第十章 要岩(7)

 和泉小槙が爆風に飛ばされ地面へと落下する。頭から叩きつけれるかと思ったが、彼女は寸前でそれを回避したようだった。体を回転させ、両足で大地を蹴り、体勢を整えた後に着地する。


「大尉殿!」

 片桐は幹から飛び降りる。大腿骨の付け根がおかしな音を立てて折れたのが分かったが、すぐに治ることは分かっているので放っておく。

 案の定、足の運びから、二歩目で付け根の骨折が治癒したことを悟る。


 駆け寄ると彼女が頭から出血しているのが分かった。打撲した場面は見ていないので、飛散した岩の破片で切ったのだろう。疲弊しているのか呼吸も荒い。すでに体内の對素とやらは枯渇しているようで、常人のそれと変わらない。


「大丈夫だ。それよりも」

 和泉小槙は額の血を拭いながら、

「やっかいなことになった」

 彼女の視線の先には二柱目の要岩から放たれた淵主の姿があった。一本目のそれよりも巨大で歪な形をしている。それが、和泉小槙が刻んだ一体目の土台部分を取り込み、一つになりつつあった。おぞましいほどに気配が増大していく。


「二柱に亀裂が生じていたらしい。こうなる前に終わらせたかったが、遅かったか…」

「これが本体なのですか?」

「まさか。これでも親不孝みたいなものだ」

「親不孝?」

「國津ではそう呼ばないのか。指の爪のところの皮が剥けるだろう」

「ささくれのことですか」

 片桐は空を蠢く触腕を眺めて呟く、「これで?」

「星だぞ。相手は」

 和泉小槙はそう言って太刀を鞘に収めると、こちらに向き直った。彼女は深く息を吸い込んでから、呼吸を整える。


 喰らうのだろう、と片桐は首筋を差し出した。自然な運びだったが、一度経験した激痛を思い出し、内心では気が重かった。


 和泉小槙は近づきながら、

「最大出力で放出し続けなければ歯が立たないだろう。いちいち戻っていてはやられてしまう」

「…状況の変化に対応できないほど愚かではないつもりです」

「物わかりが良くて助かる」

 和泉小槙はそう言って片桐の首筋に食らいついた。

 再びの激痛に片桐は顔を歪めた。

 倒れなかったのは意地だ。二回目で痛みが予期できていたことも大きいが、腹をすくっていれば何とかなることは以外と多い。


 和泉小槙が離れる。

 彼女は満足そうに笑みを浮かべると、

「では、私の背に乗れ。片桐曹長」

 と言った。

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