6:手と手を繋いで②
「ななみちゃん、人脈すごいね」
今日の任務は、国境付近に生息するモンスターの生態調査。2チーム合同で受けたので、ぞろぞろと移動しながら各々会話を楽しんでいた。
他に人が見当たらないので、めいいっぱい広がっても文句を言う人はいない。むしろ、こうやって交流することも目的なので後ろで教師陣も微笑みながら眺めるだけ。
「うーん、マナの近くにいるといろんな人が来るからね」
もちろん、そこにはななみもいる。そのため、ユキの姿は見当たらない。
ゆり恵が最初不服そうにしていたが、新しい仲間に会えて刺激を受けた様子。今は笑いながら会話を繰り広げている。
「僕も、いろんな人と話したいなあ」
「ね、仲良くなりたい」
「他にも3チームくらい来てたぞ」
「来てたね。でも1チームは昨日帰ったと思う」
「へえ、時期がずれてるんだ」
ななみが、その様子を見てニコニコと微笑む。
晴天の空が、みんなを照らしていた。
照りつける太陽が心地よく、任務でなくても外に出たいと思わせる。今日は、そんな陽気だった。
また、木々が絶妙なバランスで木陰を作り、動物たちがそこを行き来している。こんな光景、レンジュではお目にかかれないだろう。あの動物は何か、これに似ているなどと言った会話も弾む。
こんな平和が続けば良いのに。そう願いたくなる光景だった。
しかし……。
「ななみさん、今日の服も素敵ですよ!」
と、武井は相変わらずななみにゾッコン。
引率を忘れているのでは無いか?と思うほど、その視線は生徒ではなくななみに向かっている。……とはいえ、先ほどから周囲の様子を見張っている様子も見受けられるので一応は職務を全うしているとは言えそうだ。その辺りは、さすが教師。
「ありがとう。武井のカバンもキュートだよ」
「いやいや、ななみさんの」
「はあ……」
その様子を、ため息をつきながら見守る風音。火の粉が自身に降りかからないよう、できるだけ気配を消している。……大変だな。
「(天野はいつ来るんだろう)」
彼は、楽しそうに会話をするななみを見つめながらそんなことを考えていた。
***
「ビンゴ♪」
ななみたちがいる場所から数キロ先の崖の上。背の低い少年と少し高めの成人女性が瞑想するかのように座っていた。2人とも、日差しが照り暑さを感じる中、長袖の重装備をつけている。が、特に汗を書いている様子は無い。
「こっちに近づいてるみたい。どうする?」
女性はそう言って、東の方を指差す。遠視魔法でのぞいているのだろうか。しかし、その女性からは魔力を一切感じない。
「……殺したく無い」
「一瞬で殺せば、痛みは無いわ」
「死んだことでもあるの?」
「……それは、ジョーク?」
「ごめん。そう言うつもりじゃ無い」
「ふふ、冗談よ。で、どっち行く?」
「サツキは?」
背の低い少年は、少し頼りなく眉を下に下げている。どうやら、ここでは女性の方が主導権を握っているようだ。サツキと呼ばれた女性は、
「そうねえ、私は美味しいものは最後まで取っておきたいんだけど……」
「そんなこと言ってるからいつも取られるんだぞ」
男性の言葉に、ピクッと眉を動かす。
そして、発言が気に食わなかったらしく、少年の方へ近づき額にデコピンした。一切手加減されていなかったようで、わりかし大きめのパンッと乾いた音がその場に木霊する。
「いて!……子供扱いすんなよお」
「子供なんだから扱いも何もないでしょうに」
「お前だって!」
「今は大人よ。心も、身体も」
文句を言う少年は、痛そうに額をさすった。仕返しはしないらしい。それを見て、笑うサツキ。肩まで伸びた黒くしなやかな髪が、風に揺れる。
「ねえ、カイト。ザンカン皇帝は、私行くわね」
「……わかったよ、怪我だけはしないでね」
「ふふ、私は丈夫にできてるから大丈夫。それより、あなたこそ暴走しないようにね。先週、リーダーから怒られたの知ってるのよ」
「……あれは」
「言い訳はしない。組織で生きてくって決めたでしょう」
「サツキは強いよ」
「そうよ、女はしたたかなの」
ブスッとした顔がとてもよく似合うほどの童顔をさらけ出す少年の名前は、「カイト」。ぼさっとした黒髪、真っ赤な瞳が特徴的だ。サツキの発言に立ち上がったが、何を思ったのかすぐに座り直す。
「……ここで見てるから」
「お子様はマイホームに帰りなさい」
「なんだと!」
「ふふ、カイトは可愛いね」
嘲笑うかのような言い方に、口をへの字にするが反論はせず。
「……サツキに何かあっても助けないから!」
「はいはい」
サツキと呼ばれた女性は、手をひらひらと振るとその場から風のように消え去る。が、やはり魔力は感じない。魔法以外の何かで動いているようだった。
「お手並み拝見」
カイトはそう小さく呟くと、そのままの姿勢で遠視魔法を発動させる。
その視線の先には、今まで一緒にいたサツキの姿が映し出されていた。
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