第27話:反時空の神宝対消滅、帰還

「そういえば、自分のICカードをマートフォンのNFCリーダアプリで読み取ったら、今の時間がわかるはずだ。いままで思いつかなかった」


 令時は今度はスマートフォンの自作のNFCリーダアプリで自分のICカードを読み取ってみた。


 記録は『五階入階、二〇二五年一二月十日 午前一時五十分』となっており、唐條の入室日時と同じであった。


「どういうことだ。時計サーバがおかしいだけなのか? ここの空間だけ時間が違っているのか? 信士、七階サーバ室まで全力で走るぞ! 午前二時まであと十分しかない!」


 令時と信士は、六階の扉を解錠し全力で記憶している最短コースで七階の扉へと走っていった。もはや罠を探索して攻略している時間などなかった。十六夜は、令時の思念波で残り十分の意味を理解し後に続いた。


 アリサ、サクと十五夜は五階で閉ざされてしまった。信士の一枚のICカードがそこに落ちていた。


 七階の扉へ到達、解錠。『残り九分』


 令時、信士、十六夜、十三夜と三匹の蛍胞子が七階へ入階した。


「サーバ室に行くぞ!」


 地下七階は、円環状に部屋が配置されており、サーバ室は最奥の一番広い部屋である。


 サーバ室の扉の解錠、入室。『残り八分』


「間に合ってくれ」


 三匹の蛍胞子がざわついた。天井には、黄金甲虫スカラベが張り付いており、こちらを凝視していた。そこには、サーバラックの前に金属の鎖で捕らえられた唐條葵がいたのである。


「唐條!」


「早神師匠!」


「あ、あのお方は千夜一夜、アルフ・ライラ様」


 十六夜は、唐條葵を見てそう言った。十夜族の古の始祖のアルフ・ライラは、今の唐條葵に顕現しようとしているように見えたのであった。時空の神宝はまだ錬成されていないが、欠片はこの部屋にすべて集まっている影響でアルフ・ライラが唐條葵に顕現しようとしていた。


 黄金甲虫スカラベが令時に思念波を放った。


「随分待っておったよ。第二十代の令位守護者のココロと戦って以来だからな」


「唐條を放せ」


「反時空の神宝と交換だ」


「なぜそれを知っている。だめだ、渡せない」


 ここで押し問答していても時間を費やすだけだ。詮索している暇はない。『残り七分』


 その時、唐條葵の様子が変わった。比叡山最強護符(角大師)の護符を唐條も持っていたようだ。令時の護符と共鳴し、唐條の身体を青く包み、捉えられていた鎖が破壊された。


「早神師匠…… 第二十一代の令位守護者の早神令時よ、我は、千夜一夜のアルフ・ライラ。黄金甲虫スカラベが奪った、時空の欠片の中心核のコアナンバー十二を奪い返して、時空の神宝を錬成しなさい。時間がない……」


「承知しました」


 唐條葵が変幻した千夜一夜は、まだ安定しないのか動けないようだった。スカラベは、赤眼変異体の大鍬形よりも硬そうな、硬い上翅を震わせて、超音波に思念波を乗せて斬撃波を繰り出してきていた。斬撃波を防御する為に令時が、咄嗟に錬成したダイアモンド製防御壁は、あっさりと粉々に粉砕された。


「信士、スカラベが斬撃波を繰り出すときに、上翅を震わせる。そのときに、翅と本体の間に隙ができる。そこを一斉に狙う」


「承知しました」


 スカラベが硬い上翅を震わせた瞬間、令時と信士は一斉にすべての魔弾をスカラベの上翅と体の隙間に撃った。合計八弾の魔弾である。八本の青白い軌跡を残しながら、上翅に着弾し、連続の超爆発を起こした。


 スカラベの斬撃波はすでに令時の目前まで来ている。十六夜は漆黒の狼に戻り庇うように、黒爪で薙ぎ払った。黒爪は粉砕し、散っていくのが見えた。


「十六夜! 大丈夫か」


「我にはまだ左の黒爪が残っておる」


 令時は十六夜に怪我がないことを確認した。


「問題ないようだな」


 スカラベは上翅をもぎ取られながらも、まだしぶとく生きていた。


「魔弾の補充ができない。魔弾はサクが持っている無限収納ザックに入っている。サクは地下五階で足止めになったはず」


 令時は咄嗟に上賀茂神社の護符を活性化させ、強雷をスカラベに撃った。スカラベの動きが止まった。


 十三夜が三匹の蛍胞子に思念波で蛍胞子達を振動させ命令した。スカラベの体に潜り込んでやっつけろと。三匹の蛍胞子は、スカラベの体内に潜りこみ、エネルギーを取り込んで、脳の神経を毒素で溶かして切断した。スカラベは一ミリメートルにも満たない三匹の蛍胞子によって絶命した。


