130 第10話19:I come to bring you HELL!!




「お、おい、エルフ殿! 何する気だ!?」


 当然の如くパルガが口を挟む。

 だが、ハークはもう引く気は無かった。


 既にスカベンジャー・トゥルーパーは破損した両腕と頭部のパーツを新たに新調し、万全の状態に戻っている。だが、それも関係無かった。

 自らの手で自らの汚点をそそぐ目的も確かにあった。が、このまま自分が手を拱いていれば、誰かが取り返しのつかない大怪我を負う、もしくはそれ以上の事態に陥ることが充分に予測出来てしまったからだ。


 だからこそ、ハークは高らかに言う。


「儂を信じろ!!」


 と。


 虎丸とシア、そしてシンはハークに名を呼ばれた時点で既に率先して戦う覚悟と決意を固めていた。

 だが、テルセウスとアルテオは、この時点では若干の逡巡を拭えずにいた。

 それは、経験豊富な先達冒険者の助言を無視してまで、経験もレベルも低い自分達が戦って良いのだろうかという迷いだったのだ。が、このハークの言葉を聞き、二人もその全てを吹っ切った。


 ハークは続ける。


「足りぬならば虎丸も信じろ!!」


「ガウア!!」


 まるで、そうだ!! とでも言うように虎丸が追従して吠えた。

 これで年配冒険者たちも納得せざるを得なくなった。最大戦力であり、たった今身を挺して助けられた虎丸の言を無視することなど出来なかったのだ。


 二の句を告げられぬ先輩たちを後目に、ハークは気合一発、ずどん! と地響きすら感じられるほどの勢いで大太刀を地に突き刺した。


「行くぞぉおお、皆! 一発デカいのをぶち込む! テルセウスは遊撃! 他の皆は我が剣戟に続け!!」


「「「「了解(だ!)(です!)!!」」」」


「全力、全開だぁああーーー!!」


 おおおおおおおおーー! と、ハークの気合の発露に、仲間たちはあらん限りの鬨の声で応える。それと同時にハークは、己の中の残り魔力のうち、凡そ半分を突き刺した大太刀を通して大地に浸透させた。


「うおおおおおおおおおおおお!! 剛秘剣・『大・山津波』ぃいいいい!!」


 これがSKILLとして定着などしないかもしれないことなど充分に察している。効果があまりにも似た技は世界に定着しないと前にエルザルドが語って教えてくれていたからだ。だが、いつもの秘剣・『山津波』とは違うとばかりに、ハークはそう叫んでいた。

 大量の魔力を浸透させたお陰か、将又新技名を叫んだお陰なのか、しかし効果は劇的だった。

 全力でもって天に向かって斬り上げた大太刀『斬魔刀』は魔力を浸透させた土砂全てを大量に巻き上げ、常なる『山津波』の3倍もの巨大な奔流となって敵に襲い掛かった。



「ギギィイイイ!?」


 魔物とはいえ、スカベンジャー・トゥルーパーも驚愕の悲鳴を上げた。

 記憶の欠片にも無い未知の攻撃がその身に迫っていたのだから。


 剛秘剣・『大・山津波』と名付けられた超剣戟土石流は、その勢いを全く失うこともなく、そして避ける暇を与えることもなく、スカベンジャー・トゥルーパーの三面二臂の体躯を飲み込んだ。同時に、内で暴れ狂う砂塵土塵で形成された無数の刃が次々とスカベンジャー・トゥルーパーの身を覆う甲殻鎧を斬り裂いていく。

 せめて両の腕を畳み込み顔面と胴部位を庇うようにして縮こまるしかない。


 次々と貼り付けられた鎧が破壊されていく。成す術など無い。

 レベル38の精霊獣である虎丸とほぼ同等の攻撃力を持つハークが全身全霊を込めたSKILLなのだから。例えレベル30まで成長したジャイアントシェルクラブと同等の防御力を以てしても堪え切れる道理は無いのだ。


 地獄から湧いて出たかのような土石流が漸く過ぎ去った頃、殆どの甲殻は剥がれ落ち、胴体部に残った鎧の多くも傷付いていた。武器である頭部と腕部の先に装備した死骸部位も稼働不可ではないがかなりの損傷を受けている。

 だが、そんなことはどうでもいい。人知れずスカベンジャー・トゥルーパーは甲殻に包まれた暗闇の中で口の端を吊り上げていた。

 何故なら、幸運なことに肝心の本体はほぼ無傷であったからだ。本体さえ無傷ならば、また死骸という素材を使って固めていけばいい。

 そう思って防御態勢を解いた時であった。


 眼前に3人の人間種3体の敵が居たのである。


 剛秘剣・『大・山津波』に巻き込まれぬように注意しながら後を追うように間合いを詰めていたシン、アルテオ、そしてシアであった。


 もはや間に合う筈もないと半ば悟りながらも、スカベンジャー・トゥルーパーは両腕のスティンガーアサルトトードを構える。


「うおりゃああっ!」「せいやぁあああ!」「「『剛撃』!!!!」」


 シンが右腕、アルテオが左腕のスティンガーアサルトトードの頭部を斬り裂き、其々完全に破壊する。


 それでもスカベンジャー・トゥルーパーは構わなかった。焦らなかった。

 ファイアサーペントの頭部、その火炎放射の発動準備さえ整えば。

 だが、それも叶わない。突進してきた中で最も身体の大きな敵シアが既に懐にまで到達していたからだ。


「『剛乱撃』ぃいい!!」


 シンと同じく、シアも覚えたばかりの新SKILLを発動する。


 『剛乱撃』は強力な一撃を繰り出す『剛撃』と、武器を振るう速度を魔力によって後押しし攻撃速度を向上させる『連撃』を組み合わせた『剛連撃』の劣化版のようなSKILLである。だが、攻撃がある意味パターン化されて単調になるという欠点はあるものの、消費魔力値(消費MP)が一撃一撃毎に非常に重く、切り札的要素のある『剛連撃』の致命的欠陥を見事に抑えた、時と場合を選べば優秀なSKILLであることに変わりはない。


