第169話『ツンの名は詰子』
魔法少女マヂカ
169『ツンの名は詰子』語り手:マヂカ
久々に姉妹で出かけている。
お盆前の昼下がり、姉妹揃って日暮里駅へユルユルと歩いていると、通行人や昼食を終えて職場に戻る男たちが額や首筋の汗を拭いながらもチラ見していく。まあ、美女と美少女の二人連れ、それも揃って日傘をさして、胸から上は輪郭だけの影になって、シルエットで窺える美しさを確かめてみたいとガン見に近い眼差しになる。予期せぬ美女との邂逅に眼福と思うか、余計の熱を発して、ことによっては熱中症に陥ってしまうか。
並の姉妹だったら、緊張のあまり目を伏せたり人目の少ない裏通りに迂回の道を選ぶかもしれない。
しかし、そこは魔法少女のわたしと、地獄の番犬ケルベロスが擬態した偽りの美女と美少女。そんな世間の目は屁でもない。
それに、音声を発せずにアレコレ話をしているので、それらしく反応している余裕もなかったりする。
『同じ日暮里高校でよかったのかなあ、夏休みだから、もう少し検討できたんじゃないかと思ったりする』
『余裕があれば他の選択肢もあったけどね、ついこないだまでは西郷さんの猟犬だったんだよ。実際に学校に通い始めたら、慣れないことばかりで、どんな失敗があるかもしれない。同じ学校で様子を見てやるのがいいんじゃないの?』
『猟犬だったからこその従順さが問題だと思うのよ、これからは人の子として暮らしていくわけだから、多少は混乱することがあっても自分で慣れたり解決していく力を身に着けさせなきゃならないんじゃないかなあ』
『それは、高校を出てからでいいだろ、取りあえずは慣れさせることだ。それに、もう決めてしまったことだよ』
そうなんだ、姉妹二人で夏休み中の学校に行って、末の妹という設定になったツンの転入の相談に行っていたのだ。
調理研の優等生である渡辺真智香と、お堅い探偵事務所勤務の渡辺綾香という二人の姉が居るとあっては問題の有るはずもなく、あとは本人の意思を確認の上週明けに転入試験を受けさせる運びになった。
本人を同行させてもと思ったが、まだまだ世間のアレコレに慣れさせなければならず、姉二人が決めることなら不満なんてあるはずもないと猟犬らしい素直さに「じゃ、行ってくるね」と、真夏の太陽に急かされるように出かけた次第。
『ま、学年は一個下だし、部活とかは調理研以外を選ばせれば、ツンの自主の心も育んでやれるんじゃないか』
『しかし、名前は、もうちょっと考えてやってもよかったんじゃない?』
『いいじゃないの、渡辺詰子(わたなべ つんこ)。個性的だし、インパクトもあるし、印象が明るい』
『先生に聞かれるまで考えてなかったでしょ、とっさに、マンマの詰子』
『メールで確認したらツンも喜んでたじゃないか(^_^;)』
『あの子は、人間になれるってだけで嬉しいのよ。まあ、薩摩おごじょだから乗り切ってはくれるだろうけど』
『真智香もこだわるなア』
『あ、あたりまえでしょ、妹なんだから!』
『なんか初々しいお姉ちゃんブリだなあ(o^―^o)』
『茶化すなあ!』
『アハハハ』
はた目には無言だけども、駅に着くまで成りたての姉二人は気をもんでいたのだ。
「お姉ちゃん、そっち上り!」
改札を抜けて大塚とは逆の上りのホームを目指すので、声に出して呼び止める。
「うん、ちょっとね、上野公園に用がある。真智香も付いて来て」
「上野公園?」
「あ、ひょっとして……」
思い当たることはあったが、わざわざ確かめることではないと思っていたが、さすがは地獄の番犬、確認せずにはおれないのだろう。
美人姉妹は上野公園を目指した。
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