306 第20話05:計画談義
「斬魔刀を、新たに打ち直す? そんなことができるのか?」
ハークはシアとモンドからの提案を受けてそう言葉を返す。
そんなことが可能とは夢にも思わなかったからだ。ハークの知識では、折れた剣はそれまでである。精々が残った長さに合わせて研ぎ直し、小刀などとして再利用する程度だ。
オルレオンの城の会議室に集められた面々も、約半数が驚きを隠せない。
具体的にはアルティナにリィズ、ヴィラデルにフーゲインだった。残りの面子は発案者であるシアとモンドを除けば領主たるランバートに長子たるロッシュといったところである。
つまりは事前に聞いていた者とそれ以外の違いでしかない。この世界とて武器が壊れたら新調するしか手が無いのは同じなのだ。
アルティナとリィズは、シアが斬魔刀に代わる新しい刀を造り出すものとばかり思っていた。
それが一番自然な形なのである。シアは一度、古都ソーディアンにて斬魔刀と同量の攻撃力付加値を持つ刀を自力で制作している。それはつまり、奇跡の斬れ味と評されて然るべき斬魔刀が、決してまぐれで生み出されたものではないことを証明していた。
慣れぬこの地では最初は難しいかもしれないが、工房を借りて何度か試作を重ねていけば、いつかは同等、もしかしたらそれ以上のモノが造り出せる可能性も、決して低くはないと言い切って過言ではない。
そこにわざわざ使い古された鉄を使用するのは、どういう意図があるのか。
「新しく、ではなく、新たに打ち直す、のですか?」
「それはつまり、折れた斬魔刀を溶かして、素材として使うという事ですよね?」
アルティナとリィズの確認するかのような質問に対して、シアとモンドは揃って肯くことで答えを返した。
ちなみに本日は、普段ならばギルド寄宿学校が授業を行う曜日である。しかし、前日に生徒の一人が頂点の大会に挑み、しかも事前にかなりいいところまで到達することが確実視されるという学校始まって以来の稀事に、ほぼ全生徒全職員での応援を企画したことから、本来休校日であった昨日から振り替えのような形で本日が休みとなったのである。なので、ハークを始め、生徒であるアルティナやリィズ、さらには臨時講師を務めるフーゲインがこの場にいるのは別にズル休みではない。
ハークも昨日のモログとの会談の後、朝方床についてから昼頃まで睡眠を摂った関係で、魔力なども多少は回復できていた。
「シア、確かに儂は斬魔刀が本当に気に入っていたし、我が魂の拠り所の一つ、とも考えていたほどであった。もう振るうことができなくて正直侘しく、残念極まりない。しかし、儂に気を遣ってのことであれば充分だぞ? 余計な手間ではないのかね?」
ハークの珍しく少し遠慮がちな質問に、シアは今度、首を横に振る。
「違うよ。ハークだけじゃあないのさ。ハークに教わって、初めて刀を打って……、あたしも斬魔刀には物凄く思い入れがあるんだ! それにあの刀は常にハークの期待に応えてきたじゃあないか。ここで終わらすなんて勿体ないよ! ね、モンド爺ちゃん!」
今度は、シアのすぐ横に座るモンドが口を開いた。
「おうよ! ハークの旦那! ワシにとっても斬魔刀は絆の象徴であり、未来への
「主水殿……。シア……」
ハークは瞑目してから、改めて言葉を紡ぐ。
「有り難う。本当に礼を言う! こやつに、もう一度魂を宿してくれ」
そして深々と頭を下げ、盆に乗せた刀身上半分と共に、自らが持つ斬魔刀の残りを差し出した。
恭しくも受け取るシアとモンド。
「良かったよ。実は既に話を進めさせてもらっててさ、コイツを使わせてもらおうと思っていたのさ!」
シアは『
それを見て、シアとモンドを除いた全員が声を漏らす。
「それが空龍の牙、か」
「いやぁ、伝説に語られるモノをこの眼で拝めるってなァ、実に眼福だぜ」
この『斬魔刀再誕プロジェクト』に参画する中心人物でありながら、この中で初めて自らの眼で実物を拝むこととなったロッシュとランバートの親子が感慨深げに語る。
