その183 一件落着?



 『な、なんだこの技は!? さ、再生が……できな――』


 光の奔流に巻き込まれてアマルティアは上半身が斜めに切れた状態で壁に叩きつけられた。僕は構えを解かずしばらく様子を見るが、起き上がる気配は無かった。


 「はあ……はあ……お、終わった……?」


 (これで終わり、か。やったな、レオス)


 (コケッコー♪)


 セブン・デイズから声が聞こえ、僕は柄の宝石に向かって声をかける。


 「……まさか君が来るとはね。ありがとう、本当に助かったよ」


 (気にすんな。俺も、まさかこの世界に呼ばれるとは思ってなかった。気になってたんだ、お前達がどうなったかがさ。もう、大丈夫なんだな?)


 「うん。僕はもう間違えない。間違えたとしても、止めてくれる人がいるからね」


 僕がそう言うと、一瞬の沈黙の後、彼は言う。


 (なら、俺が言うことは何もない。元気でな!)


 「うん。そういえば随分声が変わった気がするけど……」


 (ま、俺もいい歳だからな……もう三十五だぞ? あれから二十年くらい経ってる)


 「え!? そんなに!?」


 っていっても僕も七万回転生しているんだからむしろそれくらいで済んでいるのは僥倖と言えるかもしれない。


 (娘のひとりがとんでもない能力をもっていてな……。毎日大変なんだ……)


 (コケー……)


 このコンビがため息を吐くということは相当なことに違いない。僕の世界に居なくて良かったと安堵する。


 (じゃあな! みんなにお前のこと伝えておくよ。俺の倒したラスボスは立派に勇者をやってたってよ)


 「僕は商人だからね!?」


 僕は反論をするが、もう彼の声が返ってくることはなかった。


 「……本当にありがとう」


 最後に呟き、剣を鞘に納めると、アマルティアに魔法を撃ち込んだメディナが額を拭いながら呟いた。


 「動かない。レオスの勝ち」


 「そういう確かめ方はどうなんだろう……」


 僕が呆れて見ていると、ベルゼラが手を振りながらこちらへやってくる。


 「やったわね、レオスさん!」


 「ありがとうベル! 君の攻撃が隙を作ってくれたおかげで止めを刺せたよ」


 「うん! ……って、私のことを『ベル』? もしかして思い出したの? 私もだけど……」


 ベルが複雑そうな顔で僕に言う。それは僕も同じ気持ちだけど、これだけは言わなければならないとベルに向かって口を開いた。 


 「うん。あの時はごめんよ上手くやれば死なずに済んだのに、僕達のせいで……」


 「ううん。あれは仕方なかったの。王族の妾の子だった私の指輪があの時、帝国には必要だったからどこへ逃げても追いついてきたと思うわ。それよりも、ほら!」


 過去のことはもういいのだと、ベルは笑い三階を指さす。するとそこには――


 「レオス!」


 「やったのね!」


 「エリィ! ルビア!」


 笑顔で手を振るふたりの姿があった! その横にはカクェールさんやルルカさん達も居て笑っていた。直後、エリィがルビアを抱えてフワリと浮いた。


 「うわ!?」


 「<レビテーション>! いくわよルビア!」


 「もちろん!」


 そう叫んで慣れないレビテーションを使い、僕とメディナのところへふらふらと降りてきたエリィが僕の胸へと飛び込んできた!


