第23話:過去より辿りし紅の者へ

 アリサを先頭に探索者達が先人を切った。令時と十六夜が続き、後ろに商人達が続いた。翡翠ライトは、周囲からの翡翠のエネルギーに反応して光り、手元を照らすには十分な明るさだった。地下の洞穴の道の前方からは、冷ややかな風がずっと緩やかに吹いている。ときどき蛍のように黄色く光るものが、風に吹かれながら浮遊していた。


「あれは、蛍か?」


「早神様、あれは蛍ではありません。蛍胞子といって、カビが胞子を放っているのです。自然の光を帯びても反応しませんが、この翡翠ライトの思念波が混ざった特殊な光を吸収して光っております」と先頭を行くアリサが答えた。


「紫外線を受けて光る、ひかりゴケのようなものだな」


「はい、そのようなものです。蛍胞子は洞窟にはよく存在しています」


「害はないのか?」


「はい、まったく」


 洞穴の道は時々二つに分かれていたが、その都度、アリサが指向性の探索思念波でどちらに行くか決定していた。クレナザイト製の増幅石は、指向性の探索にはうってつけであった。


(洞穴の道は迷路のようになっていのるか。初見の侵入者はこれだと迷ってしまうな。スマートフォンのオフライン地図を見るかぎり、着実に森山遺跡に向かっているようだ)


「アリサ、無限収納ボックスの宝箱までの距離はわかるか?」


「二百メートル先まではっきりとわかるのですが、その先が何かに妨害されて確定できません。でも方向は間違いないです」


「わかった」


「多分、何かの物質による遮断だろう。そこまで行けば後は目視で全員で捜索だな」


「他の探索者の者から、前方は、だんだん蛍胞子の密度が高くなってきていると報告がありました」


「レイジ、この蛍ホウシ、ウットウシイ! カラダ中がカユイ」蛍胞子は、十三夜にまとわりついていた。


「早神様、まずいです。蛍胞子は我々には、まったく害はないですが、昆虫形態の蜂妖精女王、十三夜様には害がございます! 体に取り付いて栄養を吸収しようとします」


「アリサ、どうすればいい」


「胞子は、熱風で乾燥しさえすれば、簡単に粉砕されます」


 令時は、記憶実態魔法で翡翠のエネルギで動作するドライヤーをイメージして錬成した。


「よし、これで温風を送るぞ!」


「アハハ、ナンカくすぐったいヨ」


 蛍胞子の黄色い光は瞬く間に消滅した。


「カユクなくなった」


「十三夜、蛍胞子がまとわり付いてくるから、俺の懐に入ってろ」


「十三夜! 我の懐に入れ。令時はだめだ」


「ドウシテ?」


「令時はだめ。令時は我の弟子だからな」


「意味がワカラナイヨ」


「十三夜、まあそういうことらしいから、十六夜の懐に入れ。顔も出すなよ」


「ショウガナイナ」


 探索者のいうとおり、蛍胞子の密度は相当高くなってきた。翡翠ライトよりも明るく周囲を照らしている。ただ翡翠ライトを消すと、蛍胞子の光も消え、真っ暗になった。


「早神様、前方で途方もなく蛍胞子が密集しております。この影響で、探索思念波が攪乱されてわからなくなっているようです」


「ありがとう、アリサ。ならばこの翡翠ドライヤーで蹴散らすか。もっとパワーがあったほうがいいな」


 令時は仮想実体魔法を使って、翡翠ドライヤーの出力を増大させるように改変した。


(翡翠ドライヤーに属性石をセットするなんて自分でも思いもよらなかったよ。これで温風をより周囲に一気に吐けるはずだ)


「令時さん、あそこが最先端です。巨大なホールがみえます」


「うおー、前が見えないぐらいにホール中に蛍胞子が密集している。しかも床から天井まで渦巻いている」


 天井に穴が開いており、そこから湿った外気が流れ込んでいるようだ。令時のスマートフォンのオフライン地図は、まさしく地上からではたどれない森山遺跡の中心を示していた。


