その31 むしろ町についてからがスタート


 「まさか雇った人物全員がグルだったなんて……」


 「レオスさんがいなかったら今頃……」


 ぶるりと身を震わせてリーエルが体を抱くようにしながら言う。自分で言うのもなんだけど、僕でなければ確実に殺されていただろう。計画性と引き際の両方を兼ね備えていたから、別の冒険者ならやりこめられるか一緒に殺されていてもおかしくは無い。


 ちなみに僕たちは置いていった乗合馬車を走らせている。御者は逃げたけど、もしかしたらあの御者もどこかですり替わっていたのかもしれないな。そうなると組織的犯行を加味しないといけない――


 「……このまま町に入っても大丈夫かな? 町の中に潜伏している敵がいるかもしれないんだけど」


 「大丈夫だと思う。町のみんなは僕を知っているし、領主の父さんはみんなに慕われているから、命を狙われていることを伝えれば逆に協力してくれるかもしれない」


 その言葉を聞いて馬車のスピードをあげる。またゴブリンの大軍を相手にするのもうっとおしいし、二人を守りながら戦うのは避けたい。


 酷使している馬には蹄に地味にダークヒールをかけたり、餌と水をしっかり取ってもらう方向で突き進んでもらった結果、


 「見えたよ、あれがフォーアネームの町だね」


 「は、速いな……まだ三日目なんだけど……」


 「お馬さん、頑張ってたもんね」


 「そういう問題じゃない気がするけど……」


 能天気なリーエルが僕の隣で馬に声をかけると、ぶるるといなないていた。アレクの言いたいことも分かるけどね。早速いつも通りの通行許可を得る為、門へと近づいていく――


 「止まれ!」


 「はい、お疲れ様です」


 「この馬車は乗合馬車だな、許可証を見せろ」


 「あ、えっと、これには事情がありまして……」


 かくかくしかじか


 「……何、アレク様とリーエル様が狙われている? お二人は確かノワールの叔父殿の所へ行っているはずだが」


 衛兵さんが僕を訝しんでみると、すぐにアレクとリーエルが顔を出してくれた。


 「彼の言っていることは本当だよ、すぐミドラの町の乗合馬車屋に連絡を取った方がいい、もしかすると御者がどこかで捕まっているか、最悪殺されている可能性がある」


 「おお!? ア、アレク様! 左様ですか、ではすぐに手配を……襲ってきた冒険者の特徴などもよろしいですか?」


 「私が覚えているわ」


 乗合馬車を引き渡して、詰所へ赴いてから調書をとると、すぐに解放された。ちょっと警戒していたけど、どうやら裏切り者はいないようで安心だ。


 「ゲルデーン様の容体もお変わりないようです。戻ってあげてください」


 「ありがとう」


 アレクが一瞬強張った表情を浮かべていたが、そこには言及せず詰所を離れる僕達。勿論この後はお決まりの展開である。


 「レオス、申し訳ないけど――」


 「一緒に来て欲しい、でしょ? はあ……こうなると思ったんだよ……あいつらが全員グルの時点でお察しだよね?」


 誰ともなく呟くと、リーエルがぷっと吹き出して笑った。


 「あはは、でも仕方ないわよ。レオスは強いんだもん! さ、行きましょう!」


 「はいはい……」


 僕の手を引いて駆け出すリーリエに、アレクが苦笑しながら付いてくるのが見えた。治すのはもしかすると簡単かもしれないけど、一連の首謀者を何とかしないとアレク達一家に平穏は訪れない。


 「(どこから攻めてくる? 僕ならどうする……? 正面から来るとは思えない。次に敵が来たら一人は捕まえて吐かせないとね)」





 ◆ ◇ ◆




 「正面から行くぞ」


 ダッツ達、冒険者達はやけに豪華な装飾があった部屋で話し合っていた。今、口を開いた男は一目散に撤退命令を下した男である。


 「マジかよ、アレク達にはレオスとかいう妙に強い坊主がついているんだぜ? とてもじゃないが手出しできん」


 「ああ、お前も遠目から見てただろ? ゴブリンが消し炭だ、消し炭……流石に死の危険を冒してまで金はいらねぇよ。ほとぼりが冷めるまで隣国にでもいくわ」


 ロイとハスがため息を吐きながら呟くと、豪奢な衣装に身を包んだ神経質そうな男が机を叩きながら叫びだした。


 バン!


