第25話:山城の地下迷宮入口

 令時は宝箱から時空の神宝、反時空の神宝についての資料を取り出し、他のアイテムはすべて皆で山分けにした。ヒロトは、手に入れた神級アイテムと神金継の牙角をガイラから交換できたようだった。皆、それぞれ満足いくアイテムを手にして喜んでいた。


 その中で無造作に放りだされて残ったアイテムが一つだけあった。携帯電話である。ただその携帯電話は、スマートフォンでも折り畳み式でもなく、一番初期型のショルダーバッグタイプだった。


「こんな移動式携帯電話は、博物館で見たことしかない。俺より前の世代か?」


 第二十代はどの時代から時空位相してきたんだ? この先は令時はあえて考えないように封印した。連環を絶たないと。


 天井ホールの入口は、いつの間にか解放されていた。


「無限収納ボックスは、俺が預かっておく。皆、新宿舎に戻るぞ」


 新宿舎では、信士、十五夜、サクが心配そうに待ち受けていた。


「令時さん、どうでした」


「信士、いろいろ分かったよ。先代の令位守護者とも対面した」


「先代の令位守護者ですか? どうやって」


「いろいろあったが、局所的な時位相で繋がった。今回の時空位相は、俺自身の問題だったのかもしれない。信士と唐條は巻き添えを食っただけかも」


「自分はここに、自分の意思で居ます。巻き添えなんかに会ったとは思ってませんから」


「そうか」令時は気弱く答えた。


「令時さん、唐條を助けにいかないと」


「そうだな。こんなところで、もたもたしている分けにはいかないな。山城に行くぞ! 唐條を助けに」


「承知いたしました。早神統括マネージャ」


 令時達は最終目的地の京都山城地方の精華に出立することにした。かつての関西文化学術研究都市へ。そして、地下七階の建造物がある唐條葵が待っているサーバー室へ、今世では、山城の地下迷宮と呼ばれていた。待ち受けるのは、主である黄金の甲虫スカラベであった。


 今回、森山遺跡地下の探索で活躍したアリサも連れて行くことにした。地下七階に到達するには探索は必須と思ったからである。


「アリサは、山城の地下迷宮行ったことがあるか」


「周辺に行ったことがありますが、ジャングルになっております。それと、中に入るにはキーのようなものが必要らしく、過去のテクノロジーで守られているようという噂です」(過去のテクノロジーで守られているのか、まさかな、昔そのままということはないよな。行ってみればわかるか)


「令時さん、キーってカードキーのことでしょうか?」


「だといいんだが、俺も登録しているから所持している。このICカードだ」


「令時兄ちゃん、それはどういう護符なの?」


「サク、これはな、地下迷宮の扉を解除できるかもしれない唯一の護符だよ」


「遺産級のアイテムだ」


「そうだな、過去のテクノロジーだからまさしく遺産級だ。効果は扉を開けるだけの機能だけど」


「では、皆、十五夜の牛ドラゴン、牛車で移動だ!」


 十五夜は牛ドラゴンになり、宿舎でさらに飾り付けられた平安時代にあろうかと思われる牛車を引いて、令時達一行は、スマートフォンのマップ上の旧奈良街道に沿って更に南に下って行った。


 今は翡翠道路になっているが、何度も車で往復した勝手知ったる道だ。その道を、牛ドラゴンが引く牛車が猛スピードで移動して行った。


「このあたりが元いた世界では関西文化学術研究都市だ」


 周りはすべて、ジャングルのようになってる。このあたりの地上の構造物はすべて崩れ去っていた。


「鉄骨・鉄筋コンクリート造なんて耐用年数なんか百年もないので、一万年後の世界ではこのように風化してしまうのか。むしろ宇治にあった鳳凰堂などは木造りであるがメンテナンスすれば、あのように一万年も持つのか。人が生み出したコンクリートなんかは跡形もないな」


 地上は長年の風化で、ほぼ原形をとどめていなかったが、各建造物の地下への入口は健在で、風化を免れて構造を保っているようだった。


「ジャングルで隠れているが、スマートフォンのマップからすると、あれが目的の建物の跡だ。十三夜、上空から観察してくれないか」


「ワカッタ」


 十三夜からの上空の映像がきた。令時はこの思念波をスマートフォンにデジタル処理して皆に見えるようにしていた。ジャングルのなかから薄っすらと建物の跡が残っているのが見えた。更にその建物の中心へは何か所からも、ジャングルを分け入ったと思われる細い道が中心に向けて続いているのが見えた。


