第46話『阿部晴美の仕事が増える・3』

魔法少女マヂカ・046  


『阿部晴美の仕事が増える・3』 語り手:阿部晴美  



 バチバチ!


 静電気が爆ぜるような音がして、二人が帰ってきた。 

 ブリンダは、ポカン開けた口の先に、なにかを摘まんだような姿勢で、文字通りポカンとしている。

「ア、アイスを食べようとしていたんだけど……」

 マヂカは、ハンカチを咥え、ちょっと前かがみになって、両手を差し出している。

「ア、アハハ……ヤ、ヤバかったかも(n*´ω`*n)」

 二人ともタイミングが悪かったようだ。

「「これは無いと思う」」

 二人の声がそろう。

「霊式は緊急の招集方法で、魔法少女との相性を試す手段でもある。二人ともコンマ五秒で現れたから、合格だ」

「前触れもなくコンマ五秒で呼びだされてはたまらん(-_-;)」

「そーだ、そーだ」

「これは、あくまでもテストだ。バチバチと衝撃も大きいしな。日頃はテディが呼びに行く」

「あの縫いぐるみも、しょっちゅうでは困る。クラスメートが目撃して都市伝説になりかけている」

「基地が完成すれば、定時に出頭してもらう」

 基地とはなんだろう?

「大塚台公園の地下が基地になっているんだが、まだ整備中です。完成の暁にはご案内しますよ。それまでは訓練に励んでもらう」

「えと……担任業務とかが入って、二人も引き受けてはいられないと思う」

 担任代行を言い渡されたばかりのところへ魔法少女の訓練なんて、正直冗談じゃない。

「大丈夫、週に一二度、訓練を兼ねた任務をこなしてもらいます。たいてい一時間以内でできることばかりです。まず、手始めに、あれに乗ってもらいます」

 来栖一佐は、公園の三か所を指さした。


 あれに?

 

 それは、公園の三か所に置かれた遊具を兼ねたオブジェだ。

「先生にはライオン、亀にはマヂカ、アリゲーターにはブリンダ。乗ったら、スカイツリーを目指してもらいます」

「あれで、一般道を?」

「いえ、空を飛んでもらいます」

 半信半疑で、指定されたオブジェに跨る。いい歳をした大人が恥ずかしいが、まあ、ライオン。亀よりはましか……オ?

 亀に跨ったマヂカがオブジェごと消えた……とたんに、高速エレベーターのような浮揚感がして、ライオンに跨ったまま大塚台公園数百メートルの上空に飛び上がった。


 え? え?


 ライオンは、しっかりしていて振り落とされるような気配はないのだが、唐突すぎる。

 キョロキョロしていると、左右に亀のマヂカとアリゲーターのブリンダが現れた。

「先生、とりあえずスカイツリー!」

「西南西!」

 上空はビョービョーと風が吹いているのだけど、二人の魔法少女の声ははっきり聞こえる。梅雨空にかすむスカイツリーに目をやると、ライオンは勝手に飛び出した。


 ウヒョーーー


 髪の乱れを気にしながらも、魔法少女二人の追随を確認する。三人一糸乱れぬ編隊飛行ができているので、ちょっと気分がいい。

「で、なにをすればいいのかなあ?」

——上下の展望台の周囲を編隊飛行させてください。先生は、離れたところで、いちばん効果が出るように指示を願います——

「指示?」

——いけば、分かります——

 飛行機並みの速度なので、あっという間にスカイツリーに着いた。

「下層展望台から行くよ! 速度五十! マヂカは時計回り、ブリンダは反時計回り、同速になるように気を配って、かかれ!」

「「ラジャー!」」

 え? え? なに、きちんと指示飛ばしてんの!? なんか寿飛行隊のノリじゃん!

 二人は、展望台の周囲を一定の速度と高度で旋回し始めた。梅雨空の雲のせいか、魔法少女の魔力か、展望台の観光客からは見えていない様子だ。これは、いけると思って「マヂカ、ちょい上に」とか「きもちふくらんで」とか調整指示を飛ばす余裕だ。

 ポロリ ポロリ ポロポロリ……

 五周目あたりから、目には見えないなにかが展望台の周囲から落ちていく気配がする。目を凝らすと、人の形に滲んだシミのようなものがポロポロと落ちていくのがわかる。

「……なんだ、あれは?」

「先生、上に逃げていく!」

「ブリンダ、最上展望台へ! マヂカ、周回して取りこぼしを確認!」

「「ラジャー!」」


 そうやって、十分ばかり飛び回ると清々しい感じになり、三人そろって帰投した。


 来栖一佐に確認すると、あれは霊魔の幼体で、放置しておくと関東一円に飛散して災いをもたらすものになるらしかった。

 本格的な夏を前にして、ボウフラの退治をやったようなものらしい。

 

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