「なんと、最後はこの三匹の蛍胞子がやっつけたのか。十三夜はこいつらを使役できるのか」


「ソウダナ、子分だな。ワタシのいうことに従うミタイだ」


 令時はスカラベが持っていたコアナンバー十二を採取した。一から十まで組み立てていた複合欠片に、コアナンバー十二を入れようとしたが、焦りのせいか手が震えてうまく入れられなかった。少女に変幻した十六夜が令時の震える手に自分の手を添え言った。


「大丈夫」


 不思議と落ち着き手の震えは止まり、複合欠片に中心核のコアナンバー十二をセットし、コアナンバー十一で頂点を封じた。接合部が綺麗に自己修復され、ここに時空の神宝が完成したのであった。


 時空の神宝は時空の宝玉であり、賢者の石でもあるが、今から反時空の神宝で対消滅をさせないといけなかった。賢者の石さえあれば、まだ知りえないこの世界を手に出来たかもしれないが、令時にとっては、それは何の意味もなかった。仲間とともに元の世界に戻って、家族と暮らすことさえできれば良かったのである。


 令時は時空の神宝を、唐條葵が変幻した千夜一夜であるアルフ・ライラに手渡した。アルフ・ライラは完全に覚醒したようだった。


「早神一族の第二十一代令位守護者令時、十夜族の十六夜ご苦労であった。十七夜は残念だったが復活するであろう。許してやってくれ。そなたが持つ反時空の神宝を前に出してください」


 アルフ・ライラは、時空の神宝を令時が出した反時空の神宝の上に重ね、詠唱した。


『過去より辿りし紅の者、生樹から別れた十夜の者、ここに時は合わすなり、魔の数位の連環を絶て』


 時空の神宝と反時空の神宝が一つに合わさって、光の環が出来て消えようとしていた。


「令時、ありがとう我はここまでだ…… もうどの時空位相空間でも会えない」十六夜は涙があふれ落ちていた。


 令時も涙があふれ落ちていた。令時は記憶のありったけを思念波に乗せて、さよならを言った。


「ワタシはレイジとイッショにイクヨ」


 光の環が完全に消滅し、時空の神宝と反時空の神宝が対消滅した。『残三分』を切っていた。


「急げ、上階に行けるところまで行くぞ、訳は後だ!」


 唐條は、令時の思念と態度で悟った。行かなければと。三人は全力で上階を目指した。解除は唐條のICカードで開いた。地下、五階までたどり着くのがやっとだった。


『二〇二五年一二月十日 午前二時〇分』その時は再度やってきた。


 ここは、大丈夫だ。地鳴りと上のほうでは、ビルの崩れる音の中、周りが暗闇になった。電力が途絶えたようだ。数分後には、バックアップ電源が作動したようで、明かりが元にもどった。


「凌げたようだな」


 いつも傍にいてくれた十六夜の姿はなかった。十夜族、サク、アリサも見当たらない。


「戻ってきたのか? 外に出よう」


「早神師匠、私のICカードどこかで落としたようです」


「唐條、俺のICカードがあるから、ここからは使える」


 唐條は五階までたどり着くまでのどこかで落としたようである。午前二時にこのビルにいる人間は令時三人を除いて警備員だけであった。一階出口から外に出た。地上の構造物は崩れ落ちていた。


 京都山城の澄み切った夜空に冬の星座、オリオン座が輝いていた。一万年後には消滅する運命の一等星のベテルギウスも燦然と輝いていた。戻って来れたのである現世に。ここからは復興か。


 ふと、目の前に、三匹の蛍が揺らめいているのが見えた。


「こんな冬の時期にどうして蛍が……」


「そうか、十三夜か!」


 三匹の蛍はそれに答えるかのように、令時の頭の周りを回って消えていった。


「十三夜…… 見えないよ。この世界では妖精は見えないんだよ」


 令時は、また涙があふれ落ちていた。


「レイジといつも一緒にいる」と聞こえたような気がした。


 完

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時空の神宝 ~時空位相に落ちた先にあったのは~ @lister

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