 「エリィ、良かった……」


 「レオスも……。死んでないって、来てくれるって信じてた。前世のはダメだったけど、今回はちゃんと助けてくれたね……。ベルも良かった……」


 「エリィ……」


 エリィはベルも手元に引き寄せて三人で抱き合い泣く。ルビアとメディナは前世の事情を知っているため、見守ってくれているようだ。そこで僕はふと気づく。


 「そうだ! テッラ!」


 「……ここにいるよ」


 そっとベルが胸元からテッラを取り出し両手に乗せる。身体を貫かれたテッラはもう冷たく、生きていないことがすぐにわかる。


 「私、悪魔の人から治療をしてもらったんだけど、どう考えても生きられる傷じゃなかったのよ。でも、テッラの血が私の口に入った時、急に体に力が沸いてきたの」


 「不思議ね……でも……ぐす……かわいそうに……」


 「あの世で幸せになる。大丈夫」


 多分一番可愛がっていたであろうルビアがベルからテッラを受け取り涙を流していた。そこでふと、ルビアが顔を上げ、高速でメディナの方を向いた。


 「あんたよく見たらメディナじゃない!? え? なんで!?」


 「メ、メディナ、生き返ったの? 大魔王達でもできなかったのに」


 「ただいま」


 相変わらずの目をしたまま、満足げにピースをするメディナ。積もる話はあるけど、ことはどんどん進んでいく。


 「外が崩れたと思ったら……どういう状況なのかな、これは?」


 「む、私の仲間が倒れているな。あの子達は?」


 「……僕の息子ですね。どうやら先を越された上に、終わっちゃったみたいかな?」


 「と、父さん!?」


 瓦礫の中をかき分けて現れたのは父さんと知らないおじさんだった。その声を聞いたバス子がひらりと舞い降りてくる。


 「アガレスさんです。わたし達悪魔のトップ2です。アガレスさん、バアル様は残念ながら……」


 「むう……」


 バス子の沈痛な面持ちに、アガレスというおじさんも顔を顰めた。助けられなかったことが悔やまれているのだろう。



 「なんでワニを連れているのかしら……?」


 僕も気になっていた足元にいる首にリボンを巻いた白いワニを見てエリィが呟くと、バス子が嬉しそうに言う。


 「ああ、カイくんはアガレスさんのペット兼乗り物なんですよ。人なつっこいので、可愛いですよ? おいでカイくん」


 「~♪」


 するとバス子のところへバタバタと白いワニが走ってきてじゃれてくる。確かに可愛いかもしれない……すると、ルビアの手にあったテッラに気付きルビアへじゃれる。


 「な、なによ……食べる気じゃないでしょうね」


 「~!」


 「テッラを見せて欲しいって言っていますね」


 「本当に大丈夫なんでしょうね?」


 「~!?」


 スッとしゃがんでテッラを見せると、白いワニは口をわっと開けた後しくしくと泣いた。似たような種族なので悲しいのかもしれない。亡骸をぺろぺろと舐め、ルビアを慰めていた。


 「終わったのかい、レオス」


 「父さん……。うん、終わったよ」


 アマルティアの方を見て言うと、父さんは僕の頭をくしゃりと撫でて笑った。


 「よくやったね。あのケガで抜け出したから心配していたんだよ? 帰ったら母さんに絞られる覚悟はしておくんだね」


 「そ、そうだね……」


 冷や汗が出る僕をよそに、エリィが周囲を見渡しながら言う。それと同時にカクェールさん達も僕達のところへやってきていた。


 「悪魔達もギリギリ生きているみたいだし、一件落着かな?」


 「みたいだな。エリィさんとルビアさんがすぐに助け出せて良かったよ、レオス達と戦っている時に、封印が解けたんだ。神の力を得たとしても、やっぱり分不相応だったんだろう、使いこなせていなかったのかもしれない」


 「ボクとティリアの魔法で壊せたもんね」


 ルルカさんが言うと、フヨウさんが頭に手を組んでからそれに続く。


 「ま、もう終わったことだしいいじゃない? みんな無事で、帰れるってことでさ。お兄ちゃんはこのまま埋めて帰ろう」


 「だね。ってにカゲトさんを探さないと!? クロウ達も瓦礫の下敷きじゃないか!?」


 フヨウさんの言葉でハッと気づき慌てて瓦礫に目をやる。しかし、僕の心配は杞憂に終わった。


 「でりゃぁぁぁぁ! クソ、油断した! 今度こそ……ありゃ?」


 「やっと出れた……岩くらい粉々にできないとダメだね……」


 「……武器がなければ私も無理だ……」


 ガクさんがでかい瓦礫を持ち上げて投げ捨てると、その下からクロウとカゲトさんも出てきた! これで全員無事が確認できたことになる。モラクスやダンタリオン、それと天井から落ちてきたグレモリーって人は白衣の悪魔に治療してもらっているので大丈夫だろう。魔聖のルキルもいつの間にか上から降りてモラクスについていた。


 「ふう……それじゃ、一旦町まで帰ろうか。この国のこととか色々あるけど――」


 「その辺は父さんに任せてくれ。勇者君にも手伝って貰うけどね」


 「俺にできることならなんでもやる。それが償いだと思うしな」


 気絶したレオバールを回収し、フェイさんに引き渡しながら父さんにそう言うアレン。考えがあるようだから後で聞いてみよう。

 

 あとは帰るだけだと伸びをすると、


 【主、アマルティアが!】


 急にデバステーターから声がかかり僕は壁へと目を向ける。


 『はあ……はあ……ま、まだ、私は死んでいない……』


 驚いたことに、半分千切れかけた身体を引きずりながら、アマルティアが口を開いたのだ。


 「ま、まだ生きているの!?」


 『そうさ……まだ死んでいない……君達の誰かだけでも……』


 「そういう訳にもいきませんので、はい。ようやく弱ってくれましたね?」


 「え?」


 いつの間にかアマルティアの背後に、ニセ医者や闇オークション、ルビアにテッラの卵を買わせ、あげく僕のけがを治療した――


 「ティモリア……!?」


 彼が立っていた。

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