第3話 幽霊だった、んだけど。
「ここか…」
「随分立派な木ですね」
「樹齢千年は超えてるだろうな」
「あ。あかね、あそこ見てみ!」
言われて指された指先を目で追うと…ああ、やっぱりいた。見た感じ生霊とかの類ではなさそうだな。
あたしは桜の木の下にちょこんと座ってる少女のそばまで行き、話しかけた。
「こんにちは」
突然声をかけられ、驚いたようにこちらを見た。そりゃ驚くよね。幽霊が生きた人間に話しかけられる事なんて滅多にないだろうし。
「…お主、妾が見えるのか?」
随分と時代がかった言葉に、高貴な生まれの人なのかな? ってちょっと思う。
「うん。なんかね、よくわからないけど成り行きで。ここで何してるの?」
「民を、町を守っておる。妾はもう随分と長い間民の暮らしを見つめてきた」
「そっか…それで工事の人の邪魔をしたの?」
「…妾は、この桜の木、そのものじゃ。この木を失えば、妾も消える。それはいかんのだ」
「どうして? 成仏しようとかは思わないの?」
「妾には役目がある。妾は、民を守るために、人柱となった。未来永劫、この町が平穏であり続けるために」
人柱、ということは、町のためとかよくわからない理由で、こんな小さな子が生き埋めにされたってこと? それをまた、何千年もたった今でも、必死で守り続けてるってこと?
私は腹の底になんとも言えない感情が渦巻くのを自覚しながら、ことさら優しく言った。
「そっか。わかった。また遊びに来てもいい?」
「ああ。妾はいつでもここにいるからな。来たい時に来るといい」
じゃあ、またね! と手を振り、十分距離をとってから、あたしは誰にともなく呟いた。
「あんな小さな子どもが人柱? おかしいでしょ?」
「まあ…そういう時代だったのかもな」
「やりきれへんけどな」
「私もお国のため、って特攻したクチですからね。わかるんです、が…あの方はまだ7つかそこらですよね」
「で? どうするんだ? 業者の方も納期とかあるだろうし必死だろうからな。いつ強行手段に出てもおかしくないぜ」
「幽霊やって報告したら坊さんとか拝み屋とか連れてくるかもしれへんしなあ」
「んー…どうしようかなあ…」
悩みだした4人の背後から、遠慮がちに小さな声がかかる。
「あの…桜の木を残したまま工事をしてもらうのはできないんでしょうか? ショッピングモールの中に桜の木があるのも風流でいいのではと思うんですが…」
少女の存在、すっかり忘れてた。残したままで工事が進められるなら、とっくにしていそうなもんだけど、と思いながらも、少女の言葉の何かが、心の奥で引っかかった。
「そうだね。それも含めて考えるとして、とりあえず事務所帰ろう」
後ろからちょこちょこっと追いかけてくる少女に歩調を合わせてやり、手をつないで事務所へと歩いていった。
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