521 第30話:最終話20 I wonder what that will Prove?③
まず襲いかかったのはモログである。日毬の行きがけの駄賃により、片方が両手をほぼ使えない状態まで陥っている。
こんな好機を逃すようなモログではなかった。
そして次にシアとヴィラデルも突進を開始する。モログの援護のためだ。もう片方を止める。
走り出しは純粋な戦士職であるシアの方が早かった。
「『烈・震・撃』!」
迎撃の構えを取った福耳野郎バルビエルを尻目に、シアは敵の遥か手前で自身の武器を打ち下ろす。
当然に届く筈もない。地面を叩くのみだ。だが、問題は無かった。
『烈震撃』とは、そもそも鈍器系最強のSKILLである。
例によって複合的なものであり、『瞬動』と『剛連撃』を合わせたような技となっている。力と速度、何より精度が習得には求められ、シアは実際に最後の項目でかなり苦労した。
最強とされるだけあって、その習得難易度に見合う破壊力を備えている。が、単純に敵相手へとそのままぶち当てる以外の使い道もあった。
その1つが武器破壊。
名の通り激烈な振動を秘めた攻撃は、生半可な防御を許さずに武装ごと敵を打ち砕く。
更にもう1つの使い道が、今シアが見せた地面へと叩き込む使用方法だった。
足場の破壊や、大地に直接振動を与えて数秒間震わせることで相手の動きを一時的に止め、また体勢を崩すためのものである。
『烈震撃』はその習得難易度の高さと、何より鈍器をメイン武器とする者の数が少ない関係から、使い手もまた滅多にいないマイナーなSKILLであった。
このこともあってか、バルビエルは『烈震撃』のことを良く知らず、無論、効果も良く解っていない。碌な対処もできず、今の今まで自らの翼を使ってではなく両足でもって大地に立っていたままだ。
「むぅおっ!?」
ものの見事に体勢を崩したバルビエルに、ヴィラデルが飛んで襲いかかる。
「『剛っ撃』!!」
迎撃などとてもできる状態ではないバルビエルは、大上段から自身の脳天へと打ち下ろされようとしているヴィラデルの大剣を右肩に受けるしかなかった。
刃は右肩に深く食い込み、骨に達したところで止まる。
(骨が……カッタい……!)
それ以上は押し込める自信が無く、ヴィラデルはバルビエルの腕のつけ根部分を思いっ切り蹴った。反動で大剣が抜け、両者の間合いも離れる。
碌なダメージこそ与えられなかったが、こちらも問題は無い。
今のは主に試金石だった。
魔法よりも直接攻撃、打撃よりも斬撃が有効だと判ったので、ヴィラデルの大剣でも通用するのかどうか試してみたのである。
結果として通じないワケではないが、骨まで断てぬ以上頼りにできるほどでもない。逆に固執してはいけないくらいだった。両断ができたのはハークの技術あってこそだ。
(直接攻撃は純粋な戦士であるシアに任せた方が良いわね。アタシは魔法に専念した方が良い)
簡単にはいかない。それが解っただけで充分だった。
それに別の意味合いもあった。バルビエルに万が一でもベルケーエルのサポートをさせないがためだ。
「『バァーーーーーニング・ナックルーーー』ッ!!」
至近距離まで達したモログの炎の拳がベルケーエルのボディの中心に炸裂していた。
明らかな魔晶石狙いである。
左腕は肘の少し先辺りから切断、右腕も同様の箇所を半ばまで深く斬り裂かれているベルケーエルには防御の手段がない筈だった。
上手く貫いてくれれば、また1体の魔族を倒し、この場での人数的なアドバンテージを更に広げられる。
果たしてベルケーエルは大きく後方に吹っ飛んでいき、翼のある背から大地へ落ちた。
一方でモログは後方に鋭くジャンプし、ヴィラデルとシアのすぐ横へと戻ってきた。
「どう!?」
勿論、倒せたかという意味である。
モログは隠しようもなく悔しさをにじませた声で答えた。
「駄目だったッ! 魔晶石に到達する前に腕で掴まれて止められたッ!」
「何ですって!?」
翼を使ってベルケーエルが起き上がる。人間にはできない異様な動きであった。
「見て、2人とも!」
シアが指差した先に、ベルケーエルの右腕が既に完治している光景があったのはまだ解る。
だが、左腕までもが既に元の様子となっているのは納得がいかない。確かに斬り落とされた筈であった。
「嘘!? エルザルドからの情報が誤り!?」
まさかとは思った。だが、実際に両腕が治っているのだ。再生の魔法を習得していたとしても、速度的にあり得ない。
「待てッ、先にタルエルという魔族には欠損部再生の兆候は見られなかったぞッ!」
確かにそうだった。見ればベルケーエルの腹の真ん中、鳩尾あたりに焦げた拳の痕がくっきりとついていたが、それが段々と薄くなっていく。
「まさか、また何か使ったんじゃあ……!?」
「そうか……。シアの言う通りかも知れないわね」
これまでも、帝国はこちら側が予想だにしなかったチート技術や、SKILLを数々生み出してきた。
その全てが魔族主体で実は進められていたとしたら。
「ふん。そっちのエルフは俺達のことを良く知っているらしいな。だが、俺たちがいつまでも自分たちの弱点を放っておくと思ったら大間違いだ」
得意気に
「ふゥん……、大した自信ね。じゃあ、それほど自慢できるものを開発したというのなら、どういうものか教えてくれても良いのよ?」
「ハッ、簡単に披露したら面白くないだろうが」
「アラ、そう。勿体つけちゃって。つまらないわねェ。開発にアナタが関わっていないだけじゃあないの? それとも単なる過去の遺産?」
ベルケーエル、バルビエル両者の表情が変わる。明らかに機嫌を悪い方へと傾けたようだった。具体的には『過去の遺産』というあたりで。
ヴィラデルは意識的に、
「図星だったの? 本当に判り易いワね」
「ちっ、本当にエルフとは無駄に聡いものだな。それも当然か、ジャパニーズ。少しはその明敏な頭脳とやらを使って自分で考えることはしないのか? 模倣者が」
「模倣? いつの時代の話をしているのよ。それにアナタたちから直接教わったものなんてほとんどないわ。私たちの偉大な先人は皆、懸命に努力して、学んだのよ。自分たちの価値観とミックスさせてね。だから余計な、アナタたち独自の危険でくだらない思想は引き継いでいないわ」
「くだらない、だと? 貴様らジャパニーズは、本質を見抜く眼を持っているんじゃあなかったのか?」
「本質、というよりも何が大切で重要か、よ。アナタたちだってそうでしょう? 何故、未だに日本語を使用しているの?」
「おい。もういいか?」
ベルケーエルとヴィラデルの話中に、既に右腕の斬り傷の痕も消えたバルビエルが割り込む。
大げさに両腕を開き手の平を上にして相方に対し疑問のジェスチャーをすると、その右手の手の平を流れるようにヴィラデルへと向けた。
「『
すぐさまヴィラデルは防御用の魔法を発動した。日毬には及ばないが人2人分は優に隠れられるほどの岩の塊がせり上がる。
ヴィラデルとシアの視線を遮るかのように発生したそれが紫紺の光を受け、次の瞬間爆発した。
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