第55話『走る調理研』
魔法少女マヂカ・055
『走る調理研』語り手:マヂカ
暑さの中を走っている。
鶯谷までの一駅分だから、この時期でなければどうということはない。
天気予報では35度を超える酷暑日だ、用心しなければ熱中症の危険がある。普通の運動部でも午後のランニングは自粛するだろう。
スッ スッ ハッ ハー スッ スッ ハッ ハー スッ スッ ハッ ハー
鼻で二回吸って、口で二回吐く。ランニングの呼吸だけは教えておいた。
なんせ、文系の調理研だ。普通に走っては簡単に息が上がってしまう。
ところが、調理研の四人は汗みずくになりながらもペースを落とさずに歩道を走っている。マヂカは魔法少女なのだから屁でもないのだろうが、友里、ノンコ、清美の三人も顎を出しながらも付いて来ている。やっぱり、特務師団の任務で鍛えられているんだ。
体力の向上を、今のところは喜んでいる三人だが、そのうち不審に思うだろう。その理由付けの為に走っている。徐福の不老不死の薬だか食材だか料理だかを身に取り込んで――徐福のお蔭か!――と思い込ませるために。
徐福の不老不死の薬に関心を持った有名人が居る。
徳川五代将軍の家綱だ。
古今東西の医者や本草学者、長崎から参府したオランダ人にも『長生きの薬や食べ物』について、聞いたり調べさせたりしている。当然、徐福伝説にも触れていて、日本に五か所ほどある徐福終焉の地を領内に抱えている大名にも調べさせた。
綱吉は六十四歳で亡くなっているが、大人麻疹でなければ家康以上の寿命を得ていただろう。
家康や綱吉の健康法や長寿の研究は長く徳川家に伝えられて現在に至っている。その徳川家末裔の一人がポリ高にいたのだ。
「よく知っていたわね、安倍先生」
その人は、家康を彷彿とさせる笑顔で答えてくれた。家庭科のボス、徳川康子先生だ。
「さすがは、徳川の倍以上も古い家系の……」
「あ、それは勘弁してください。今は、調理研の顧問として伺っています(^_^;)」
「そうね、徳川家も、そういうことには関わらないことになっているしね」
そうやって、家庭科準備室で教えてもらった一つを求めて、酷暑のアスファルト道を走っている。
「けっこうな運動をした後の効き目がいいの。五代様(綱吉)も、運動されていれば麻疹にもかからずに、権現様(家康)以上に長生きしたでしょうね……そうそう、最初のはね……」
それが見えてきた。
学校から東へ一キロ、鶯谷の駅にもうちょっとというところで見えてきた。
色とりどりの看板、夜になったら、さぞかし煌びやかであろうネオンがひしめく路地。ランニングでヘゲヘゲになっていなければ現役女子高生たちはたじろいでしまっただろう。
「あそこだ、目的地の徳松だ!」
「「「「着いたあああ」」」」
我々は『ご休憩3500円』の看板の横を徳松の中に駆けこんでいった……。
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