その180 メディナ、怒涛の反撃
「ごほ……メディナ……」
「喋っちゃダメ。少し我慢する」
僕を抱きかかえたままアマルティアの刀を抑えるメディナ。一方、刀を抑えられたアマルティアはギリギリと力を込めながらメディナを睨み付ける。
『……お前は死んだはずだ。召喚されたようだけどどういうことなのかな?』
「間違っていない。私はあの時間違いなく死んだ」
『む……!』
抑揚のない声で刀を掴んだままアマルティアを蹴り飛ばすと、アマルティアは空中に浮かんでこちらを見下ろしてくる。復活したメディナに警戒をしているのだろう、すぐに攻撃を仕掛けてはこなかった。
「レオス」
「ん!?」
すると、いきなりメディナが僕にキスをしてきた!? びっくりして目を見開いていると、その瞬間、ふうと人工呼吸をするように魔力を流し込んできたのがわかった。少しの沈黙の後、お互いの唇が離れたところでメディナが僕を床に立たせてくれた。
「い、いきなりなにするんだよ!?」
「うん。元気になった」
僕の抗議など気にも留めずにメディナがそういい、そういえばとお腹に手を当てる。
「傷がなくなっている?」
「私が治療した。魔力を直接吹き込むことで組織の再生を促した」
「メディナ、君は一体……?」
以前はそんなことできなかったはずだ。さっきのソレイユの声と何か関係があるのは間違いない。だけど、いったいどうやって? そんなことを胸中で考えながらメディナの顔を見つめていると、アマルティアが魔法を放ってきた。
『どういうことかわからないけど、もう一度殺せばいいだけだよね? 灰になれ! ≪インフェルノブラスト≫』
「メディナ!」
「無駄」
小さくそう呟くと、左手で魔法をすべて吸収し、静寂が戻る。前とは全然違う……。そこでメディナが口を開いた。
「私はあなたと戦った時、もはや勝ち目はないと悟っていた。だけど、倒さなければならない。そう思った私は、わざと自分が死ぬように仕向けた」
『自殺ってことかな? だけど、確実に魔力を吸収しすぎたせいで魔力が暴走し、息絶えたはずだ。死んで復活はできないと、大魔王の時に知っていたはずだけど、どうしてその考えに至ったのか……』
理解できない、とアマルティアは目を細めるが、僕も同じ気持ちだった。しかしメディナが真相を語ってくれた。
「私はひとつの賭けにでた。レオスから女神の存在を聞いていたから、もし死んだあと女神に会えるなら、そこで私という存在を『この世界のもの』ではなくすことができるのではないかと思った。そして私は賭けに勝ち、ここにいる」
ブゥン、と漆黒の鎌を生成するメディナ。めちゃくちゃなことを考えるやつだと僕は目を丸くして聞いてしまった。もしソレイユに会うことができなかったら死に損じゃないか……すると、僕の胸中を見透かしたかのようにメディナが僕へ向く。
「ただ死ぬだけならそれは仕方ないと思った。あの時の私はすでに生きることは難しかった。だからじわじわと無駄に時間を食うより、潔く死ぬことを選んだけ」
「……っ! でも、僕たちは悲しかったよ……。簡単に言うけど……」
「でも私は帰ってきた。いつも一緒にいる言葉を嘘にしなくて済んだ」
珍しく、本当に珍しく口元を緩ませて微笑むメディナを見て涙があふれ出す。馬鹿と天才は紙一重というけど、メディナでなければきっとこんなウルトラCのような復活劇はできなかったと思う。
「だから、今の私は別世界の人間と同じ。アマルティア、あなたと戦う力が私にはあるということ」
『なるほどね。他世界の女神が勝手なことをした、というわけか。だけど、戦う力があっても勝てなければ意味がないよ? 力の差はどう埋めるのかな……! ほら、こんな風に!』
アマルティアが腕を振り下ろすと、巨大な魔法弾が僕たちに襲い掛かってきた。僕たちをすっぽり覆うくらいの大きさなので、このままだと一瞬で蒸発してしまう。
「くっ……今の僕じゃあれをどうにかするのは無理だ……逃げ切れるか……!」
「大丈夫」
『減らず口を!』
ザパン!
