12:失うものと得るもの①




 ざわざわとした講義室では、チームが発表されるのを待つ下界昇格者でいっぱいだった。カーテンが開け放たれ、大きな窓から漏れ出す光がそんな昇格者を照らしている。

 他地方の昇格者も集まっているため、後から来た人は座る席を見つけるのが大変そうだ。

 少年ユキも例外ではなく、同じく講義室でチームメンバーの発表を待っていた。どうやら、遅刻はしなかった模様。しっかり、席を確保している。いや、確保してもらった感が強い。なぜなら……。



「ユキ様よ!」

「ほんとだわ、ユキ様よ!」


 なぜかユキが座る席の周りには、他地方を含む女の子がたくさんいる。そこでは、その隣に誰が座るのかを決めるジャンケンも繰り広げられていた……。


「はあ、モテるって罪だなあ」


 そうですね。自分で言ってりゃ世話はない。


「ユキ様も合格されたのですね!」

「私、ユキ様と同期になるんだわ!」

「ユキ様と同じチームになりますように」


 なぜ、こんなにユキを知っている人がいるのかというと……。


「それよりみんな、新しいドラマは見てくれたかな」


 と、やはり芸能関係。本当に、ドラマに出ていたようだ。少年ユキが色っぽく髪をかき分けると、数人が鼻血を出して倒れた。……ほんと、何やってんですか。国の裏の人間が、そんな目立っていいんですか。


「見ました!あのキスシーンが」

「私は録画して」

「私―――」


 集まった女の子たちは、一気に感想を言ってくる。それを頷きながら全て聞き取り、


「ありがとう。みんな大好きだよ」


 女の子たちに向かってウィンクをするのは、さすがテレビに出ているだけあって慣れているようだ……。今日だけで、失神者が何名出たことやら。


「静粛に」


 ユキが倒れ込んだ女の子を介抱しているそんな時、皇帝が壇上に立った。いつのまにか、部屋に入ってきたようだ。そして、彼はチラッとユキを見る。あまり目立つと怒られるだろう。

 ユキは、その視線に気づかないふりをして最後に介抱した女の子と一緒に席についた。その女の子の瞳はハートになっている……。


「ゴホン。諸君、アカデミー合格おめでとう」


 皇帝は、一人ひとりの顔を確認するように首を動かす。下界昇格者は、皇帝の言葉を静かに聞いていた。


「諸君は、これから魔力増幅方法を学びながら、任務に当たってもらう。もちろん、上を目指したい人は、そのまま上界への試験を受けるが良い」


 壇上には皇帝だけではなく、綾乃や他地方のアカデミー教師だろう、見慣れない顔も揃っている。彼女たちは、手を後ろで組んで静かに下界昇格者を眺めていた。


「任務は、チーム単位で行ってもらう。あまり話が長いのも年寄りには辛い。まずは、こちらで決めたチームを発表しようかの」


 皇帝は、そう言って後ろにいた綾乃を見る。

 今いるアカデミー……まことたちがいたところだ……が、レンジュの中で一番大きい。故に、チーム作成は綾乃が代表して皇帝と作成したようだ。昨日その話を聞いていたユキは、何食わぬ顔で皇帝の声に耳を傾ける。


「名前が呼ばれた者は、そのまま部屋を出てチーム同士で顔合わせをするのじゃ。その後、入口に立っている上界の指示にしたがって移動してくれ。主界の担当が待ってるはずじゃ。……では綾乃先生、お願いします」


