その178 勢ぞろい



 「あ……ああ……!」


 「レ、オス……さん……」


 「むん!」


 『当たらないよ? そら!』


 「うわ!?」


 血だまりを作りながらか細く声を出すベルゼラを見て僕は膝をついて頭を押さえる。近くにいたカゲトさんがベルゼラを助けようと即座に動いたけど、バス子と共に僕達のところへ弾き飛ばされてしまう。

 

 そしてベルゼラ――

 あの時……前世の僕が人間を抹殺するきっかけになったもうひとりの少女ベルゼーラ……全部……全部思い出した……


 「だ、大丈夫ですかレオスさん!?」


 震える僕をバス子が支えてくれ、直後にガクさんが口を開く。


 「てめぇがアマルティアか! ラーヴァの国境ではてめえの部下にゃ世話になった。覚悟しやがれ」


 『ああ、セイヴァーを倒したのは君かな? おっさんにやられるとは情けないものだね。ま、それはそれとして――』


 ゾシュ!


 「う……」


 「お嬢様!?」


 アマルティアが手に持った剣でベルゼラの背中を刺した。すると僕の懐からテッラが飛び出した。


 「ピィー!!」


 「あ、ダメですよテッラ!」


 バス子が慌てて掴まえようとしたけど、テッラは一気に駆け出しあっという間にアマルティアの下へ辿り着く。そして初めてテッラが爪と牙を立ててアマルティアに飛びかかった。


 「ピピィィィ!!」


 『なんだい? 鬱陶しい虫だね。魔物のくせに大魔王の娘がやられたことを怒っているのかい?』


 「ピィ!」


 「や、やめるんだ……テッラ……うぐ……」


 「チッ、カゲト、クロウ、勇者、行くぞ。嬢ちゃんを助けねぇと!」


 ガクさんが足元でテッラが暴れているのを見て攻撃を加えることを決意し、全員が頷く。しかし、一歩遅かった。


 『ふう、痛くもかゆくもないけど喚かれると邪魔だね? はい、おしまい』

 

 「ピ……」


 アマルティアが剣をテッラに向け、次の瞬間テッラは串刺しにされて声を発さなくなる。ドラゴンとはいえ小さい赤ちゃんであるテッラにはひとたまりも無かったに違いない。


 『さ、次は君達かい? 神に逆らった罪は重い。こいつらと違い、一番むごたらしく殺してあげるよ』


 ゴミでも捨てるかのようにテッラをベルゼラの近くへ投げ、こちらに向かって歩いてくるアマルティア。ルルカさんが居ない今、回復魔法は無い。かすかに肩が動いているのでギリギリ生きているようだ。


 ならば手段は選べない……!


 僕は痛む頭を押さえながらカバンに手を突っ込み、アレを取り出す。そして前に立っているガクさん達へ叫ぶ。


 「みんな、僕の前からどいて!」


 「レオスさん、それは!」


 「なんだ!?」


 びっくりしていたけど、僕の持っているものを見てすぐに理解し左右へ散っていく。それを見届けた僕はトリガーに指をかけて引き金を引く!


 『なんだい、それは? ……!?』


 バシュン!


 トリガーを引くと同時に放たれる二筋の光を見て、アマルティアが初めて驚愕の表情を浮かべた。これはまずいものだと直感が判断したのだろう。そう、もらったダブルビームライフルを撃ったのだ。


 「消えろ……!」


 『チッ、こんなことで……!』


 悪態をつくが、左胸と右腕に向かって伸びる光は確実にアマルティアを捉えていた。ベルゼラを殺した愉悦からきた油断が僕にとっては僥倖だと思った。もらった、そう思った瞬間、アマルティアを突き飛ばす人物がいた!


