その33 読み違い
「……やはり目的は領主様か?」
ティモリアを追うと、思った通り領主様の部屋で立ち止まる。
「……」
「!?」
一瞬、僕の方を向いたので慌てて柱の陰に顔を隠す。気付かれている?
ガチャ……
そんな僕の胸中を知ってか知らずか、躊躇なく部屋へと入っていった。足音を立てず扉の前まで行き、耳を澄ませる。
「(アレクとリーエルが帰ってきたのは予想外かな? それでもう行動に移した、そんなところと見たね)」
予想だとこの医者は三人を始末するために潜りこんでいる人物。アレクとリーエルが戻って来たことにより、早く始末をつけようとしているのかも。
少しだけ扉を開けて中の様子を伺うと、二人が話しているのが聞こえてきた。後、ゲルデーンさんは相変わらず筋トレをしている……どれだけ好きなんだよ筋トレ!?
(うん……? どうした、今日の診察は終わりでは無いのか?)
(そのつもりだったのですが、ワタクシ少し調合を変えた薬を作りましてね、お休み前に飲んでいただこうかと思いまして……)
新しい薬だって!? いけない!
(ふむ、仕事熱心だな。ちょうどひと段落ついたところだし、貰おうか)
(粉薬ですので水と一緒にどうぞ)
「だ、だめだぁ!」
僕はバーン! と扉を開けて転がるように中へと入る。しかし――
ごくん……
ゲルデーンさんは薬を一気に飲み干してしまった!
「う、うぐ……!?」
「領主様!」
薬を飲んだ直後、予想通りゲルデーンさんが呻き声をあげる。僕はすぐに吐かせようと背中を激しくたたく!
「おや、間違えましたかね?」
「お前! やっぱりあいつらの仲間だな! 一体何を飲ませたんだ!」
「仲間? 何のことを言っているのでしょうか?」
「とぼけるな、お前が医者でないことはもう分かってるんだ! 領主様! 領主様!」
「……」
首を傾げるティモリアを睨みつつ、僕はゲルデーンさんに声をかけながら背中を叩いていると、ゲルデーンさんはどさりと床に倒れた。
「う……おぶう……」
「ああ……!?」
背中を叩いていると、変な呻き声を出して前のめりに倒れたゲルデーンさん。
「ふむ、どうやらバレていたようですね? お金になりそうだから医者を騙りましたが、やっぱり適当な薬草を混ぜただけでは無理でしたね」
「何を言ってるんだ? お前は領主様達の命を狙っているんだろ!」
「命を? いえ、ワタクシはお金が欲しいだけなのでそんなことをする意味がありませんけど? 今飲ませたのは蜂蜜と薬草を混ぜたものですから害はありませんよ」
「そんなことが信じられるか、現に領主様は――」
「ぐがー! ぐおー!」
「よく眠っているじゃないか!?」
顔色は良くないけど床で大の字になり、いびきをかき始めた。一体どうなってるんだ……? 僕が困惑しているとティモリアは顎に手を当ててぶつぶつと何やら呟いていた。
「ふむふむ、あれを混ぜると睡眠作用がある、それにしても手間がかかるから医者はダメですね、お仕事を変えましょう」
「お前、一体何も――」
きゃぁぁぁぁぁ!?
「今の悲鳴はリーエル!?」
「ではワタクシはこれで」
「あ、こら待て!? 命を狙ってなくても偽医者は犯罪だよ!」
「待ちません。さよーならー」
そう言い、窓から飛び降りるティモリア。ここ三階だぞ!? 窓に駆け寄ると、下でゴブリンにぶつかって昏倒しているティモリアを発見した。
「でしょうね!? っていうかゴブリン!? まさかあいつらが来たのか!?」
とりあえずティモリアのことは後だ、ゴブリンが居るということ三人の命を狙ってきたのは間違いない。まだ夜中じゃないのにどうやって町にゴブリンを連れて来たんだ?
「それはともかく……」
僕はゲルデーンさんをベッドの下に隠しておく。これなら万が一ここに来られてもすぐには発見できないはず。プラスで防御魔法もかけておこう。
「<フルシールド>」
透明の幕がゲルデーンさんを包み込むのを確認した後、すぐに廊下へ飛び出し、リーエル達の元へ向かう。ここからなら近い、もしあてがわれた部屋に居たら悲鳴に気付かなかったかもしれない。
念のためセブン・デイズを抜き、廊下を走る。そこに――
「ギャギャ!」
「ゴブリン!? ……てい!」
ザシュ!
