その176 近づくとき
「町ン中に入ったぜ!」
ガラガラと激しい音を立て、アスル公国の城下町へと突入した。月明かりの中、完全なる廃墟と化した町の中を一気に突き進む。城までは数百メートル。これが最初で最後のアタックだと、僕は覚悟を決める。
「そのまま真っすぐで正面の門だよ! ……やっぱり来たみたいだね」
「おっと、道を開けてもらうぜぇ!」
ドシュシュシュ!
空と地上から迫りくるデーモン達をガクさんがバリスタで蹴散らしていく。もちろん、ルルカさん達の魔法も頼もしい。
「キリがないね、ティリア同時にかけるよ! 《エクスプロード》!」
「《エクスプロード》!」
ドゴォォォン!
「ほっほう! 派手ですねぇ! いっちょわたしも! ”ケイオスフレア”!」
三人の魔法と技がほぼ同時に着弾し、爆心地付近のデーモンたちが霧散していった。そんな攻防も間もなく、僕達は正門の近くまで来ることができた。
「閉じられているな……」
「ならこれで!」
ガッ! ズドン!
「すごいな、一撃か……」
パイルバンカーの一撃で正門が粉々になり、城への通路が開かれるとカクェールさんが呆れたような声を出していた。まあ、こういう時のための武器だからね。
ここで二手に分かれるため、僕はクロスボウをカクェールさんに渡しておく。
「これは?」
「アマルティアはこの世界の武器では傷つかないんだ。だから、まだこの世界には無いクロスボウなら攻撃が通じるはずだよ。万が一遭遇したらこれで攻撃を仕掛けて欲しい」
「いいんですか? そっちがメインで戦うのに」
ティリアさんが心配そうに聞いてくるので、笑顔で答える。
「こっちにはパイルバンカーもあるし、刀もあるから大丈夫だよ。最後の手段もとってあるしね」
「わかりました……」
「大丈夫よ! レオス君の仲間を見つけて、私達がすぐ合流すればいいんだから」
「そうだね。時間が惜しい、ボク達は一階から探していくよ」
「よし、行こうティリア、フヨウ」
カクェールさんの合図で四人は城内へ侵入していった。それを見送った後、僕はヴァリアンとエレガンスの手綱を外して自由にする。
「ここまでありがとう。君達は城の中には入れないから、ここでお別れだ。デーモンたちが来ないとも限らないし、頑張って町まで逃げるんだよ」
「ぶるる!?」
「ひひーん!!」
「よしよし、お嬢様たちはわたし達が助けてきますから、お前達も生き延びるんですよー」
最後までついていくと言いたげだけど、場内に馬が走れるほど広い通路は無いので僕は首を振り、バス子が優しく鬣を撫でると、馬達は項垂れ、僕達から離れていく。そして、クロウ達に向いて頷く。
「行こう、目指すは謁見の間だ」
「おう!」
「せめて一撃でも……!」
ガクさんとクロウが拳を握り、城内へ走って行くと、カゲトさんもそれを追いかけようと歩き出す。そこへ僕が声をかけて刀を差しだす。
「カゲトさんにはこれを。ガクさんとクロウの格闘武器は作れなかったから、せめてカゲトさんには持っていて欲しい。最悪、僕がやられたら逃げて」
「……借り受けよう。だが、死ぬなよ?」
「そのつもりさ」
そう言って城の中へと入っていき、クロウ達に追いつく。一階のどこかで激しい爆発音が聞こえてくる。そう簡単に探させてはもらえないか……。これでカクェールさん達も標的になると思うと心苦しい。
だけど倒せば問題ないのだ、肩に担いだパイルバンカーとカバンを握りしめ、階段を駆け上がった。
◆ ◇ ◆
「きゃ!?」
どさっとベッドへ放り投げられたルビアが小さく呻く。起き上がろうと体を動かしたところでアマルティアが覆いかぶさってくる。
「ど、どきなさいよ! ……動けない……なんて力なの……!?」
『ははは。暴れても無駄さ。さて、久しぶりの女性だ、優しくできないと思うけど許してくれよ』
「誰があんたとなんか!」
ルビアは足を使って蹴り飛ばそうとするが、ベッドの上では力が入らずに少し体を退けるだけだった。蹴りをにやにやと笑いながら受け、やがてルビアが諦めると、ルビアの足の間に自分の足を差し入れて顔を近づける。
「う……」
『終わりかい? なら、こちらの番だね』
「や、やめなさい……!」
胸を鷲掴みにされ、嫌悪の表情を浮かべるルビア。助けはこない。このまま慰み者になってしまうと、思わず身体が震える。だが、その時、ルビアの指輪が赤く光り、アマルティアを炎に包む。
『なんだ、これは?』
ベッドから離れ、炎を手で払いながら眉を潜めてアマルティアが呟いた。振り払われた炎は形を成し、真っ赤な炎の狐へと姿を変える。
<無粋なヤツじゃな。まあ、神とはこんなものかもしれんが>
「チェイシャ!」
<うむ>
チェイシャが振り向かずに答えると、アマルティアがニヤリと笑いチェイシャへと話しかけた。
『炎の精霊かい? 困るな、久しぶりの楽しみを邪魔されちゃたまらないよ。うっかり殺しちゃうじゃないか! はははは!』
<ぬぐ……!?>
アマルティアが手を振り下ろすと、突風のような風が巻き起こりチェイシャの肩口を吹き飛ばし、チェイシャが小さく声を上げる。だが、その場から動こうとはしない。
『ふうん? どういうつもりだい?』
<こやつはわらわの主人じゃ。危険があれば助けるのは当然じゃろう? それに、貞操をやるわけにはいかん>
「ちょ……!?」
ルビアが抗議の声をあげようとしたが、チェイシャの次に放った言葉で目を大きく開けた。
<どうやら、レオス達が到着したようじゃ。わらわはあやつが来るまで、ここでルビアを守るだけでええ!>
直後――
ズドォォォン!
と、レオスがパイルバンカーで正門を破壊する音が城内に響いてきた。チェイシャから目を逸らさずアマルティアが口を開く。
『……思ったより早かったかな? いいよ、そいつと遊ぶのは後にしよう。レオス達を半殺しにして、あいつの前でゆっくりとしてあげるよ』
そう言って部屋から出て行くアマルティア。緊張が解けたルビアがベッドへへたり込みながらチェイシャへ言う。
「レオスが来たの……?」
<うむ。……う……>
「大丈夫!?」
<流石は腐っても神じゃわい……魔力をごっそり削られてしもうた……>
「……ありがとう」
<気にするな、それよりここから出られんか?>
チェイシャの言葉に、ルビアはドアを開けようとするがドアはびくともしなかった。
「……ダメか……レオス、大丈夫かしら……?」
<勝算があってもなくても助けに来たというところか? 良かったのう、愛されておるぞ>
「や、やめてよこんな時に! エリィに悪いわ。せめて、あの二人には逃げて欲しいわね……」
窓ガラスも突き破れず、途方に暮れるルビアはそう口にするのだった。
◆ ◇ ◆
「敵がいねぇな。謁見の間はどこだ?」
「三階だよ。エスカラーチが改造したんだろうね、謁見の間って普通は一階にあるものだし」
なにかを演出したかった、とは考えにくい。多分、広い謁見の間なら戦いやすいと思ったんだろう。それを上階においておけば途中で魔物に襲わせて追い返すこともできるしね。
「罠、かな?」
「そもそも実力があるからそうは思えないけど……」
「……待て、誰か来るぞ」
僕とクロウが話していると、カゲトさんが止まれと合図し、僕達は階段の途中で立ち止まる。暗闇の中から歩いてきたのは――
「アレン! それにレオバール!」
「レオスか。まさか本当に来ているとはな」
レオバールが呟くと、肩に担いでいた人影がもぞもぞと動き、叫び出した。
「レオスさん!? 助けに来てくれたんですね! この変態! 早く降ろしなさい! ……ひゃあ!?」
「ベルゼラ!?」
まさかの僥倖、僕達は最優先救出事項のベルゼラを発見した! でも、この二人の真意はいったい……?
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