その179 神



 『お前たちゴミが逆らうことなど許されてたまるか……!』


 「知るか! おい、カゲトに悪魔達! 俺達が隙を作ってやるから再生できねぇぐらいズタズタにしてやれ! 行くぞクロウ!」


 「は、はい! ていうかガクさんなんでそんなに強いんですかね!?」


 「喋ってねぇで手を動かせや!」


 「行くぞ!」


 ガクさんとクロウが踏み込み、サブナックと共にアマルティアへと攻撃を仕掛ける。狭い城内、攻撃できる人数は限られているのでとりあえず三人というところか。すると僕の横で槍を構えているバス子が小さく呟いた。

 

 「……お嬢様」


 「僕はいいからベルゼラのところへ行きなよ。後はこれを撃つだけだからね……」


 「ありがとうございます。レオスさんも気を付けてくださいよ!」


 「わかってるよ」


 バス子を見送りつつ、アマルティアへと目を向ける。


 『……もが……私がどれだけ……』


 「どうした? 反撃する気も起きねぇか?」


 「こいつ、どうしたんだ?」


 棒立ちのアマルティアがガクさんやクロウに殴られながら何やらぶつぶつ呟いていた。なんだ……? なんだか嫌な予感がする……


 【今のうちにそれで止めを刺せませんか? 嫌な予感がしますぞ】


 緑の猫の姿をしたメナスが足元で僕に言う。そうだね、棒立ちの今なら確実に殺せる。僕はダブルビームライフルを構えてガクさん達へ叫んだ。


 「みんなそこから離れて! これで倒す!」


 「……! おう!」


 さっきの状況を見ていたガクさんが真っ先に返事をし、クロウを引っ張って離脱する。かなりダメージを与えたようで、アマルティアはぼこぼこになり、切り傷も酷く血だらけだった。サブナックも一度戦っている僕が叫んだこともあり、慌ててその場を離れた。

 

 アマルティアはまだ棒立ち。これなら確実に――


 僕がトリガーを引こうとした瞬間、アマルティアが顔を上げて大声を上げた。


 『ゴミ共が……! もういい、お前達を消し去って新しい人類を作り出す……! まずは貴様らからだ! ”神の右腕”!』


 「「「な……!?」」」


 アマルティアが右腕を床に叩きつけると、ズン、という重い音共が響き城全体が揺れ始める。その直後、大魔王城全体が震え始める。


 「アマルティア……!」


 構わず僕はトリガーを引いた! アマルティアも動こうとしないので、これは当たる……はずだった。僕達の立っている床が崩れなければ。


 バガン!


 ビームは落下するアマルティアに当たらず、壁を撃ちぬき消えてしまう。チャージを促す音が鳴り響く中、アマルティアが瓦礫を足場にして迫ってきた!


 「うお!?」


 『はははははは! 皆殺しだ! 私は空を飛べるが、お前達は無理だろう!』


 「こ、いつ!?」


 「ぐあ!?」


 バランスを崩したガクさんが狙われ胸を手刀で貫かれ捨てられる。続いてクロウが下から上に斬り払われて胸から血を噴きださせて落下する。


 「斬る!」


 バシュ!


 カゲトさんの刀がアマルティアの身体を捉え、袈裟懸けに叩き斬る。薄皮一枚なんて生易しい物じゃなく肩口から心臓に向かって刃を滑らせていく。


 「む!? う、動かん……!?」


 『よくもまあ異世界の武器で戦うなどと面白い手を思いついたもんだよ。だけど、使い手がゴミだと意味が無いってことさ! 《インフェルノブラスト》』


 「まずい! デバス! カゲトさん刀から手を離して!」


 「レオス!」


 【おうさ!】


 心臓付近でアマルティアの手で刃が止められ、カゲトさんにゼロ距離でインフェルノブラストを撃とうとしたのでデバステーターを投げる! 赤い鳥かつ、炎に強いデバスなら間に入れば何とかなるはず……!


 ゴォォォン!


