第二部 第四章 エト第三帝国1
三月の第三水曜日
エト第三帝国首都、アスタナ
エト第三帝国軍総司令本部
点滅する赤い点は、中央の画面上を秒速一センチで横断した後、目標の座標に到達し、消滅した。
対象に命中したという趣旨を告げる『
空中に浮遊している立体画面が分割され、枠の中に新たな画像が流れ込む。
立ち上る白煙のせいで詳細は見て取れないが、脳は目標物の消失を認識した。
『作戦参謀』が口を開く。
「着弾完了です。陛下」
次いで『最高司令官補佐官』が口を開く。
「おめでとうございます。陛下」
さらに『副国防大臣』が口を開く。
「どうか本日、この一時だけでも、陛下にとって、御心穏やか時間となりますことを御祈り申し上げます」
私は口を開かない。代わりに側仕えの『給仕』が、通電している私の思考を組み取り、応える。
「それは、マギアト作戦の自省を置いての発言か」
「申し訳ありません、陛下」
『作戦参謀』、『最高司令官補佐官』、『副国防大臣』が揃って色を失い謝罪した。
「陛下の仰る通りだ」
『外政大臣』がすり寄ってくる。
「しかし―、完全に
『作戦参謀』が割って入り、中央画面、右下の枠に視線を移動させた。黒く何も移っていない枠の下方には、『magito消失』の文字が写っている。
「EA《イエルタ》8、Z10の独立混成機54機を342秒で壊滅…。『第一』が天津を離れていることが知れたのです。成果としては充分でございましょう」
『給仕』が尋ねる。
「EA8の空費をどう分析する」
「天津本国の情報が不足していました。次回こそ挽回します故、この度は何卒…」
「陛下、構成を再計算させましたが、誤差は14.67に…。作戦は続行出来ます」
『最高司令官補佐官』の発言に『給仕』が応える。
「それは、シェラ
「申し訳ございません。そちらはまだ結論を出すには性急かと思いまして…」
『最高司令官補佐官』は左側のモニターに視線をやった。
モニターには黒鉛を上げて今にも墜落の間際というEA8が映し出されている。その奥には光球。まだ仄暗い朝の中、星のように輝いている。
「あれが天津の『竜もどき』か」
『給仕』が言う。
私は目を細めた。眼球の中の精密機械が焦点を合わせるために駆動し、振動となって皮膚に伝わる。
『国防大臣』が苦々しい表情で口を開く。
「…報告によりますと、『第三』が配備されているようです」
「やはり生きておったか」
『給仕』が呟く。
私は画面を凝視するが、光の中に人影のようなものは視認できない。再度、『給仕』が呟く。
「カリギウス大陸戦での借りを返したいところではあるが…」
「…しかれども、真に『第三』ならば機能が大幅に低下しているはずですが…」
『作戦参謀』が言ってくる。
言葉を受けて、『給仕』が呟く。
「天津にはよほど腕の良い修理工がおるのだろう。見よ…。薄血とは言え、やはり竜の血族である」
『給仕』の言葉が終わるのと同時に、画面の中の戦闘兵器EA8が煙を上げて始めた。派手な爆発こそ無いが、戦闘不能を察するには充分な有様だった。
「前提を変更した後、再度、本作戦の構成を計算させます」
『作戦参謀』の言葉に『給仕』が頷き、
「可及的速やかに報告せよ。天津を堕とせば、
「仰せの通りでございます」
『給仕』の言葉を受けて『国防大臣』が頭を垂れる。
ふと―、
唐突に、緊急を告げる警報が鳴り響く。
「何が起きている」
『作戦参謀』が鋭く兵に尋ねる。
しかし、問いに対する答えは、誰も口にできなかった。不確かな誰かの推測が、声になることはない。この国の『人間』は、機械が与えてくれる答えをただ待つだけである。
面白みのない、都合の良い国になったものだと思わずにはいられない。
(……?)
画面上に無数の数式と文字が羅列され、数秒の後に流れ消えていく。体感にして2秒。
曰く
『第三階層、國津国より階層間弾道ミサイルの射出を感知。912秒後に第2階層、第三帝国領ワームトリオ空中要塞に着弾予測。着弾までの測定を開始―』
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