36 第4話04:依頼②
『限界レベル』とは、多くの人間達が努力をして最終的に到達できるレベルが25であることが多いため、所謂、一般人の限界値を指す意味でも使われる。
その『限界レベル』を軽々と越えていく一部の強者を人々は天才や猛者、或いは英雄と呼び褒めそやすのだが、一方で不思議なことにモンスターも、このレベル25で強さの成長が止まるものが多い。
そして人族の天才、猛者、さらに英雄らが軽々とその『限界レベル』を超過していくように、一部のモンスターもこの『限界レベル』以上の強個体が時たま出現するのである。
「へえ、それはあたしも知らなかったよ。『限界レベル』以上のトロールか…。確かに厄介な問題だね。実際のレベルは幾つなんだい?」
「ここからそう遠くない場所だからな。ギルドの職員が実際に現地に行って『鑑定法器』を使って調べてみたところ、そのトロールのレベルは――」
ジョゼフが一瞬溜めてから、吐き出すように吐露する。
「32だ」
「32!? それは本当に問題じゃないか!? そこまで高レベルだと古都3強さんにお任せするしかないだろうけど、今は時期が悪いか…」
「ああ、シアの言う通りだ」
「すまぬ。どういう事だ?」
シアとジョゼフには分かっていてもハークにはさっぱりである。素直に聞くしかない。こういう時には今の己の幼い容姿が良い方向に影響しているなと思った。
「今、街の西に魔物の領域が発見されていてね、討伐ラッシュなんだよ。そこで多くのモンスターを討伐できるから、実力者もわざわざ危険を冒してまで高レベルモンスターを相手にする必要がないんだ」
「シアの言う通りだ。加えて言うなら、トロールってモンスターがとてつもなく厄介な上に、その割に恐ろしく身入りの少ないモンスターだからな」
「そうなのか?」
ジョゼフの追加台詞にハークが尋ねる。
「トロールってのは大型亜人系のモンスターでなァ。人をそのまま2倍以上デカくしたようなモンで、力が強え上に棍棒なんかの武器も使ってきやがるんだが、奴らがとにかく厄介な相手とされるのはそこじゃねえ。奴らは不死身かってぐらいに刺しても殴っても斬ってもすぐに再生する躰の持ち主なんだ。その無茶苦茶な再生能力は奴らが体内に貯め込んだ魔力を消費し切るまで続きやがる。だから、生半可な実力差じゃあトロールとは戦えない。倒し切れなきゃ粘られて形勢逆転されることも珍しくないからな。さらに、何とか倒したとしても、再生能力に使用され尽くした魔石は状態が劣化しちまうことも多く、その他の素材も価値は殆ど無え。皮なんかクサくて使えやしねえし、人間型モンスターの肉は食うヤツも取引するヤツも殆どいねえからな。倒すのに苦労させられる割に、金にならねえモンスターの代表格って言われてるくらいだ」
「苦労した割に見合わんモンスターということか」
「そういうこった。こういう場合、討伐報酬を高く設定するしかないんだが、1か月前から出しているこの依頼をスラムの連中がどうにかかき集めてきた金で何とか金貨1枚にまで引き上げてくれたにも係わらず、この1週間未だに依頼受注者が現れねえ。御領主様も早く彼らの生活を安定させてやりたいとお考えのようだが、この国の人間でもない彼らに過剰な援助を与え過ぎれば、臣民たちの反発を招くことになりかねんと手を拱いている状態だ。この街の城壁内に受け入れたことも含めて、今まで結構な援助を行っているからな。これ以上は議会をごり押すのも限界だろう」
ハークは為政者の立場に立ったことは前世を含めて無いが、国の上位に立つ存在が特定の集団に対して無闇矢鱈の依怙贔屓の末に国が乱れた例は数多く見聞していた。それに何らかの理由が附随すればまだ良いが、敵国の避難民では優遇する理由となるどころか逆である。
「それは確かに、打つ手がないな」
そういうとハークは考え込む振りをして虎丸らに念話を飛ばす。
『虎丸。トロールとは実際どうなのだ? 戦った経験はあるか?』
『何度かあるッス。ジョゼフという人間が言う様に厄介なモンスターッスね。鈍重なクセに兎に角しぶといッス。ただアイツらは火が弱点で、燃やした個所は再生速度が鈍った筈ッス』
『ふむ、エルザルド。お主はどうだ?』
ハークの首から下げられた、エルザルドの知識が封じ込められた魔晶石がスタンバイ状態を終えて、主の質問に答える。