ズゥゥゥン……
『な!?』
アマルティアが驚愕の表情を浮かべ一瞬怯む。僕もその光景を見て驚かざるを得なかった。なんとメディナは手にした鎌で巨大な魔法弾をまっぷたつにしたからだ。左右に分かれた魔力の塊は壁と床にぶつかり霧散する。あ、気絶したレオバールが吹き飛んでる。
「女神から力ももらった。今なら、ほぼ互角」
『うお!?』
ものすごい速さで空中に飛び上がり、無表情のまま鎌を振るうメディナに、拳に光をまとわせたアマルティアが反撃に出る。
「たあ」
『気の抜ける声を……! はあああ!』
メディナはアマルティアに対し着実にダメージを与えていく。鎌の鋭さは当然として、
「≪シャドウランス≫」
『チッ! ≪インフェルノブラスト≫!』
細かく魔法を使い足止めも完ぺきだった。見ていることしかできないのを悔しく思いながら戦いを見守っていると、メディナが僕へ声をかける。
「レオス、今の内にベルの指輪を拾って。ここは私に任せてエリィを助ける」
「指輪……あれか……!」
ベルが倒れているあたりを見て緑の指輪が転がっているのが見え、僕は駆け出す。
「私とこいつの力は互角。だからレオスの力がとどめには必要」
『何のことかわからんが、レオスに指輪を渡すのは得策ではなさそうだね! ならば私が先に拾えばいい!』
「逃がさない……!」
「くそ……速い!?」
あっという間に僕の頭上を越え、アマルティアがベルの倒れている真上へと到着する。
『ははは! もらうぞ――』
「アマルティア……!」
アマルティアが地面に下りて指輪に手をかけようとした。僕は刀を構えて突撃態勢に入ったその時だった。
『うぐお……!?』
がれきの中から突き出てきた三またの槍がアマルティアの腕を刺し貫いていた。
「ようやく一矢報いましたよ……」
『貴様……!』
「バス、子?」
がれきの中から出てきた人物を見て、僕は疑問形で訪ねてしまった。赤い髪は間違いなくバス子だけど、ツインテールの髪はストレートのロングヘアになり、顔には赤い虎模様が浮かび上がっていた。口には牙が伸びており、悪魔といわれれば恐らく全員頷くであろう風貌だった。
「ええ、あなたのアイドルバス子ちゃん……と言いたいところですが、今のわたしは悪魔アスモデウス。可愛くないんで見せたくないんですけど、そんなわけにもいきませんからね。ですよねメディナさん!」
「うん。ただいまバス」
「おかえりなさい……っと!」
『ぐあああ!?』
槍で串刺しにしたままバス子がメディナにアマルティアを放り投げた。メディナは飛んできたアマルティアを切り刻む。
「これはあの時殺された私の分」
『おのれ……! いい気になるなよ!』
「再生、厄介ですね」
「消滅にはレオスの力が必要。それともう一つ、最後の切り札がある」
「なるほど。では、レオスさん。早いところ力を取り戻してくださいよ!」
「ええ!? いや、だって僕の力はアマルティアが吸収したじゃないか……!」
何とか緑の指輪を拾い、返答するが戦闘状態に入ったふたりには聞こえていなかった。
「ベル、良かった息がある」
すると白衣の悪魔であるブエルという人がよろよろと僕に話しかけてくる。
「君も無事だったか……アスモデウスがあの姿を見せるとは、君のことは本当に信頼しているらしい……この子は私に任せて、君はやるべきことを……」
「ありがとうございます! ベルをお願いします。……でもどうやって力を……」
僕が指輪を握りしめた瞬間、大きく輝き始めた。
そして――
『レオスさん! 大丈夫、あの男が持って行った力は悪神の力じゃありません!』
ソレイユの力強い声が脳裏に響いた。
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