 皇帝が一歩下がると、綾乃は持っていた用紙を素早く広げ、


「では、チームを発表します。下界ナンバー1、……」


 と、決定したチームメンバーを呼び始めた。呼ばれた人は、立ち上がるとそのまま講義室を出ていく。

 下界昇格者は、自分の名前が呼ばれるのを今か今かと待っていた。綾乃の声だけが響く空間で、昇格者たちの緊張感が手に取るようにわかる。


「ナンバー3、真田まこと・桜田ゆり恵・後藤早苗・天野ユキ。以上4名」


 下界に昇格したのは、他地方のアカデミー含め総勢50名。ユキの名前は、意外と早く呼ばれた。


「はあい」


 と、締まりのない返事をし立ち上がり、入口へと向かう。同じく、立ちあがり外へと向かう者が3人。ユキのチームメンバーだ。

 講義室では、ユキとチームになれなかった女の子たちのため息が漏れていた……。


「はじめまして」


 ユキが講義室の入り口でそういうと、まことが


「真田まことです」


 と、チームの顔を確認しながら発言してきた。


「桜田ゆり恵、よろしくね」

「後藤早苗……です。お、お願いします!」


 と、2人の女の子も続けて自己紹介をする。


「あ、あの時の」


 早苗は、ユキを見てそうつぶやいた。そう。あれは、ユキだったのだ。同じチームになるとわかって、話しかけたのだろうか?


「また会ったね。俺は、カザグモ出身の天野ユキ。よろしくね」


 ユキの言葉に、一同、


「「「よろしくお願いします」」」


 と、元気よく答えてくれた。その明るさは、ユキにとって新鮮なものだった。思わず、頬が緩む。


「では、このまま演習場に向かってもらいます。そこに、担当主界がいますので指示に従ってください。ほとんどここの卒業生なので、地図はいりませんね」


 扉の前に立っていた上界魔法使いが言うと、ユキ以外の3人は頷いた。その人の腕には、魔法特殊警察の紋章がつけられている。今日臨時で駆り出されたのだろう。


「では、卒業おめでとうございます。いってらっしゃい」


 上界魔法使いの温かい言葉で、4人は同じ方向へと歩き出す。


「天野さんは、どこのアカデミーを卒業したんですか?」


 ゆり恵が、歩きながらユキに向かって話しかけてきた。歩くたび、高く縛られた彼女の髪がぴょこぴょこ動き回る。


「ユキって呼んで。仲間なんだから敬語もなし」


 そういうと、3人は楽しそうに頷いた。

 なお、女の子2人は、ユキの顔を見て赤面している。やはり、イケメンだからか。


「俺は、出身地と同じくカザグモだよ。みんなは、ここの卒業生なんだね」

「そう。でも、卒業したばかりだからまだ実感がわかないや」


 と、まことが、先頭を歩きながら答える。その声は明るく、これからの出来事を楽しみにしているような印象をユキに与えた。


「確かに」

「試験が昨日だったなんて信じられないね」


 廊下ですれ違うアカデミー生は、ユキたちをチラチラと見ている。4人の首には、下界の証であるネックレスがまぶしく光っていた。


「演習場ってどんなところなの?」


 一通りアカデミーの中は昨日探索したが、初めて通る道のようにユキはきょろきょろと周辺を見渡す。でないと、怪しまれてしまう。


「広いグラウンドよ。そこで、召喚や受け身の練習をするの」

「へえ。そんな広い所があるんだ。俺のコンサートでも開こうかな」

「コンサート開けるかわからないけど、確か、国内にあるアカデミー最大の演習場だって聞いたことあるよ」


 笑いながら、ゆり恵の答えに補足を入れるまこと。「俺のコンサート」は、きっと開催されない……。ユキの言葉に、緊張気味だった早苗も笑っていた。


「なんだか、楽しみだなあ。でも、同じアカデミーの人が同じチームになることってあるんだね」

「びっくりだよ。2人でも被るのはありえないっていわれてたのに、3人も一緒だもんね」

「でも、知ってる人がいると安心するからよかった」


 早苗の言葉には、安堵の感情が混ざっている。彼女の目の下にはクマができていた。きっと、チーム分けの結果が気になって眠れなかったのだろう。


「俺だけ仲間外れかあ」


 その会話に、ユキが寂しそうに言うと、


「そ、そんなことないよ!」


 と、急にゆり恵が大きな声を出す。その声量にびっくりしたまことと早苗が彼女を見ると、真っ赤になって、


「あ、えっと……。ほら、せっかくチームが一緒になったんだから、その、仲間外れとかはやめようって」


 と、早口で喋り出す。どうやら、ユキに惚れたらしい。


「ありがとう、そうだよね」


 ユキは、笑顔で真っ赤になって俯く彼女に感謝の言葉を言う。

 そんなゆでダコ状態のゆり恵を見て笑うまことと早苗。良いチームになりそうだ。



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