも「どういたしまして(#^▢^#)」という顔になる。司祭のマッキントッシュさんも「神さまも喜んでます(^曲^)!」と歯を見せるようになった。
震災では、数えたら胸が潰れるくらい大勢の人が亡くなった。
でも、だからと言って、残された者たちが沈鬱な顔をしていては浮かばれない。残された者が笑顔で働いて、遊んで、それで、初めて成仏するんだと思う。キリスト教的に言えば、髪のご加護があるというものだ。
ただ、予定の時間の半分で用意していた再生服が無くなってしまい、次の補充のあてがつかなくなった。
少なくとも、半月は無理だ。目算で、そう思った。
「お話があるのですが」
大人用の再生服を手に持った男の人が前に立った。
「あ、縫製ミスがあったでしょうか?」
なんせ、再生服。ほつれや、僅かな縫い漏らしなどがあって、たまに苦情を言う人がいる。
「いえ、こういう者ですが」
「はい?」
差し出された名刺には『大日本服飾工場長』の肩書があった。
「わたしどもの工場も倉庫も、震災に遭って相当の被害を受けました。まだ、再建の目途も立たずに、倉庫の生地や布地も水を被って商品にはなりません。このままでは廃棄と覚悟していたのですが、みなさんの再生服を見て、これならいけると思ったのです」
「は……と言いますと?」
「よかったら、わたしどもの生地を使っていただけませんか?」
「え、本当ですか!?」
「はい、僅かですが、残ったミシンもあります。こちらでもお手伝いできれば、従業員たちにも励みになります」
「嬉しい! えと、わたし一存では決められませんので、えと……田中ぁ! ちょっと話を伺ってちょうだい!」
教会の中で手伝いをしていた田中執事長に声を掛ける。
「はい、お嬢様、なんでしょうか?」
執事服の田中が出てきて、工場長さんは、ちょっとビックリ。田中が話をして、高坂公爵家の娘だと知ると目を剥いた。
努力の甲斐あって、普通の女学生として奉仕活動をやることには成功したようだ。
十分ほど立ち話をすると、田中がメモ帳を見ながらやって来る。向こうで工場長さんが最敬礼するので慌ててお辞儀を返す。
「最終的には殿様(父の事を、使用人たちは、こう呼ぶ)のお許しが要りますが、おそらくお許しくださるでしょう。お屋敷に戻りましたら、今夜にでも相談いたします」
「よかった、そうしてちょうだい」
「ねえ、ちょっとなんやのん?」
聞きつけたノンコがやってきて、学習院組も寄って来る。
「うん、ちょっとすごいことになるかも!」
「「「すごいこと!?」」」
まだ中身も話さないのに、みんなの頬が赤くなり、目に力が宿る。
今夜は、晩御飯が美味しくいただけそうだ(^▽^)/
※ 主な登場人物
渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
春日 高坂家のメイド長
田中 高坂家の執事長
虎沢クマ 霧子お付きのメイド
松本 高坂家の運転手
新畑 インバネスの男
箕作健人 請願巡査
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