 「アマルティア様……! ぎゃぁぁぁぁぁ!?」


 『うぐ……!?』


 アマルティアの部下の最後のひとりだと思われる男がダブルビームライフルのビームに胸をつらぬかれて絶命した。当のアマルティアは右腕を焼かれ、剣を取り落とす。致命傷と呼べるほどではないけど、戦力を削ぐことはできた。


 「レオス! 嬢ちゃんとチビ助は回収したぞ!」


 「もう一撃……!」


 トリガーを引くが、発射されず僕は目を見張る。見ればチャージまで時間がかかるようだ。


 「くそ、連射はできないのか……!」


 『クソガキがぁぁぁぁ! 痛かっただろうが!』


 激高したアマルティアが腕を一瞬で再生させ、僕に襲い掛かろうと吠える。消えた部下の心配など微塵もない。そこへクロウ達が横から攻撃を仕掛けた。


 「させるか!」


 「光の剣が効くとは思えないが一応な!」


 「……もらうぞ!」


 『羽虫共が!』


 クロウの拳を打ち払い、アレンの光の剣をその身に受けるアマルティア。


 『ははははは! 光の剣は私が人間どもに託した物だ、お前の思う通り効かんぞ!』


 「ぐあ……!?」


 『無駄だ、レオスのあの訳の分からん武器には少々驚いたけど、次が撃てないみたいだね! その間に皆殺しにしてやる……! はは、はははは!』


 笑ってはいるものの、憎悪に顔を歪めて剣を振るい始める。クロウがギリギリのところで避け、アレンが光の剣で切り結んでいる隙に、カゲトさんが僕の作った刀でアマルティアへと斬りつけた。


 『馬鹿め、そんなものが――』


 ブシュッ!


 『なんだと……!? うぐあ……!?』


 「油断したな? 自分には効かないと思い込んでいるのがその隙を生む! 再生などさせんぞ!」


 『私に攻撃が通用するはずは……。エクスィレオス、お前の仕業か……!』


 「今更気づいても遅いよ……! 次のチャージが完了する、これで今度こそ終わりだ!」


 ダブルビームライフルのチャージはそろそろ完了する。その時、さらに僕達にとって幸運な出来事が起きた。


 「派手な爆発がしたと思ったらやっぱりか!」


 「ケガ人がいるよ、ブエルさんお願いね」


 「承知しました」


 「あ! サブナックさんにヴィネさんじゃないですか!? それにブエルさんも!」


 バス子が叫び、よく見れば僕を悪神モードにしたときに戦ったふたりがいた。もう一人は知らない人だけど、ガクさんの下へ大急ぎで走って行く白衣の人がベルゼラを治療できるらしい。


 「まさか先を越されているとはな! 手伝うぜ!」


 『悪魔ども……! いいのかい? 私の中にはバアルが取り込まれているのだぞ? アンドラスとか言う小物もね? 私を殺したら一緒に消えてなくなるよ?』


 ずるりと掌から悪魔の頭を出し、目を細めて笑う。


 「た、助けて……」


 悪魔が呻くと、ライオンの顔になった……サブナックが大剣でアマルティアへ斬りかかった。


 『……!? 正気か? 仲間を見捨てるというのか?』


 「アンドラス。それとバアル様もいるんだっけか? ……すまねぇ! アマルティアを生かすわけにはいかねぇんだ。俺達のために一緒に死んでくれ!」


 と、なんかとんでもないことを言いだしたので僕はバス子に尋ねる。


 「いいのバス子? あんなこと言っているけど」


 「……仕方ありませんね。アンドラスはどうでもいいですが、バアル様はお助けしたかった。でも、バアル様なら許してくれますよ! アンドラスはどうでもいいですが!」


 しくしくと泣きながら身体の中へ戻っていくアンドラスが少し可哀そうだったが、悪魔達は満場一致でアマルティアを消すことに決めたようだ。


 『おのれ……! 神に逆らうとは……!』


 「……お前のような神なら必要ない」


 「覚悟を決めろや、クソ野郎」


 『アレン! お前は勇者、神の為に戦う者だろうが……!』


 「あ? いや、俺は人間のために戦ってんだ。神託でもそう言っていただろうがあんた。だから今現在人間をおもちゃにするあんたは、俺の敵だってことになるよな?」


 アレンもそれっぽいことを言って剣を構える。効かないとは言っても牽制くらいはできるとの意思表示だった。


 風向きは僕達の方を向いた。悪魔達がいればダメージは通るし、カゲトさんの刀も十分な威力があることが証明された。後はダブルビームライフルを当てれば確実に消し去ることができる。


 『どいつもこいつも……! 神の力、そこまでして味わいたいか!』

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