「ギャ!?」
階段を登ってきたゴブリンと出会いがしらにぶつかりそうになったけど、ばっさりと切り捨てる。一匹だけか? 確認している暇は無いので、そのまま廊下を走り続ける。部屋が見えてきたと思ったその時、リーエルの叫び声が聞こえてきた。
「いや! 離して! お兄ちゃん!」
「一体どうしたんだソーニャ!? リーエルをどうする気だ!」
ソーニャさん!? アレクの言葉に驚きながら、僕はリーエルの部屋の扉を蹴破るように入る。
「アレク! リーエル!」
「レオスか!」
「レオスさん、助けて!」
「思ったより早かったわね、おっと動かないでね。この子の命が短くなるわよ?」
ニヤリと笑いながらそう言うのは紛れもなくメイドのソーニャさんだった!
「や、やめろ! ソーニャ、昔からウチに仕えていた君がどうして……!」
「フフフ、ソーニャ……ソーニャねぇ……」
ソーニャさんが不敵に笑いながら顎に手をかける。まさかそんなベタな変装をしているとでもいうのか!?
「あ、あれ……取れない……ん! ……んん!」
「……」
「……」
「本物のソーニャは今頃夢の中よ!」
「ちゃんと取りなよ! 中途半端に思わせぶりなことをしないで欲しいね! リーエルは返してもらうよ!」
どうも取れなかったらしく、無かったかのように僕たちへ言う。顎のあたりでペロンと剥げかけているのが妙に気持ち悪い。剣を突きつけてやると、ソーニャさん(?)がくっくと笑う。
「どうするつもりだい? わざわざあんたの部屋を引き離したのにここに来たのは驚いたけど、私の手に娘がいるんだ、そっちこそ武器を捨てるんだね! ……それに援軍も来たようだ」
「……!?」
ダダダ、と乱暴な足跡が聞こえてきたかと思った瞬間、背後からダッツ達が入ってきた!
「姐さん、屋敷は制圧しましたぜ! ……おお、流石姐さん……もう殆ど勝ったようなものだ!」
「ダッツ!」
「レオスか、流石のお前も人質が居れば手は出せまい? さ、剣を捨てて大人しくするんだ」
ダッツやハスが取り囲むように部屋に入ってくる。するとソーニャ(?)がリーエルの胸にダガーを押し当てる。
「う、うう……」
リーエルが震えながら呻く。
「そのまま牽制してなダッツ。親父の方はどうした?」
「大丈夫、姐さんが教えてくれた部屋へゴブリンとウリオが向かっています」
「そうかい、なら後はこの三人を始末すれば終わりだね!」
「いやあ!?」
どうする、アクセラレータで一気にやるか? でも心臓にダガーが当たっている、ヘタに刺激すると刺されるかもしれない……蘇生魔法は無いから慎重に――
「へへ、これでしばらく遊んで暮らせるぜ」
「……君達は野盗なのかい?」
隙ができるまで会話で繋ぐかと、僕は口を開いたハスへ尋ねる。
「ん? 一応冒険者だぞ、まあお前達にバレたから今後は野盗か盗賊か……そうなるだろうな」
「どうしてこんなことをするんだ。冒険者なら魔物を倒すなり、困っている人を助けるなり、依頼があるじゃないか」
「ふん、楽して儲けたいのさ私達は」
ソーニャさん(?)が面倒くさそうに言い放つ。僕はその言葉に苛立ちを覚える。
「……人殺しをしてまでかい?」
「私達が有効に使ってやるんだ、いいじゃないか? この娘も男どもにやらずにすぐに殺してやるんだ、嫌な思いをしないで死ねるよ」
「勝手なことを……!」
こういう連中のせいで前世でエリザベスは死んだ! 僕の前でそういうことをするっていうなら――
僕がぐっとセブン・デイズに魔力を込めると、緑色に輝きだす。今日は……風曜日、そういうことか……! 皆殺しにしてやろうと頭に血が上った僕は階下から響いてきた怒声で我に返る。
「坊主! ゲルデーン! 無事かぁ!」
サッジさんだ! ゴブリンの悲鳴と、数名の人間がもみ合う声が聞こえてきた。
「な、何だ!? おい、ダッツ、しくじったのかい!?」
「お、俺達は何も……」
動揺した! 今だ!
「<アクセラレータ>!」
ヒュ……!
「消え――」
「遅い!」
ドカ!
「きゃ……!」
「もう大丈夫だよ! アレク、こっちへ!」
「分かった……!」
「くそ!? なんだい今の魔法は!? うあ……!?」
僕はソーニャさん(?)を蹴り飛ばして距離を取り、アレクをこっちへ引き寄せると同時にサッジさんが部屋の入り口に姿を現す。
「大丈夫か!」
「いいタイミングだよサッジさん! さあ、観念しろ!」
「くそ……! 分かったよ、降参だ降参!」
「姐さん!? ……くそう……」
ソーニャさん(?)がダガーを捨てると、ダッツ達も武器を捨てて投降した。
「これで一件落着、かな? 後は叔父さんとやらのことを吐いてもらえば――」
僕がふう、と息を吐く。
だが、まだ終わってはいなかった。
「ギ、ギルドマスター! 領主様の部屋に――」
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