『トロールは人族の生活圏外では数多く生息するモンスターだ。当然、戦った経験は多い。あ奴等は強力な再生能力故か明らかな格上相手にも戦いを仕掛ける種族だ。とはいえ蛮勇というよりは頭が足りないだけのようであるがな。虎丸殿の言う様に火に弱く、しかも首から上を消し飛ばせば、それ以上再生されることなく朽ち果てるぞ』
『ほう、いい情報だが頭部を吹き飛ばすなんてのはドラゴンならではの芸当だな』
『オイラも魔法攻撃とかに関してはからっきしッス。もうご主人に魔導力では追い抜かれてるッスからね。ヒト族でも上級の火魔法を使えればトロールの頭部を吹っ飛ばすことも可能かもしれないッスけど、オイラ達にはそういう攻撃要員が足りないッス』
『少し前に聞いた、役割を効率よく分担出来得る
どうやら厄介厄介と言われれば言われるほど、ハークとしては一戦交えたい魅力的な勝負相手となってしまうようである。その主の様子に虎丸は敏感に反応した。
『ご主人、戦ってみたいッスか? オイラが居ればレベル32くらいのトロールなら難無く倒せると思うッス。もし危なくなったとしても、トロールは動きが遅いッスから、シアとご主人二人くらいなら背に乗せて簡単に離脱が出来るッス』
『そうか、虎丸がそう言ってくれるなら心強い。何よりすらむの民達を助けたのなら、ちゃんと最後まで助けぬと気が済まん。協力してくれるか?』
『モチロンッスよ!』
これで相棒の同意は得ることが出来た。残るはもう一人のパーティーメンバーである。
「シア、儂はこのトロールの依頼も受けようかと思っている。お主はどうだ?」
その言葉に、シアは当然驚き目を見開いてハークを見つめ……、るかと思ったのだが、意外にも慌てた様子も無く応えた。
「何となくそんな感じはしていたよ。だけど本気かい? 32レベルといったらあたしも役には立てないよ? 下手すりゃ虎丸ちゃんだけで戦うことになりかねないかもしれない」
ハークの様子からこうなることを予期していたらしい。何とも頼もしい新パーティーメンバーだとハークは思った。
「心配はいらん。虎丸が太鼓判を押してくれた。もし危険な場合は儂ら二人を背に乗せて退却することも考えている」
我ながら、まさに文字通りの虎の威を借る発言だとも思ったが、勿論、虎丸を一人で戦わせる気などない。シア、そしてジョゼフを納得させるための方便である。
そのジョゼフが、当然とも言うべきか口を挟んだ。
「その意気はありがてえ話なんだが、レベルが伴ってなきゃ自殺行為だ。ギルドの頭として認めるわけにはいかん。その魔獣のレベルを教えてくれ」
「37だ」
ハークが即座に答えた。元々秘匿する気などない。『鑑定法器』ですぐに計られてしまうこの世界に於いて、レベルを秘密にする意味などない。
「37とは、これまた凄えな。前から気になっていたんだがお前さんの魔獣、精霊種なんじゃないか?」
「その通りだ」
これも簡単に答える。見る者が見れば判るというし、驚くべきSKILLの数々が存在するこの世界でも、『念話』を扱える魔獣が只者のワケはないらしい。ギルドの受付嬢も含めてシアや複数の人間とも念話させているから、韜晦するにしても今更の話であった。
「マジか……。俺も初めて見たぜ。お前さんには度々驚かされるな。まァ、そういうことでありゃあ問題無え。ただ、本当に、命は無駄にするなよ?」
「承知した」「はい!」
ハークとシアが殆ど同時に応えた。
ギルド長の用事もハークらへの話も終わり、2人と1匹は応接室を出て階下へ向かった。
すぐにでも討伐へと向かうつもりの一行であったが、応接室を出る間際にジョゼフから、良ければ依頼主にも会ってやってくれと頼まれていた。
何でも中々受注者が現れてくれない為、スラムの者たちで時間が開いたものが順番にギルドを訪れて様子を見ているようなのだ。さすがに直接声を掛けての勧誘はご法度なのだが、見どころのある人物を見つけて依頼を打診する、所謂名指しの依頼は毎日行っているらしい。
彼らに、依頼を引き受けた者が出たぞということを伝えて、少しでも早く安心させてやって欲しいとのことだった。
1階に降りたハーク達は早速受付嬢に、今ギルドに来ているスラムの者を呼んで来てもらうよう頼んだ。
程無くして、受付嬢が連れてきた
「あれ? あんたは…」
気づいたのは向こうも同じだったらしい。
彼は自らの名をシンと名乗った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます