その174 合流と合流



 『というわけで君の処刑が決まったよ。良かったね、国民に貢献できるじゃないか』


 「……」


 アマルティアがエリィ達の部屋に足を運び、二ヤついた顔で三人に言い放つ。ベルゼラは無言で睨みつけ、ルビアは腕を組んで言う。


 「最低なやつね。そもそも元凶はあんたでしょうが」


 『ははは、違いない! それでも私は神として人間達に平穏をもたらさねばならないからね。申し訳ないけど、生贄になってもらうよ』


 「させると思うのかしら?」


 エリィがホーリーウォールを展開し近づけさせないようにする。しかし、アマルティアは意に介さず、ぬっとベルゼラへ手を伸ばす。


 『言ったろう? 私にこの世界の魔法は効かない、と。こんな防御魔法など何の意味も無いよ』


 「くっ……」


 ベルゼラの首に手をかけ、そんなことを言うアマルティア。その手をルビアが掴みギリギリと捻り上げて吠えた。


 「やらせないわよ……! 勝てないまでも暴れるくらいならできるわ」


 『……』


 目を細めてルビアを見るアマルティアはパチンと指を鳴らす。すると部屋にとあるふたりが入ってきて、三人は目を見張る。


 「レオバール……!?」


 「……」


 「そ、それにアレンも!? あんた達どうしてここに!? あ……!?」


 ルビアが叫ぶと、アマルティアはルビアの腕を捻り自分の下へ引き寄せてから口を開いた。


 『ははは。このふたりは私の考えに賛同してくれてね。レオバールはこの国の王、アレンは大魔王を倒し、さらにその娘も捕らえて処刑した英雄という筋書きさ』


 「レオバール……!」


 「……エリィ、お前は俺と結婚し王女となるんだ。拒否権は無い」


 「誰が……!」


 エリィが激高すると、レオバールはルビアの首筋に剣を突きつける。少し掠ったのか、一筋の血が流れた。


 「でなければルビアは死ぬことになる。そっちの娘が大魔王の娘とは驚いた。そいつは見逃せんが、ルビアは助けられるぞ?」


 「……クズね!」


 「何とでも言え。まずは処刑が先だ、アレン連れて行こう」


 「おう」


 「待ってアレン、大魔王をこの地に呼び寄せたのは――」


 「こいつなんだろ? 知っているよ。だが神には勝てない……」


 「あなたは勇者でしょう! ああ!?」


 「エリィ!」


 エリィが詰め寄りながら叫ぶと、突き飛ばされ尻もちをつきベルゼラが支える。そして冷ややかな目をしたアレンがベルゼラの腕を掴んで無理やり立ち上がらせた。


 「……だからなんだ? 命は誰だって惜しいだろう? 妹を一人にするわけにゃいかないんだ……」


 「離して! エリィ! ルビアさん!」


 「処刑の日は一緒に見てもらう。アマルティア、様。ルビアはどうするのです?」


 レオバールがエリィと目を合わさず言い、そのままアマルティアへ問う。すると、アマルティアはルビアを肩に担ぎ歩き出す。


 「こら! 降ろしなさいよ!」


 『ごろつきにでもやろうと思ったけど気が変わった。私が調教しようと思う。神とはいえ、元は私も男だからねたまには楽しみたいと思ってしまったよ』


 「ひっ!?」


 その言葉にぞぞぞ、と背筋が凍るルビアが暴れるに暴れたが、まったく動じず、レオバールに声をかける。


 『さ、君も行こう。……どうやらレオスがこの国に入り込んだみたいだ。彼女の前で殺せば彼女も諦めがつくだろ? 今の彼なら君が本気を出せばすぐさ。はははは!』


 「レオスが……生きてた? 良かった……」


 エリィが安堵していると、レオバールとアマルティアはルビアを連れて出て行き、ひとりになった。


 「どうしよう……このままじゃ今度こそレオスは死んじゃうわ……」


 

