その182 『悪』の『神』を倒す者



 『ははは! 君の最愛の人が死ぬ様を見て苦しむがいい……!』


 僕の攻撃から逃れ、レビテーションで三階だった場所へ飛んでいくアマルティア。エクスィレオスは大きいので、僕は腕を振りかざしながら叫ぶ。


 「逃げてエリィ! こいつ、うろちょろするな!」


 「大丈夫、あたしが居るわ!」


 そう言ってかけ出したのはルビア。アマルティアがエリィに迫る前に立ちはだかってくれた。


 『拳聖、お前も死にたいか……! どうやらお前も大切な人らしい、殺せば少しは気が晴れるかな!』


 「それはどうかしらね? はああ!」


 ビュ! と、拳を突き出し、それを避ける。その隙をエクスィレオスの拳で殴りつけると壁にめり込んだ。


 『くっ……』


 「まだ、わたしも居ますからね?」


 空を飛べるバス子も追いつき、槍で肩口を貫く。血が噴き出すが、それでもバス子を振り払いエリィへと近づいていく。


 「止まりなさいっての!」


 「無理しないでルビア! 捉えろエクスィレオス!」


 オォォォォォ……!


 『うおおおお!? あと一歩のところでぇぇぇ!?』


 僕の影から出ている巨大な髑髏がアマルティアを掴み持ち上げることに成功した! よし、このままこっちに引き寄せれば――


 『まだだ! まだ終わってなど……いないのだぁぁぁぁ! ”神の右手””神の左手”よ!』


 ドゴォオン!


 「うわ!?」


 アマルティアが輝き掴んでいた髑髏の手が粉々に粉砕され、僕の手が血まみれになる。一蓮托生だから仕方ないけど、それ以上に状況はまずいことになっている。


 「まずい。エリィ早く逃げる。バス子、止めて、私は飛べない」


 「了解ですよ! 姐さん、一緒に!」


 「あんたはエリィの護衛を! そこのふたり頼んだわよ!」


 「……任せておけ」


 ルビアはバス子を下がらせると特攻を仕掛けだした。そしてルビアの言葉でフェイアートさんが頷き、横にいた女性が、


 「ちょっと、あっち行っててね?」


 「なんですか!?」


 腕を引っ張られて、三階の奥へと投げ飛ばされてしまった!? あの人一体何をしているんだ!


 「フェイさん! バス子は味方ですよ! 顔、知っているでしょう」


 「……すまんな、レオス」


 「え!?」


 「きゃあ……!?」


 その瞬間、ルビアがアマルティアの凶刃にやられ腹を貫かれていた。ごほっと血を吐きがくりと頭が下がるのを見て、僕の胃がきゅっとなるのがわかる。そして――


 「な、なにをするんですか!?」


 「俺達は死にたくない。こいつをあんたに差し出せば命は助けてくれるのかい?」


 なんと、フェイさんがエリィを拘束し、アマルティアへ差し出すと言い出した!


 「ちょ!? 目を覚ましてフェイさん! お願いだ、エリィを逃がしてくれ!」


 『は、はははは! いいだろう、神に対して殊勝なお願い、聞いてやらないでもないよ?』


 アマルティアがそういうと、スッと、エリィを掴んだまま一歩前へ出る。


 「ルビアもまだ生きているはず……なら僕が!」


 エクスィレオスの腕を伸ばそうとしたところで、フェイさんの怒声が響いた。その手にはダガーが握られており、エリィの首筋から一筋の血が流れ、僕は動きを止めた。


 「動くなよ? 動いたら、神様じゃなく俺の手でエリィちゃんを殺さなくちゃならなくなる……」


 「うう……レ、レオス……」


 フェイさんの目は本気だ……。でも、どちらにせよ殺されるならイチかバチか攻撃した方がいいのではないか? そう思っていると、アマルティアはとんでもない速さで残った右腕を使いエリィの胸を貫いた。


 「な!?」


 「う……」


 『ははは! 考えている暇なんて与えないよ? この後君に潰されても、この目的が果たせれば満足さ!』


 「あ、ああ……」


 「エリィ、ルビア」


 震える僕の目に映る血だらけのエリィに、また守れなかったと膝から崩れ落ちそうになる。


 カラーン……


 エリィの持っていた緑の指輪が僕の前に落ち、それを拾う。終わった……僕は結局何もできずにまたエリィを死なせてしまった……。あふれる涙をぬぐい、それでも僕は立つ。悔やむのは後だ、エリィとルビアの仇をとらないと……!