「道路から建物まで誰か分け入った後がずっと続いているようだ」


「令時さん、中心までたどり着いているのは、北東の一筋だけですね。後は途中で全部止まってますね」


「中心の入口に行けるルートがこの一本だけか。後は何かトラップがかけられていて行けないようだ。一本はあるということは、そこに辿りついた先人がいるということだな」


 令時はスマートフォンのマップを最大限に拡大して、建物と蜘蛛の巣の様についた道筋跡を重ねてみた。


「これは! この一本の道筋は、建物の警備道路と一致している。大型特殊装置を搬入できる裏ルートだ」


「レイジ、南西の一筋の終点に人が倒れてるよ」


「望遠拡大して映像を送ってくれ」


「父ちゃんだ、父ちゃんがいる!」とサクがスマートフォンの映像を食い入るように見て叫んだ。


「レイジ、残念だが大分時間が経っているヨウダ。生命の思念波が感じラレナイ」


「サク、そこまでだ。サクの父ちゃんは、あの魔物のいた水度集落を一人で渡り切り、何かを求めてここまでたどり着いたようだ。多分、上鳥羽集落を豊にするために、ここの秘宝を求めにきたんじゃないかな」


「父ちゃん……」


「十三夜、手に何かを握り締めているようだ。拡大してくれ」


 サクの父の手には、古ぼけたICカードと手紙を握りしめていた。


「サクの父が持っているカードと手紙を持ってきてくれ。サクの父ちゃんには、最大の敬意を払って」


「ワカッタ」


 十三夜はサクの父の傍らに降り立ち、周りに咲いていた山茶花(さざんか)の白い花びらをありったけ集め、体を包み込んだ。十夜族に伝わる天国に行けるという歌を歌いながら見送った。


「父ちゃんは、天国に行けたかな……」サクは涙を流しながら、スマートフォンから流れる十三夜の歌を聞いていた。


「ああ、これで天国に行けたさ。サクにも見送ってもらったし」


 十三夜がICカードと手紙を持って帰ってきた。


 手紙にはICカードを守護者十七夜様から頂いたこと、遺跡に入って宝物を持ち帰り村を豊にすること。最後に、ここに至ったルートは間違いであったこと。もしも、この手紙を読む者がいたら、このICカードは、扉の解除キーだから使ってくれという内容だった。そして最後に妻とサクへの別れの言葉が書いてあった。「サク、母さんを頼む」と。


 令時は手紙を読み終えて、ICカードを手に取ってみた。


「この古ぼけたICカードは!」


 ICカードは、令時が持っているICカードと同じであった。違うのは、表面は筋状の細かいひびが入っており、色も変色して劣化しているところである。このICカードには、QRコードが印刷されてある。さっそく、スマートフォンのQRコード読み取りアプリで読み取ってみた。


「読めないか…… 読めれば、発行先がわかる」


 筋状の細かいひびが、邪魔をしているようで読めなかった。何回か、わずかに内側に曲げて読み取ってみた。


「やっと読み取れたか」


『発行年、二〇二五年十月 利用者、唐條葵』


「唐條のICカードだ! 劣化しているとはいえ、このプラスチックのカードは、一万三千年を耐え抜いたのか。ICチップには、入退室が記録されているはずだ。こんなところで自作のNFCリーダアプリが役に立つとは」


 令時は今度はスマートフォンの自作のNFCリーダアプリを起動し、非接触ICカードの情報を読み取った。


『七階サーバ室入室、二〇二五年一二月十日 午前二時〇分』


 あの直下型の地震が発生した日時だった。退室記録はなかった。


「唐條は、閉じ込められたままか。今世ではどうしたのだろうか。それともそのまま……」


「しかし、サクの父が持っていたこのICカードの入手元は十七夜だ。十七夜は、どうやって手に入れた?」


 一行は中心までたどり着いていた北東の一筋の跡を辿って、中心の地下への入口までやって来た。


 入口の前には、一人の若者が瞑想していた。


「待っておったぞ。第二十一代令位守護者の早神令時殿」と十七夜は令時を見て言った。


 十七夜とって四千年経っているが、令時にとっては、つい昨日のことである。第二十代令位守護者早神心に付いていた十七夜はその時は少年だった。その少年が、今ここに青年になっている。


「兄さん、こんなところで何を」


「十六夜か久しぶりだな。この地下迷宮に入る方法を探っておった」


(おかしいな、十七夜はICカードを元々持っていたはずだ。扉は解除できるはず。それをなぜ、サクの父親に渡した?)


「第二十一代令時殿、我が人型に変幻した状態で鍵にかざしても、何も反応しなかったのだよ。人族でないと反応しないようだ」十七夜は、令時の思考を読み取って答えた。


「唐條のICカードはどこで手に入れた?」


「第二十代心殿の収集品で、地下迷宮の扉の解除に必要とのことであの最後の間際に譲り受けた」


「それで、サクの父で試したのだな! 解除できるかどうか」


「ああ、そうだよ。解除はできたけど、あそこは罠の扉だった」


 いや、唐條のICカードは宝箱に入ったままだったはず、それを十七夜は無理に取り出したのだ。地下迷宮への扉の解除キーを得るために。目的は変幻を取り戻すだけか? もしかして、こいつも時空の神宝の狙っているのか…… 甲虫スカラベと通じているのか?


