第二章

魔女と狼、いい加減村に入れ

 


 ここは、自然豊かな小さな村『ラッセルベリー』。


 可愛らしい木造の家が建ち並ぶこの村には、特に目立った特産品は無いが、あるものを求めて観光客がやって来るのだ。


 それは、



 ―――『妖精ピクシー』。



 大昔からこの村で語り継がれる可愛らしいピクシーの逸話が広まり、家族連れや恋人達がそれを “見たい” 、その可愛らしい悪戯を “体験してみたい” 。


 そんなキュートなファンタジーを求めて村を訪れる。


 実際に目で見れるものではないのだが、眼鏡を探していたら頭に掛けられていたり、女の子のスカートを引っ掛けて恥ずかしがらせたり、デートに向かう男の子の顔に落書きをしたり。


 何故それがピクシーの悪戯だとわかるのかと言えば、被害にあった人々は口々に同じ事を言うのだ。

 それがピクシーの悪戯なのかも、と思った時、ふんわりと身体が温かく感じるそうだ。


 それは、悪戯に気付かれたピクシーが「ごめんね」、と言っているように感じるという。


 なんとも可愛らしいお話なのだが………



 最近はちょっと笑えない被害が出ているようで、遂には『妖精の討伐』、という依頼が出されるまでになってしまった。


 あまりに奇抜なクエストに誰も手を出さなかったようだが、そこでやって来たのがご存知奇抜な二人のパーティ。


『ピクシーの討伐』から世界を変える大業までこなそうというソロの亜人ハーフ、ノエルと、拗らせ派遣社員は仮の姿、『魔女』、『大天使』、『堕天使』と様々に変化する大魔導士ミシャの二人は、まだ村の入り口で迷惑なドンパチを繰り広げていた……。



「3年で英雄? 俺ぁまだシルバーなりたてだぞ!?」

「次の更新でゴールドになればいいでしょ?」


 冒険者カードの更新は半年に一度行われる。 現在シルバークラスになりたてと言うノエルに、ミシャは次でゴールドクラスになれと簡単に言うが……


「んな簡単になれっかよ!?」

「簡単になれなんて言ってない、死ぬ気でなりなさい」

「くっ……!」


 声を荒げるノエルに冷静な声音で応答するミシャ。

 まぁ、彼女を指名しただけでも『英雄』なのかも知れないが……。



「あ、あのぅ……」



 やり合う二人に恐る恐る声を掛ける村人。

 早朝から村の入り口でやかましくされては人も集まろうというものだ。


「ああっ!?」

「ひぃ……っ!」


 30代後半程の、いたって普通の村人を威嚇するノエル。


「やめなさいノエル、無関係な人に迷惑でしょ?」


 少し前に辺り一帯を消し去ろうとしていた人間の言う台詞か。


「も、もしかして、依頼を受けて頂いた冒険者の方ではと……」


 怯えた様子で話す村人に、


「そうだけどよ、ちょっと待ってくれ。 ここからが俺の真骨頂だ」


 村人の耳元で囁くノエル。

 冒険と言うよりは交渉術に重きを置いたファンタジーはその真骨頂を迎える。(冗談ですよ)



「……ミシャ、俺は力の無い男だ……」

「そんなの知ってるわよ」



 ―――こんな女と添い遂げられる?



 とノエルは自分の胸に問い掛ける。



「そんな俺に賭けてくれたのは嬉しいし、精一杯やってはみるつもりだ……」


 牙を研ぐ……という牙を無くした人狼は、物憂げな顔で嘘くさい声色を吐く。


「――だがっ! もし3年後、俺が英雄になれなかった時には、大事なお前の人生を台無しにしたくない……」


「ノ、ノエル……」


 三文芝居に瞳を潤ませるミシャ。

 側にいる村人は、英雄だの人生だのと朝からのたまう二人に呆然としている。



「だから、もしそうなったら……俺はどんな手を使っても金持ちのボンボンを攫ってお前に差し出し、必ず幸せになってもらうつもりだ」


「ええっ!?」


 ノエルの “解決策” に驚愕の声を上げる村人。

 やろうとしている事は “誘拐” 、どんなに感動的に話そうとも、それは自分が魔女から逃れる為の “生贄” に他ならない。


 ミシャは、



「……そこまで考えてくれてるなんて……」


「ええっ!?」


 またも驚愕の声を上げる村人。 安心しなさい、あなたの反応は正しい。


 両手を胸で祈るように組み、感動に打ち震える痛い女は語り出した。



「安心してノエル。 その時には、私達二人にぴったりの禁忌魔法があるから……」



「「は?」」



 ノエル&村人の頭の上にハテナが浮かぶ。

 だが、ノエルはミシャを知っている。 故に危険なワードが飛び出した事に気付き、瞬時に嫌な予感が彼を襲った。


 そのワードは……




 ―――『禁忌魔法』。




(……嫌な予感が大安売りだぜ……お前の存在自体が “禁忌” な気がするのは言い過ぎか?)



 言葉にすれば即死確定の独白を心中で呟くノエル。

 そして、その予感の答え合わせが始まる。



「術者の力を暴発させて、命と引き換えに敵を倒す強力な魔法があるの」


「……そうなんだぁ」



『昨日彼とデートだったのに、彼ったら10分も遅刻したのよ!?』

『……そうなんだぁ』



 の、「……そうなんだぁ」を呟くノエル。

 ただ、ノエル場合生死のかかった一大事だが……。



「私の魔力なら半径1キロは何も無くなるでしょうね」


「ふーん……」



 それを回避出来る力があったら、多分自分は英雄になれてるよなぁ……などと、現実味の無い話に茫然と返事をするノエル。 村人はあんぐりと口を開け言葉も出ない様子。



「 “痛い” 、なんて思う前に逝けるから安心してっ」


「ああ、その “安心” 、かぁ……」



 この場合、



 ――― “安眠” 、いや “永眠” ですけどね。



 村人は思った。

 村を救いに来てくれた冒険者は、『誘拐犯』と村ごと消せる『魔女』。



 村に、入れていいのかなぁ………と。






 キュートなファンタジーを提供する可愛いらしい村、『ラッセルベリー』。



 果たして村はピクシーの被害から救われるのか?



 ―――いや、それ以前に、村が地図から消えるのかも知れない………。



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