尻尾
ノエルからミシャの本性を聞いたラケシスは青ざめ、カタカタと震え出した……のは年齢からか?
「なにをコソコソ話してるの?」
「い、いやなんでもねっス! こんな変わった依頼を受けて頂いて嬉しいなぁ……的な? そのパッションマジリスペクトっス!」
最早キャラが迷子になっているラケシスをシラけた目で見るノエル。
「とにかく、討伐対象であるピクシーを探す所からやらなきゃならないって訳ね」
溜息交じりに話すミシャ。
ラケシスは小さく頭を下げて、
「申し訳ありませぬ。 しかしこうして冒険者様が来てくれただけでも僥倖、以前は誰も相手にしてくれませなんだ」
「以前にもクエスト依頼を?」
「じいさん、前にもあったなら先に言えよな」
依頼を出したのは初めてじゃない、その言葉に食い付く二人。
「いえ、あの時は……」
「事例があるなら聞いて損はないし、解決の糸口になりますよ?」
「だから……」
「早く言えよ、死ぬ前に」
「ねぇ亜人ってみんなこう? ハーフ限定?」
話せない事情があるのか渋るラケシスを問い詰める二人。 その口撃に一つ溜息を吐き、ラケシスは諦めたように語り始めた。
「そこまで仰るのなら、お話しましょう。 ……あれは、まだばあさんが生きていた頃じゃった。 まだわしも長老と呼ばれる前の40代後半「今も呼ばれてねーけどな」のある日、いつものように村の為にと村長業に精を出して帰ると、ばあさんが鬼の形相で仁王立ちしておったんじゃ。 ――え、なんなん? 新種のモンスター? と思ったわしは、怯えながらもその怒りの原因を訊くと、ばあさんがそこにある筈のない物を持っておった。 それは……」
「「それは?」」
「巧妙に隠してあった筈のわしのヘソクリじゃった」
「「…………」」
「バカな……お天道様でも気付か――」
「もういいわ」
「お前よく村長になれたな」
長々と聞いたのが馬鹿らしいと軽蔑の眼差しを向ける二人。 どうやら最初の依頼理由は完全にラケシスの私怨だったようだ。
「ここに居ても無駄みたいね、自分達で調べましょう」
「ああ、この村は救えてもこのじじいは救えねぇ」
二人が腰を上げようとした時、再び玄関のドアが開く。
「村長!」
「一人ぐらい長老って言えや税金上げたろか」
入って来たのは体格の良い筋肉質な村人で、明らかに不満そうな表情をしている。
「まーたアンジェのヤツが悪戯しやがってよ!」
そう言って突き出してきたのは、まだ幼さの残る少女だった。
「えへへへ」
舌を出して笑うアンジェと呼ばれた少女。
10代半ば程だろう少女は、短めで真っ直ぐな髪、前髪は右目から左目に向かって斜めに切り上げられている。 印象的な髪型だが、何より目に留まるのはその鮮やかなエメラルドグリーンの髪色。
一目で天真爛漫とわかるくりくりとした大きな瞳、愛らしい小さな小鼻、何故か年齢的には不釣合いと思われる立派な胸が、ベージュのワンピース越しにふんわりと主張してきている。
「おおアンジェ、今度は何をやらかした?」
「嬉しそう言わないでくれよ、こっちは大迷惑なんだからよっ!」
「あっ! お客さんだー!」
ランジェは見慣れない二人に気付くと、ラケシスの問いも頭から抜けて駆け寄って来る。
「おおっ!?」
「わぁ! この人尻尾あるー! 犬なの?」
――――ほぼ正解だ。
「誰が犬だ! こ、こらっ、痛ぇって!」
珍しい亜人のハーフに興味津々のアンジェ。 ノエルの尻尾を引っ張って遊び出した。
「俺は仕事に戻るからしっかり躾けてくれよな、村長!」
「長老了解じゃ」
言い捨てて村人は仕事に戻って行った。
「早速躾け始めろじじいっ! 俺の尻尾が千切れる!」
「きゃははっ! 」
悲鳴を上げるノエルを生贄にミシャは素知らぬ顔。
「お孫さんですか?」
「いやいや、残念ながら孫ではないんじゃよ」
「というと?」
「アンジェはのぅ……―――わしのコレ」
ラケシスが小指を立てて、ニンマリといやらしい顔をした瞬間。
「じじい、いい加減にしろよ」
「先に討伐しなきゃならないのはこの老害だわ」
年老いた首の左右に両手剣と短剣が突きつけられる。
―――緊急クエスト『老害エロじじい討伐』が発生っ!
「――し、信じるほど若い? わし……」
信じちゃいないがふざけ過ぎ。
不真面目な老人にはお灸が必要だ。
「ミシャ、この村には新しい村長が必要だと思わねぇか?」
「ううん、まだわしやれるし」
「同感ね、まぁ村長の一人ぐらいいなくなっても……ピクシーの悪戯……よね」
「いやさすがにないじゃろ」
―――危うし村長。
こちらの冒険者御一行は村ごと消す可能性もあるぐらいだ、村長一人消しても全くの
まもなく村に新村長選挙が始まると思った時―――
「おねーちゃんは尻尾ないのぉ?」
「きゃあっ!!」
女のような悲鳴を上げるミシャ。(女か……)
どうやらアンジェに尻尾が無いか触られたようだが……
「な、なにするの!?」
「あるのかな〜と思ってぇ」
狼狽えるミシャを揶揄うようなアンジェ。
「いやぁ、これは失礼しました。 驚かせてしまいましたな」
「あたりまえでしょっ!」
幼いアンジェに代わって謝罪をするラケシス。 やっと年長者らしい所を見せるが、
「どうもアンジェは、見た目に似合わず巨乳でしてな」
―――その時、凄まじい速さで横一閃に刃が空を切る。
「……そこじゃない……」
こんな幼い少女にボリューム負けした事が癇に障ったのか、じじいの呆けが雑だったのかは不明だが、長い眉毛に隠されていたラケシスの目が良く見えるようになったのは確かだ。
「……ノ、ノエルさん? 彼女は魔導士様……でしたかな?」
「言っただろ、自称……だ」
眉毛が短くなったラケシスは引きつった顔で笑いながら、
「い、いやぁっはっは、お陰で視界が広くなりましたわい」
「次は何も見えなくなるわよ」
さぁ、それは目が見えなくなるのか、
「ねぇ、あの人ガチで言ってる?」
「さぁな、試してみろよ」
ひそひそと話すノエルとラケシス。
年齢差は半世紀以上だが、中々いいコンビになりそうだ。
「尻尾のおにーちゃんの仲間なんでしょお? だからおねーちゃんにも尻尾あるのかと思った!」
またアンジェに絡まれ出したミシャ。
流石のミシャでも相手は女、それも子供とあってはいつものように力でねじ伏せて蹂躙して調伏することは出来ない。
「あのね、私は純血の人間なの、そんなもの付いてる訳ないの!」
「そかー、がっっかり………」
やっと納得してくれたじゃじゃ馬娘に溜息を吐く。
「おお可愛いアンジェ、そう落ち込むでない。 ミシャさんにはちゃんと面白いものが付いておるぞ」
消沈のアンジェを励まそうと声を掛けるラケシス。
「ホント!? じーちゃん!」
「ああ、もちろんじゃ」
「なに言ってんだか」
子供に付き合う好々爺にシラけた視線を向けるミシャ。 一方、ノエルは何かに気付いたように、
「あっ! そうか!」
「「悪魔の尻尾っ!」」
――――この後、じじい&犬は一命を取り留めたが、ピクシー探索が始まるまでには多少時間を要したのだった。
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