「シア、これを使うということは、『魔法的処理』を施すのね?」
ヴィラデルが斜め正面に座るシアに向かって訊く。
「うん、そのつもりだよ!」
「『魔法的処理』?」
ハークが聞き慣れぬ言葉を
「ハークは聞いたことない? この素材と同名の剣が存在することを」
「知ってはいる。だがまぁ、詳しくはないな」
ハークが知ったのは、同名のおとぎ話のことも含めて僅か数週間前のことである。
「ま、そうでしょうネ。『空龍の牙』という剣は、その昔人間種全体の宝、とまで言われていたそうヨ。あ、一部は今でも、ネ。この国、モーデル王国の南側お隣の国、法王国で今も保管されていると聞くワ。昔はおカネさえ払えば誰でも閲覧できたそうよ。三百年くらい前に、何があったのか知らないけれど急に止めちゃったみたいで、アタシも見たことないけどネ」
「確か、盗難騒動が起きたせいだった筈だな」
ランバートが口を挟んで捕捉する。
「アラ、そうなの?」
「当時は管理者が罪を問われたりして結構な大騒動に発展したんだそうだ。非常に美しい意匠の、刀身がほんのりと蒼く輝く両刃の片手剣だったらしい。……クルセルヴの使用していた剣に、かなり似ているな」
「同じことを私も思った。あれは恐らくレプリカだな」
「レプリカ?」
父親に次いで話に加わったロッシュの口から出た横文字言葉にハークが反応を示す。アルティナとリィズが揃って解説にかかった。
「複製品や模造品、ということですハークさん」
「要は、姿を模して造られたということですね。それにしてもロッシュ兄上はともかく、父上も詳しいのですね」
「ともかくってなんだ。まァ、軍事にちったあ関係するからな」
「ああ、なるほど。納得しました」
失礼の上塗りのようなリィズの言葉であるが、双方気づいてもいない。身内でありながら唯一理解しているロッシュが溜息を小さく吐きながら話を引き継ぐ。
「高名な武器に姿形を似せることであやかる目的があるのだろう。その中でもクルセルヴ殿の武器は、特に出来が良いモノに違いないな」
「あ、そういうことですか。そんなに『空龍の牙』とは強い武器なのですか?」
「いや。製造された当時は千年以上前なのでかなり強力な武器と言えただろうが、攻撃力付加値はどうも四十前後と聞く。悪くない数字ではあるが、高名な武器製作者のものであれば、それを数値上で超えるのは今時珍しくもない」
「成る程。だからヴィラデルも特に興味を示さなかったのだな」
「そッ。能力値で言ったら、『カタナ』を習熟した方が将来的にはずぅっとイイからネッ」
「ただな……」
納得しかかった周囲の空気を巻き戻すかのように、ロッシュが少しだけ言葉をためてから吐いた。
「『空龍の牙』はとんでもなく強固であったらしい。それこそ、ヒトの力では傷一つ付けることも適わぬほどにな」
「ほう」
ここで、今まで聞き役に徹していたフーゲインが声を上げる。
「読めたぜ! そいつを使って、あのアホみてえな斬れ味を持つ『ザンマトウ』を、折れることも曲がることもあり得ねえモンに造り替えようってこったな!」
「アラ、ちょっとそれは凄いンじゃあない!?」
「絶対に傷つかない斬魔刀! ハークさんが持てば無敵です!」
「全くです! それがあれば先の決勝戦も、ハーク殿が勝っていたに違いありません!」
どんどん飛躍していく仲間達の感想に、ハークは若干ながら苦笑いで返した。
「ははは、そんなに簡単にはいかんよ。だがまぁ、本当にそんなものが完成できるのであれば、楽しみだ」
「あ~~~、でも、『魔法的処理』の方法なんて、アタシでも知らないワよ。アレにエルフ族は関わっていないハズだから」
「ぬ? そうなのか?」
盛り上がりに冷や水かけられた気分にさせられるが、救い主は直ぐに現れた。
「そこで、だ。我が家秘蔵の書物が役に立ったらしい!」
ランバートが得意気に言い放った。
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