第26話:山城の地下迷宮内へ

 ICカードをかざしたところ、透明な緑のプレートが反応し、発光した。プレートを押して解除しないとだめなようだった。信士は、特殊共感覚でこの押された文様のプレートの順番をなぞり解除した。


「そうか、十七夜は、たとえ唐條の旧ICカードで解除行為を開始できても、プレートの押下順がわからないと解除できない。俺を待っていたのではなくて、信士を待っていたのかもしれない」


 透明な緑のプレートは白く発光し、両開き扉が自動的に開き、階段にはLED様の翡翠ライトが地下へ誘導していた。令時は元の世界では、何度も地下七階へは行ったことがあり、目指すは、地下七階のサーバ室であるが、各階に認証装置付きの扉があり、迷路になっていることを知っていた。


「ここでも、同じ経路なのであろうか。アリサ、探索を頼む」


 アリサは、最初の扉と同じ扉を探査し、その位置をすでに把握していた。


「ここに地下二階から七階までの扉の位置を、このペンで示してくれないか」


 令時はスマートフォンの画面に各階の床面にアリサが示した扉の位置を、記憶にしたがって、頭の中で追ってみた。十五夜は令時の記憶と思考に同時に注力しているようだった。


「扉の位置は同じだな」と令時よりも十五夜のほうが先に口に出した。


「ああ同じだ。経路も同じなら手探りでも行けるのだが。罠もありそうだから、やはり探索者のアリサを先頭にしていこう」


 地下はLED様の翡翠ライトが足元を照らしているだけで、全体的には暗かった。空調はなく、やや湿気が多いためか、蛍胞子が時々ゆらゆらと漂っていた。蛍胞子は十三夜の後を、一匹、二匹、三匹、黄色の光跡を引きながら追いかけて来ていた。これぐらいの数であれば、十三夜には問題ないと思われるが、十三夜はうっとうしそうに、翅をばたつかせていた。


「レイジ、この蛍胞子ナニカ、ささやいてイルヨ」


「蛍胞子がささやくのか? 何か振動しているのは分かるが、さすがに昆虫の思念波を理解できる俺でも菌類はまったく何も感じない。何ていってる?」


「下の階層にいきたいって。連れていけっていってる」


「勝手にしろと言って」


 十三夜が蛍胞子に向かって、令時にも理解できない思念波を放った。蛍胞子はそれに反応したのか、くるくると、十三夜の周りを回りだした。多分喜んでいるのだろう。地下五階まで何事もなく扉も解除でき、降りてこられた。十三夜を追走する蛍胞子はなぜかそれ以上増えていなかった。新たな蛍胞子がやってきては、三匹が追い返していたのであった。


「可愛いな、コノコタチ。ココは気をつけろとささやいてイルヨ」


「アリサ、ここ五階は何か仕掛けがあるかもしれない。いつもと違う何かを探知したら教えてくれ」


「早神様、わかりました」


 令時の記憶では五階は吹き抜けになっている。ここでも同じように吹き抜けになっており、上層の四階と下層の六階の一部が見えていた。六階行く扉へは、中央の橋の階段通路を渡る必要があった。


 以前、案内の人に聞いたことがあった。なぜ周りから見えるこの狭い階段通路を渡らないといけないかと。案内者によると地下六階、最終階の七階に行ける人は限られているとのこと。公開されていない重要な研究室もあり、そこを通過する人はすべて撮影され、不審者もAIで瞬時に判定されているとのことだった。


「早神様、四方から橋の階段通路へ向けて、探索石に不可視の光線の反応があります」


「十三夜、紫外線モードで何か見えるか?」


「ナニモ、見えない」


「ということは赤外線だな」


 橋の通路上には蛍胞子の死骸が降り積もっていた。赤外線に触れて乾燥し、死んだものと思われた。もう、十センチメートルは積もっている。何年経過してこれだけ積もったのかは知る由も無かった。


「アリサ、森山遺跡地下のように、レーザ照射用の水晶がどこかにセットされてかもしれない、上層四階、下層六階も探索してくれ」


「早神様、上層四階天井に階段通路に合わせるように水晶が、連続して埋め込まれてます」


「それだ! このまま降りたら、レーザ照射されて死んでしまう」


 令時は、天井の一つの水晶に向けて、サクにリボルバーで狙い撃ちさせて破壊してみた。案の定、破壊と同時に残りの水晶からレーザ光が階段通路全体に網目上に照射された。何年も降り積もっていた蛍胞子の死骸が一瞬に燃え去り、階段通路全体が白煙に包まれた。前も見えなかった白煙が薄っすらとなった時には、レーザ光は止まっていた。残りの水晶を全てサクと信士のリボルバーで破壊した。


「これで大丈夫なはずだが、誰が先に行くか勇気がいるな……」


 令時の言葉を聞いて、反射的にサクが階段通路を走り出し、扉に到達しようとしている様子が見えた。


「やれやれ、サク。それで前は失敗したよね。谷に落ちそうになったときあったよね。その勇気に免じて許すけど、もっと慎重になるんだ」


 わかった。といういつもの元気な声が向こう側から聞こえてきた。一行は、サクの辿った後に続き、六階へと行ける扉に到達した。三匹の蛍胞子も空中を舞いながら後を追ってきていた。本来はこの階段を渡れなかったのであるが、赤外線が無くなったので、無事に渡れたのであった。


「この扉の向こうは六階だ。七階まであと少し。唐條はそこにいるのか?」


 令時は七階に近づくにつれ段々と不安になってきた。


「唐條は、七階のサーバ室から出られなかったはずだ。すでに時間は一万年を優に超えている。その中では生き抜くことは絶対できない。俺と信士のように今世に時空位相しない限り」


 六階の扉は令時のICカードでは反応しなかった。セキュリティー上、六階より先の扉は唐條のICカードでないと解錠しないのであった。


「やはり反応しないか。信士のICカードではどうだ?」


「令時さん、私のICカードでもだめですね」


「唐條の旧ICカードで解錠できるだろうか?」


「どうしてです? 唐條の旧ICカードならセキュリティー上許可されているカードですよね」


「そうだけど……」


 令時は唐條の旧ICカードを扉の認証装置にかざしてみたが、認証装置はエラーを返したのであった。唐條の旧ICカードの最終記録は、『七階サーバ室入室、二〇二五年一二月十日 午前二時〇分』であったから、六階入室はデータ上不可なのである。


「そういうことなら」


 令時はスマートフォンの自作のNFC書き込みアプリで、七階サーバ室入室、七階、六階入階までの記録を削除した。


 記録は『五階入階、二〇二五年一二月十日 午前一時五十分』となった。

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