第31話『特務師団』

魔法少女マヂカ・031  


『特務師団』語り手:マヂカ   




 特務師団は対霊障戦に備え、日露戦争中に創設された闇の師団だ。


 魔法少女は特務師団の中核だった。


 同様の霊能部隊は他の列強の国々も持っていて、戦争の裏舞台で攻守さまざまな局面で活躍した。


 戦場において、信じられない勝利や敗北の陰には、魔法少女たちの働きがあった。


 203高地の戦いが膠着した時に、日本軍はロシアに霊能部隊がいることに初めて気づいた。その中核はロシアの帝室特務師団の魔法少女達であった。彼女たちは様々な妖(あやかし)や魔力を使って、日本軍の行く手を阻んだ。


 乃木の第三軍が旅順、特に203高地において甚大な被害を被ったのはロシア特務師団の働きが大きい。旅順港閉塞において、日本海軍の戦艦三隻が触雷して沈没したのもロ特(ロシア特務師団)の働きだ。


 ロ特の存在に気づいた日本は、ようやく霊能少女を集めて特務師団を編成し戦場に送り、ロ特との戦いに投入し始めた。


 主な任務は、ロ特の魔法少女たちを排除することで、日ロ双方が軍の実力だけで勝負できるようにすることだった。


 ロシアは、ロ特を軍の作戦や先頭に関与させて勝利を得ると言う禁じ手を使っていたのだ。


 日本の特務師団は専守防衛に徹し、けして人間の戦闘行動に手を貸すようなことはしなかった。それが日本の矜持でもあったし、列強が日本の特務師団設置を承認した条件でもあったのだ。


 日特(日本特務師団)は日露戦後も様々な戦場や災害において活動したが、第二次大戦の終焉と共に幕を閉じた。


 終戦直前に結成された国連が特務師団の廃絶を謳っていたのだ。


 もう、魔法少女の霊力を借りなくても、いや、魔法少女の霊力以上の破壊力を持つ核兵器を手に入れたことで、戦略的な勝利を得ることができると確信したからだ。


 それに、魔法少女達は疲労の極にあった。人道的見地からも特務の解散は避けて通れなかった。


 なにより、日本の魔法少女はマヂカ一人を残して全滅していて、マヂカも早急な休眠を必要としていた。


 最後の特務師団長は来栖種臣中将であった。



「孫にあたります、来栖種次一佐です」



 そう名乗ると、穏やかに信号が青になったことを示した。


 二人は、街中で邂逅した伯父と姪のように横断歩道を渡った……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る