 そして、他の戦士的ステータスは非常に充実しているものの、最大MP値のみがネックなシアにとって、『剛乱撃』はこの上ない高相性SKILLとして機能していた。


「せぇえりゃああああああああああああああああああ!!」


 ブン回し、横殴り、カチ上げ、打ち下ろし、更に踏み込んでのブン回し。次々とシアの攻撃がヒットする。的確ではないにしても、高い攻撃力で着実にダメージが蓄積されていく。その証拠に最早頼みの綱であるファイアサーペントの頭部パーツは使用不能な状況に陥っていた。

 そこには、ここで押し込み自分の手で決めてやるというシアの決意にも似た気合が込められていた。


 スカベンジャー・トゥルーパーは、ここで初めての強い焦燥感に捉われた。既に無事な部位パーツ、装甲は一つとしてない。このままでは全てを破壊され、自身ごと押し潰される。


 強い恐怖感。

 それがスカベンジャー・トゥルーパーに『強制解除パージ』を選択させた。


 脱皮の如く、そしてトカゲの尻尾切りが如く、そして脱兎の如く、彼は最早用を足さなくなり砕かれかけた自身の身体を守る最後の使い古しの殻を脱ぎ捨てる。

 その勢いで後方へと跳ぶ。

 脱出成功。彼はそう確信し、内心ほくそ笑んだ。


 が、背中が、腕が、何かに絡み、受け止められる。慌てて確認すると周囲の植物の蔦が伸び、まるで罠の如く不自然な網を形成していた。


 馬鹿な! こんなところを生育操作した覚えは無い! 彼はそう思った。


「『大地の庭師アース・ガーデナー』! まさか自分の得意魔法で捕まるなんて、夢にも思わなかったでしょう!?」


 もはや彼は、袋の鼠だった。



「いっけええええ、虎丸ぅ!!」


 主の指示のもと、虎丸は奔る。そして、最高速度に達すると同時に、自身の最強攻撃SKILLを発動した。


ガウッランッガウァアアアアペイジイイイアア・ゴッッアガァアタイッッガァアアァアアアアアアアアア!!!」


 音速を優に超えた一撃は、自然界では絶対に発生することのない、横へと延びる竜巻を確かに一瞬発生させた。

 一切合切を穿ち貫き、弾け飛ばせた虎丸が牙に咥えられていたのは琥珀色の大きな魔晶石。


 それは勝利の証であった。


 僅かに届く焚火を受けてその光を目にしたシア、シン、テルセウス、そしてアルテオは自分たちが成し遂げたことを確認する。


 それは勝利。その勝利に確かに自分が、自分の力が貢献したという証。


「いよォーーーーーーーーーーー……」


 ハークがタメる・・・。『斬魔刀』を持つ右手を突き上げる準備をしながら。

 砂塵を巻き上げながら停止した虎丸が、まるでこちらに証明し、それを掲げるかのように咥えたままの顔を突き上げた。


 それを視て、仲間たちが一斉に拳を、武器を天に向かって突き上げた。


「「「「「っしゃあああああああああああああああ!!」」」」」


 それは確かに勝利の雄叫びだった。


「何だよ、コイツら。既に一端いっぱし……なんてモンじゃあねえ。既に充分、一級品じゃあねえか!!」


 それはパルガからの最大級の賛辞であった。



「参ったねえ……。無傷かよ」


 リードが溜息交じりに言う。


「やれやれ、もう教えることないわねえ」


「逆にあの連携……参考にしなきゃね~」


 ジーナとケフィティアがそう追従する。

 その横で、悔しそうに、でもどこか嬉しそうにシェイダンが呟く。


「チッキショウ、シンの野郎……。俺たちとの戦いじゃあ実力の一端も出してなかったみてえじゃあねえか」


 その肩をポンと叩いて、ロンが言う。


「そんなことないさ。ハークさんの指示のもと、その実力を連携で最大限発揮したのさ。僕らも見習わなくちゃな。そうじゃなきゃ、追いつけない」


「分かっているさ。ロン、必ず追いついてやろうな!」


「勿論さ!」


 ロンとシェイダンはそう言って拳をぶつけ合った。

 そしてその隣、ロウシェンがすぐ横に立つロジェットにだけ聞こえるように呟いた。


「ロジェットよ」


「はっ、兄上」


「我らは……どうやら通うべき場所、入学する寄宿学校を……選び間違えたようだな……」


「……そうかもしれません。ですが、まだ勝負は始まってもおりませんよ。そのように弱気ではいけません」


「分かっておる。負けるつもりなど毛頭ない。が、我らは相当に不利な状況からスタートするのだ。それを肝に銘じなければいかんな」


 その視線の先には、喜び勇み、互いに手を叩き合う、確かな絆を持った冒険者たちの姿があった。





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