第57話『城ケ島の少女・1』

魔法少女マヂカ・057  

『城ケ島の少女・1』語り手:マヂカ  





 ソウルフードってば……


 横浜だよ! 浅草でしょ! いや、横須賀よ!


 調理研の三人が姦しい。


 鶯谷の味噌煮込みは、調理研に予想以上のインパクトをもたらした。


 初期の目的である――体力、能力の向上を(特務師団によるものであることを伏せて)納得する――を果たしただけではなく、三人をソウルフードに目覚めさせてしまったのだ。


 間近に迫った夏休みを利用して、ソウルフード巡りを調理研の課題にしようと意見がまとまったのだ。


 ノンコと友里はお煎餅を齧りながら、清美は脂取り紙で鼻の頭を拭きながらグルメ雑誌のページをめくるのに忙しい。


 調理研という看板なのだから、本来は調理のアレコレにこそ頭を使い、手を動かして調理していなけばならない。


 しかし、十七歳の女子高生、目覚めた食への興味は作ることよりも食べることに向いてしまうのは仕方がないだろう。


 わたしは、適当に相槌うったり、合いの手を入れながら三人の変化を微笑ましく見ている。もう二十分ももめれば落ち着くところに落ち着くだろう。




 グルメ地図の三浦半島のあたりを、わたしの視線は彷徨っている。




 浅草、横浜、横須賀と地図を彷徨った勢いというものだろう。


 三浦半島の先端の先、ほんの点でしか示されていない島に目が停まる。


 この島は……?


 あ~めが ふ~る ふ~る じょうがしまの いそに~♪


 あ、城ケ島だ。


 終戦まで、軍の砲台があった。本土決戦が行われれば、真っ先に艦砲射撃で壊滅せざるを得ない砲台で、駐屯部隊は全滅を覚悟していたっけ……。


 磯釣りの名所でもある東の岩場には、十数人の釣り客が糸を垂れているのが感じられる。


 魔法少女は、過去に訪れたところであれば、現在の様子を感じる能力があるのだ。いわばグーグルアースのライブ版と言った能力で、普段は眠らせている。のべつ幕なしに感じていては、落ち着かないし、他の事ができないからだ。


 釣り人たちが騒がしくなった。


 なにか大物でも釣り上げたか?


 懸命にリールを巻いている釣り客の所に人が集まる……釣り糸の先には……人が掛かっている!?


 黒髪……セーラー服……女の子だ。


 釣り客の中に女性が居て、まだ半身が水に浸かった女の子を抱き寄せて生死を確かめている。


 まだ息があるようで、横にして水を吐かせ、救命救急措置を施し始めた。


 釣り客の何人かがスマホを取り出して、消防やら警察やらに電話をかけている。


 助かればいいが……救助の経過が気になったが、ソウルフード巡りが紛糾しているのも放ってはおけない。


 わたしは、真智香の意識に戻って論戦に加わった……。


 

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