 「くっくっく……」


 『?』


 せめて仇はと決意したところで、フェイさんが含んだ笑みをもらし、アマルティアが訝しげな顔を向ける。すると、横に居た女性もニヤリと笑う。


 「仕方ないとはいえ、こう簡単に事が運ぶと気持ちいいわね」


 「まったくだ。俺達の演技も捨てたもんじゃないな?」


 「うふふ、演劇やってみる? 私、興味あるんだけど♪」


 ものすごく場違いで、明るい会話が聞こえてくる。


 『……なんだ? 何を言っている、お前達? 安心しろ、この世界の一組の男女として――』


 アマルティアも訝しみながらフェイさんに今後のことを話そうと口を開く。だけど、次にフェイさんが発した言葉でその場にいた全員が驚愕することになった。


 「おい、意気揚々と刺してくれちゃったけど、そのふたりの顔、よく見たか?」


 するとエリィとルビアだった人影がぐにゃりと曲がり、


 「ぐ、ごほ……。まんまと引っ掛かってくれた、れ、礼を言う」


 「いてぇ……流石の俺もこのケガはきついわ……し、死ぬ……」


 『……!? これは!』


 「あ!?」


 なんと、エリィとルビアだった姿が変わり、モラクスと……えっと、誰だっけ?


 「ダンタリオンさん!? そうか、あなたの変身能力で身代わりになったんですね!」


 名前が出てこなかったけど、そんな名前だった! 領主様のところで戦ったやつのはずだ。そのふたりがアマルティアの腕をがっしり掴んで離さない。


 「そう、いうことだ……レオス、行くぞ、最後の仕上げだ……、ルキル、やれ!」


 「《エクスプロード》!」


 ボゴォォォン!


 『なぁにぃぃぃぃ!? 床が……!?』


 その辺の扉から出てきた魔聖のルキルが魔法を放ち、アマルティアの足元で炸裂する! ぐらりと身体が三階から落ちてくる。


 「おっと、ご苦労さん」


 「ポーション使ってあげるわ」


 落ちる寸前、フェイさんと女性が悪魔二人を引き上げる。落ちてくるのはアマルティアひとり! エクスィレオスの拳をアマルティアへ繰り出すも、レビテーションの空中制御で軌道を変え、僕に向かって突進してきた。


 『レオス! せめて貴様だけでも!」

 

 「標的をころころ変えると格好悪いよ! 今度こそ終わりだ!」


 『ほざけ! ”神の右手”!』


 エクスィレオスの腕を吹き飛ばしたあの攻撃が僕めがけて飛んでくる。切り札があると言われたセブン・デイズを構えるがアマルティアの方が速いか!?


 『頭を吹き飛ばしてやる……!』


 醜く顔を歪めて笑うアマルティアとは対照的に、焦り顔の僕。間に合うか!? そう思った瞬間のことだった。


 「”カオティックダークムーン”」


 キィィィィン!


 半月型の光り輝く板のような攻撃がアマルティアに突き刺さり地面に叩きつけられて動きが止まる。チラリと横目で見ると、肩で息をしているベルがアマルティアを睨みつけていた。


 「レオスさん、今よ!」


 「ありがとうベル!」


 『まだだ! 俺はまだ負けていない! 再生しろ!』


 なんという執念。身体を再生させ、今度は自らの足で迫ってくる。いったいこいつの何がそうさせるのか? だが、弄ばれたのはこちらも同じ。それは彼もそうだった。


 「……そこまでだ。あんたに借りた光の剣、今こそ返そう……!」


 アマルティアは背後から忍び寄ってきたアレンに足を貫かれていたのだ。


 『貴様アレン!? し、しかし光の剣で俺は倒せんぞ!』


 「足止めで十分なのさ。なあ、レオス?」


 僕はこくりと頷き、


 「これで終わりだぁぁぁぁ!」


 ドブシュ……!


 セブン・デイズをアマルティアの胸に突き刺した!


 『ぐうううう!? さ、再生を! は、はははは! この剣では倒せない! そして近づいてきてくれたとはありがたいね!』


 「こ、ここからどうするんだ? 意識を集中するって言ってたっけ!?」


 ブゥゥンと神の右手と左手を使い、で僕を掴もうと伸ばしてくる。ええい、ままよ! そう思い僕はぐっとセブン・デイズに力を込める。


 すると――


 (お、ようやく繋がったか! 久しぶりだな!)


 と、能天気な声が聞こえてきた。この声は……まさか!?


 (見えてるぜ、そいつが悪の根源ってやつか? いやあまさか改心して悪い神様と戦っているとは。人生どうなるかわからんな!)


 「世間話をしてる場合じゃないんだけど!? 切り札って君かい!?」


 (おっと、そうだった! 今からこっちの世界の技をお前に託す。それをぶっ放せ!)

 (コケッコー!)

 (あ、こら! お前の出番はないんだって!? いいかレオス、いくぞ!)


 相変わらずだな、と僕は心の中で苦笑する。こういうやつだったからこそ、僕は前世で倒されたのだろう。そして、脳裏に浮かぶ前世の世界の技。アマルティアが胸に刺さった剣を滑らせながら向かって来る。だけど、もう遅い。


 『しねぇぇぇぇぇぁぁ!』


 「終わりだ、アマルティア!」


 カッ!


 剣に埋め込まれた宝石が虹色に輝き、刀身もそれに合わせて白刃と化す! その衝撃でアマルティアが吹き飛び、僕はそれを追って駆ける!


 「必殺! ”シャイニング・ブレイカーァァァァ”!!」


 とんでもない輝きを放ち、剣は吸い込まれるようにアマルティアの身体へと剣が滑っていった!

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