 ◆ ◇ ◆



 「ぶえっくしょ! 夜の空は寒いですねえ……それにしてもレオスさんどこに行ったんでしょうか。もうアスル公国ですよ?」


 バス子はレオスを追ってラーヴァ、ペンデスと飛んでいたが、レオス達の足は速く、バス子はアスル公国まで見つけることができなかった。

 空を飛んでショートカットしていても、馬との速度はかなり差があったというわけである。そして今はそろそろ休もうかと、ノーマッドの町へ降りようとしていたところだった。


 「……ん? こんな時間に猛スピードで大通りを?」


 バス子が低空になったその時、二台の馬車が宿屋付近から出て行くのを見かけた。しかし目を凝らしてよく見ると、一台は見覚えがあることに気付く。


 「……!? あ、あれレオスさんの改造馬車! ……なんか屋根に増えているけど間違いない! 待ってくださいーー!」


 バス子が追いかけようとしたその時、空を黒い何かが飛来してくるのが見えた――



 ◆ ◇ ◆



 「ごめんよ寝ている時に!」


 「ひひーん!」


 「ぶるるる!」


 「ぴゅー……」


 御者台で馬達に謝りながら鞭を振るう僕に、気にするなと言わんばかりに吠える二頭。僕の胸元では慌てて掴んでふところに入れたテッラが気持ちよさそうに寝ていた。


 「間に合うか?」


 「三日後なら大丈夫だと思う。半日くらいで大魔王城だよ! アマルティアが気まぐれを起こさなければ余裕――」


 カゲトさんの言葉に返事をしていると、クロウが空を見て口を開く。


 「なんだ、あれ? ……は、羽の生えた魔物?」


 「なんだありゃ!?」


 僕もチラリと空を見ると、空を黒い何かが覆い、月明かりを遮っていた。よくみるとあれには見覚えがあった。


 「セーレを追いかけていた時に落としたやつに似ている……雑魚悪魔……?」


 僕が訝しんだ時、空にいる悪魔が魔法を放ってきた!


 ボボボボ……!


 「フレイムか! くっ……」


 「ピィー!?」


 幸い森のなかではなく広い街道と草原が続く場所なので移動するには事欠かない。蛇行運転を繰り返しフレイムの直撃を避ける。

 すると並走していた馬車の御者台にルルカさんが出てきて魔法を使う。


 「《ホーリーウォール》」

 

 「《ウォータバレット》!」


 ボウン、という音と共にフレイムが空中で霧散し、ティリアさんが悪魔達を落としていく。そこへガクさんが屋根に上りながら叫ぶ。


 「おう、バリスタだっけか? こいつを使うぜ!」


 「お願いします!」


 キリキリとバリスタの動く音が闇夜に響く。狙いを定めたであろうガクさんが射撃を始める。


 「おらぁ!」


 バシュバシュバシュ!


 矢が放たれる小気味よい音がすると、悪魔達が数匹落ちていくのが見えた。屋根ではガクさんが喜ぶ声が聞こえてきた。


 「ぎゃははは! こいつはいいな! 何かこういうの初めてじゃない気がするぜ……!」


 ガクさんとティリアさん達の攻撃で悪魔達の攻撃が止まるが、彼らもアホではないようで、近距離戦を挑むため一斉に降下してきた。


 「チッ、なら俺が……!」


 「気を付けてくださいよ!」


 クロウが槍を掴んで飛んで行ったカクェールさんへ叫ぶ。これなら問題ないかと思った矢先、僕に槍を持った悪魔が迫っていた。死角から来ていたのか!? まずい、狙いは馬か……!


 僕は魔法で追い払おうと手を向ける。


 しかし、その手は仕事をすることはなかった。


 「だっしゃぁぁぁぁ!」


 「グギャォォォ!?」


 突如飛来した何かに頭を貫かれ地面に捨てられたのだ。僕がびっくりして目を向けると、赤いツインテールをなびかせ、ちんちくりんな女の子が馬の背に立った。


 「今、何か余計なこと考えてませんでした!?」


 「バス子じゃないか!?」


 それはラーヴァ国で別れたはずのバス子だった!

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