剣と太陽の誕生日-4
そして、皇女の予告どおり、その日はささやかなパーティが催された。
クヴェンが城のパティシエに特別に指示をして作らせた二つのバースデーケーキを、四人で囲んだ。当然それは多すぎて、周りのメイド達にも声をかけて、分けて平らげた。
「ちょ……っ、エリン、君の反射神経ってどうなってるんだ!?」
ケーキで満腹になった後は、客間に立体映像モニターを持ち込んでゲームに興じる。はるばるミラノから機械を持ち込んだのはゲオルグだった。
「……どうにもなっておりませんが」
「いや、絶対おかしいって! 今日はじめて触ったとか絶対ウソだ」
自信があったらしい格闘ゲームで一度もエリンに勝てないゲオルグが、情けない声をあげる。
「操作ははじめにご説明頂きました」
身体感覚を拡張して操作するゲームのため、一旦操作方法を覚えるとエリンは信じられないくらい上手にプレイしてみせた。
「僕、これ、やりこんでるのに……」
アーシュラの前で少しもいいところが見せられないゲオルグは、負けを認めたくないようだったが、当の彼女は二人のやりとりを面白そうに眺めている。
「ふふふふ、こういうのでエリンに勝てるわけがないじゃない、ゲオルグ」
笑いながらそう言う皇女に、今日は友人として参加しているリゼットが、そうだそうだと相づちを打つ。
「そうです。剣でエリン様に挑もうなどと思わないことです」
「……剣って。これ、ゲームだよ?」
「ねぇエリン、ツヴァイも呼んできなさいよ。師弟対決が見たいわ」
「せ、先生をですか? それは……」
「ちょ、何言ってるんだ、僕ともう一勝負だよ!」
「カルサス様は、弱いから嫌です」
「な……!!」
結局ゲオルグが音を上げるまで勝負が続き、その後はアーシュラがツヴァイを引っ張ってきて、異様に華麗で見応えのある剣術戦が繰り広げられたのだった。
客間での晩餐を終えると、リゼットは一足早く仕事に戻った。ゲームも堪能し尽くしたアーシュラが、ほんのりと疲れた目で外を見ると、いつの間にかすっかり暗くなった庭に、静かに舞うものが目に入る。
「雪……」
アーシュラは窓辺に歩み寄ると、感嘆の声をあげた。ソファで休憩していたゲオルグも、隣に立って外を眺める。
「うわぁ、外、寒いんだろうなぁ……」
「明日の朝が楽しみね。積もっているといいわ」
今まで、日暮れまでに帰路についていたゲオルグと、こうして夜の庭を眺めるのは初めてのことだ。彼は、今日は客人として城に滞在することになっていた。
「雪のアヴァロン城も、美しいでしょうね」
「そうなの。わたくしはあまり、外には出させてもらえないのだけど」
「それは、殿下は体調のことがあるんだから、エリンじゃなくて僕でもそう言いますよ」
「そうだけど……あーあ、来年は今よりもっと健康でいたいわね」
「きっとそうなりますよ。ああ、でも、今も充分元気だし、これ以上となるとちょっと大変かも」
「大変って何よ」
「あはは、大変は大変ですよ」
二人のやりとりを、エリンは黙って眺めていた。陽気な性格のおかげか、ゲオルグの声はおそらく城内で一番明るく響く。アーシュラはこの、話しているだけで元気が出てくるような楽天的な声がとても好きだという。今も、この声が自分を健康にしてくれているのだと信じているのだ。
それが本当でも、そうでなくても、エリンには関係ない。ただ、彼女が今日のように苦しみのない、幸せな時間を過ごしてくれれば良いと思った。
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