 令時はすでに神ダブルバレルショットガンを十七夜に突き付けていた。


「令時、待って。兄は正気ではない!」


「十六夜、我は正気だ。時空の神宝である『賢者の叡智』を使って、我が十夜族の長になるのだ。未来永劫に。甲虫スカラベ様と約定した」


 その言葉で十六夜は悟った。もはや昔の兄とは違うのだと。


 十七夜はわずかな隙をついて、不死鳥のフェニックスに変幻して飛び立った。


「兄は、すでに変幻の技は回復しておったのか」


 令時は紅のドラゴンに変幻して、不死鳥のフェニックスの後を追った。十六夜は咄嗟に、紅のドラゴンの首に手を掛けて乗った。


「十七夜といっしょにゆっくりと天を飛びまわりたかったノニ」と十三夜もフェニックスの後を追いかけた。


 天空には、不死鳥のフェニックス、紅のドラゴンと背に乗った少女の十六夜、蜂妖精女王が舞った。


 不死鳥のフェニックスは機敏性を生かして、紅のドラゴンの背後に回った。爆炎攻撃が後方から容赦なく降り注ぐ。紅のドラゴンにとって、炎は何ともないが背に十六夜を乗せている。庇う必要があり思うように、フェニックスを振り切れないでいた。


「令時、上昇だ。天空からターンして、神炎皇のブレスを撃ち込め」


「それはだめだ。十七夜が灰になってしまう」


「大丈夫、灰から次代のフェニックスが蘇る。それゆえ、不死鳥なのだ。兄はそれで、正気に戻るやもしれぬ」


「神炎皇のブレスは、急降下で超回転をしなければならない。十六夜を振り落としてしまう」


「ならば、漆黒の狼の黒爪を、紅のドラゴンのクレナザイトの鱗に立てて凌ぐ」


「承知した十六夜。十三夜、いつものようにシンクロして照準をフェニックスに当ててくれ」


「ワカッタ」


 紅のドラゴンは上昇に転じ、背には漆黒の狼を乗せ、天空へと消えた。十三夜は、紅のドラゴンの前方に位置し、ドラゴンからの揚力を得て、同じ速度で上昇していった。


 フェニックスも後を追走し上昇に転じたが、上昇力は紅のドラゴンの方が勝っており、徐々に引き離されていった。


 突如、天空の雲を貫いて、炎の柱がフェニックスに降り注いだ。フェニックスは燃え尽きて灰になったのである。灰は霧散せず、意思があるかのように、フェニックスの形を保ったまま、北の宇治集落の方へと流れて入った。


 十五夜は灰になった不死鳥のフェニックスである十七夜を見送った。十五夜の頬には涙がつたっていた。十五夜は姉とは違って十七夜とは一度も話をしたことはなかったが、唯一の兄であったのだ。


「あれは、多分、宇治の鳳凰堂に戻るんだろう」


「信士、どうしてわかるの?」


「令時さんが前にも言っていたと思うけど、鳳凰堂の棟飾りは不死鳥のようだって言っていたよね。十七夜は、宇治集落の守護者だったんだよ」


「宇治集落に戻ったのね。不死鳥は再生できるから、兄は元にもどるよね」


「そこまでは、僕にもわからない。十六夜さんが知っているかも」


 紅のドラゴンが、地上にいる皆のところに舞い降りた。まだ口からは白煙が出ていた。白煙の中から、十三夜が飛び出し、白煙が収まると令時は変幻を解き、人に戻った。漆黒の狼も同時に変幻し、少女の十六夜になった。


「姉さん、十七夜兄さんが……」


「ああ、そうだ燃え尽きて灰になった。でも再生する。それで四千年も生きているのだから」


「十七夜は甲虫スカラベと遭遇したあのときにすでに洗脳されていたようだ。再生でその洗脳も解けるだろう」と令時は森山遺跡の地下で第二十代心と面会した時のことを思い出していた。


「ソウダネ、森山遺跡の地下の天井ホールで、残っていた甲虫スカラベの残留思念が、十七夜の周りに濃くあるのを感じたケド、そのときにセンノウされてイタノカ。デモ、あのフェニックスの形をした灰にはその残留思念は感じナカッタから、センノウは解けたとワタシもオモウ。大丈夫だよ、十五夜姉サン。復活したらイツデもハナシができるよ。ワタシは十七夜兄さんとイッショニ飛びたいし」


 十夜族の姉妹はそれぞれ十七夜のことを思い、宇治の鳳凰堂に帰って行く不死鳥のフェニックスを見送った。


「十七夜は、この地下迷宮の入口で待っていたんだな。俺が解除に必要なICカードを持っているのを知っていたんだ」


 地下へ行く最初の扉の認証装置は、元の世界で利用していた認証装置と同一であった。ただし、認証装置の周りに星形石に刻まれていた文様と同じ文様の透明な緑のプレートが五か所に配置されていた。


「やっかいだな、こちらの世界の施錠技術が付加されている」

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