 「ガキ一人くらいなんとかならんのか! その為に高い金を出して雇っていると言うのに! 兄貴も中々死なないし、大丈夫なんだろうな?」


 すると撤退命令を出した男が首を傾げて、


 「え? あの子供二人はあんたが殺そうとしている計画を聞いててすでにバレてますけど……」


 「な、なにぃ!? で、では屋敷に到着されたらワシは終わりでは無いか!」


 「……だから正面から行くんですよ。計画はこうです。このゴブリンを操る笛『ゴブリミナル』を使って屋敷を奇襲。リーエルを人質にしてレオスとかいうガキには手を出させないようにするか、もしくはことが済むまで別の場所へ誘導する」


 「そ、そのガキが喋ったらどうするんだ……?」


 「すぐに領主交代の手続きを取ればいいではありませんか。犯人にしたてあげてもよし。別件で指名手配にでもすれば国外退去するしかなくなるでしょう?」



 「ふむ、流石は切れ者のウリオ。だが、これで失敗したら遠くへ逃げるぞ?」


 「もちろんだ。だが、あの人がいる限り最後に笑うのは我々だ」


 「……そういや、あの人の姿が見えないな」


 「問題ない、すでに動き出している」


 くっくっくと笑うウリオに領主の弟がまたも叫ぶ。


 「な、何でもいい! 必ず成功させるのだぞ! 領主になれば金は上乗せしてやる」


 「お任せあれ……あの人が戻ればすぐにでも」



 

 ◆ ◇ ◆




 「ただ今戻りました」


 リーエルが屋敷の扉を開けて中へと入っていく。それに続き、アレク、僕と続いてロビーの真ん中まで歩いていくと、若い(ルビアよりちょっと年上かな?)メイドさんが階段を駆け下りてきた。


 「アレク様にリーエル様ではありませんか!? 分かっていればお迎えに行かせましたのに!」


 「ううん、急な帰りだったから大丈夫よ。それよりお父様は?」


 「……」


 「どうしたんだソーニャ……? ……まさか!?」


 ソーニャさんと呼ばれた人が深刻な顔で俯き、何かを察するアレク。急いで階段を駆け上り、二人はある部屋の扉を開けた!


 バーン!


 「父さん!」


 「アレクか!? 感染症の病気だから帰って来るなと言ったろう!」


 そこには元気に筋トレをしている領主様の姿があった!? 病気じゃなかったっけ!?


 「お、お父様、そんなに動いて平気なんですか!?」


 もっともなツッコミがリーエルの口から飛び出し、ホッとする。赤の他人が領主様にツッコミを入れるのは流石に気が引けるからね。するとソーニャさんがゆっくりと歩いて来てその場で泣き崩れる。


 「うう……言っても止めてくれないんです……きちんとした食事と運動をして汗を流せば治ると言っては筋トレを……」


 「げ、元気そうじゃない?」


 僕は頬を引きつらせてつい口にすると、領主様であるゲルデーンさんが拳立て伏せをしながらチラリと僕を見て言う。


 「いや、以前なら五百は固かったが、今では三百しかできん。確実に病魔に蝕まれておる。ところで君は誰かね?」


 確かに目の下に酷い隈があり、頬もこけているので病気と言うのは間違ってい無さそう。だけどその状況で筋トレができるこの人は魔族か何かだろうか……? とりあえず僕が問いに答えようとすると、横に立っていた白衣の男がゲルデーンさんに声をかけた。


 「体に障りますので、それくらいにしましょう。お子様たちも戻ってきたのです、今日くらいは運動をしないでもいいでしょう」


 「そうか、そうだな」


 大人しく言うことを聞いてベッドへ戻るゲルデーンさんを横目に、アレクが白衣の男へ声をかけた。


 「あの、あなたは?」


 「おお、これは失礼! 申し遅れました、ワタクシ、ゲルデーン様の主治医でティモリアと申します、はい」


 「主治医? 前のドイルさんはどうしたんですか?」


 「うむ、ドイルではお手上げらしく、新しく探してもらった方でな、彼の処方した薬で多少だが楽になった。だから彼に主治医になってもらっている」


 「そうでしたか! ありがとうございますティモリアさん!」


 リーエルがぺかっと笑顔でお礼をし、これもお仕事ですからと返すティモリアさん。


 「で、君は? ……まさかリーリエの……!?」


 「ああ、違います、僕は――」


 最後まで言い終わるとロクでも無いことになりそうだったので、さっさと自己紹介をすると、労ってくれ、部屋をあてがわれた。正式な護衛依頼としてギルドを通してもらった方がいいかな? ギルドにもこの話が伝われば牽制にもなるかもしれない。


 予想だけど、ゲルデーンさんを生かしているのは、恐らくアレクとリーエルが存命しているからだろう。もしゲルデーンさんが死亡しても、権利は叔父ではなく息子のアレクに移るだけだからね。


 となれば二人から目を離すわけにもいかない。早速、二人を連れて僕はギルドへ向かうことにした。

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