 「ぐおおおお!?」


 【ぐぬぬぬぬ……! ぐあ!?】


 『チッ、余計なことを……! 邪魔をするな雑魚が!』


 刀を体から抜いて、今度は僕へと突っ込んでくるアマルティア。そこへ上から知らない女性が飛びかかっていくのが見えた。


 「でたらめなやつねえ! だけど真上から頭を潰されて再生できるかしら!」


 「げほ……グレモリーさん!」


 バス子が瓦礫の下から出てきて声を上げていた。ベルゼラを治療していた悪魔も無事らしい。そしてグレモリーとよばれた女性悪魔がアマルティアの頭を掴んだ。


 「死ね……!」


 『君がね』


 ぐるん、と首が180度回りニヤリと笑う。あまりの気持ち悪さに顔を歪めるグレモリーだが、構わず握りつぶそうと、メキメキと力を込めていく。


 『ああ、着眼点は良かったよ。頭を潰されたら何も考えられなくなるからね!』


 「ブルート!」


 【俺、任せる……!】


 亀型の魔物になったブルートを投げつけ刀の軌道を変えることに成功する。それでも、シャキン、と刀が一閃すると、ブルートの甲羅に傷がつき、グレモリーの胸に鮮血が飛び散った。


 「くっそ……!?」


 『落ちろ! 《エクスプロード》』


 爆音とともに落下していくブルートとグレモリー。それを見届けたアマルティアは即座に僕へ斬りかかってきた。床は完全に崩れて一階へと落ちてしまい、バランスを崩しながらも僕はダブルビームライフルで刀を受ける。


 『お前の提案だなエクスィレオス! はははは、残念だったね、この剣は僕の手に入った。そして――』


 パキン、と刀はダブルビームライフルを真っ二つにし、僕の身体を切り裂いた。


 「うわあああああ!?」


 『良いざまだ! エリィにはお前の首をプレゼントしてやる。その後は……すべての人間を殺す……! 私に逆らわない人間を作り出すよ!』


 「う、うう……!? 《フレイム》!」


 『往生際が悪いね?』


 「あ、あぐ……!?」


 フレイムはいともたやすく霧散し、ブシュ、と首筋に刀が食い込む音と血が噴き出すのがわかる。だけど、まだ死ぬわけには行かない……!


 「フェロ! メナス!」


 【うおおおお! できればお姉さんの胸の中で死にたかったですねねえええ!】


 【ふしゃぁぁぁあl!】


 『まだ残っていたのか! くそ、見えん!』


 フェロシティが首に巻き付き、メナスが顔面に張り付き、暴れ出す。僕はその間にごろごろと転がり、態勢を立て直す。


 「武器は……! あった!」


 僕は転がっていたパイルバンカーを手にするため駆け出す! ちょうどその時、アマルティアがフェロとメナスを斬り捨てるのを横目で見た。


 『させるかぁぁぁぁ!』


 「速い!? くそ……! 間に合え!」


 だけど、その願いも空しく直前で僕は背中をバッサリと斬られてしまい、床に伏せてしまう。


 「あ、あああああ! ぐ、ぐううう……!」


 『ははは! 危ない危ない。君のことだからまだ何かあってもおかしくないね。さて、邪魔者は最後までちゃんと始末しておかないと』


 「ごふ……」


 僕の腹に刀を差して地面に縫い付けると、後ろから襲い掛かっていたバス子を殴りつけて吹き飛ばした。


 「うわ!?」


 『《インフェルノブラスト》』


 「ま、まず――」


 咄嗟にガードをするのが見えたが、バス子は吹き飛び床に転がって気絶していた。白衣の悪魔であるブエルという人が近づこうとしていたようだけど、魔法で牽制され動けなくなった。


 『君は吸収しておきたいからそのまま大人しくして置いてくれないかな? なあに、すぐ終わるからさ……』


 「あああああああああ!?」


 ぐり、っと刀を動かすと激痛が走り僕は悲鳴をあげる。ダメか……これ以上は助けが来ても武器が……ない……


 『――った! お姉ちゃんありがとう! レオスさんしっかり! 召喚魔法を早く!』


 諦めかけた瞬間、脳裏にソレイユの声が響き渡り、目が覚めた。


 「召喚……魔法……たしか……”ディセン……ト”!」


 『なんだ? 何の魔法だ、それは?』


 ソレイユの声はこいつのは聞こえていないらしく、僕が使った魔法にも覚えはないと眉を潜める。何が出てくるんだろうとぼんやり考えていると、直後僕の身体のしたに魔法陣が現れて光出す。


 『うぬ!? 弾かれただと? こいつはなんだ!』


 刀が体から抜かれ、僕がげほっと血を吐く。


 『死にぞこないが……!』


 魔法陣の光はどんどん強くなり、気づけば僕はふわりと身体が浮いていた。誰かに抱きかかえられているんだと思い、うっすら目を開けるとそこに立っていた人物に、僕は痛みすら忘れて目を見開いた。


 「う、嘘だろ……!?」


 「嘘じゃない。ずっと一緒だとそう言った」


 『お、お前は……!?』


 振りかぶってきた刀を素手で掴んだその人物は――


 「みんなを痛めつけてくれたお礼をさせてもらう。冥王の名にかけて」


 死んだはずのメディナだった……!

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