「出力アップした翡翠ドライヤーで、蛍胞子を蹴散らすぞ」


 翡翠ドライヤーから吐き出された温風の渦と天井からの渦がぶつかったところに相互作用で、停滞領域が発生し、蛍胞子がそこに勝手に集まっては温風に触れて、ぷちぷちという音とともに消滅していった。


「なんか、ぷちぷちって心地よいな。ずっとこのまま聞いていたいような……」


 蛍胞子がほぼ消滅しかかったところで、皆が口々に言い放った。


「あれは?」


「宝箱だ」


「無限収納ボックスだ」


 第一発見者は全員だった…… 巨大ホールのど真ん中のテーブルの上に、何やらメッセージが書かれた紙切とともに置かれていた。一枚岩の翡翠から切り出されたと思われるテーブルがあり、その上に、無限収納ボックスの宝箱が置かれていた。


 手紙と思われたものは、実はテーブル上に掘られたレリーフであった。掘られた文字のレリーフは、レーザーで加工したようなシャープな文字彫刻であった。


「早神様、これは?」


「まて、アリサ! 触るな。罠があるかも知れない」


(宝箱は定位置と思われる位置から少しずれた跡が何回が残っているようだ。地震か何かで移動しているな。レリーフ上にえぐられた跡が見える。右上前方から左下後方に抜けてのレザー光だ。床にも跡が残っている。明らかに罠が張ってある)


「信士を連れてきたらよかったな、あいつなら特殊共感覚で罠を正確に特定できたかもしれない」


「早神様、右上前方を探索してみます。あそこの小さい穴の奥にここからは見えないですが、水晶がセットされています! 他にもう一か所、左上前方にもあります」


「それだ、アリサ。左上前方は機能しなかったのか。俺が破壊する」


 令時は、ショットガンで二箇所のレーザー口を破壊した。


(これで、とりあえずわかる罠は防いだはずだ。それにしても、この世界で他に見た文字は、カタカナが変形した字とローマ数字だったが、これは崩れて変形しているが明らかに漢字から派生した文字で書かれている)


「これは、先代の令位守護者の文だな」


「十六夜、どうしてわかる?」


「我に古代の象形文字は読めんが、ここの最後に、リムとサインが入ってある」


「ほんとだ。私にもリムって読めます」


(十六夜もアリサもリムと認識するのか、これは、リムというより漢字の『心』に読めるのだが。早(はや)神(かみ)心(こころ)か、先代の令位守護者であり、俺の子孫か。通称でリムということにしておこう)


「早神様は、この象形文字がおわかりになりますか?」


「ああ、ガイラ。わかるよ」


「おおー。何て書いてありますか」


『過去より辿りし紅の者へ、

 千夜一夜を顕現させ、

 時空位相の連環を絶て、

 ここに……

 六七六五 早神心』


「ここに……、以降はレーザにえぐられてわからないな。紅の者とはもしかして、俺のことなのか? 先代令位守護者から俺へのメッセージかこれは!『時空位相の連環を絶て』とあるから時空位相が永遠と繰り返されているのか? 謎が深まるばかりだ。十六夜このメッセージは何かわかるか?」


「伝承で言われているとおり、千夜一夜を呼び出す必要はあるようだな」


(この六七六五という数字の意味するところはなんだろうか?)


「令時の記憶を漁ったが、その数字は一切出てこないな」


(十六夜の俺の記憶検索でもそんな数字はないか、それならここは、オフラインデータ検索だな。ネット上の八百万ワードを俺は独自収集して、他のデータと合わせて、知識構造化データにして、このスマートフォンに保存している。まあこの世界の人間からみたらある意味、なんでも知っている賢者みたいなものだな)


「六七六五を検索と…」


 六七六五とは、『二十番目のフィボナッチ数である。機械式自動巻き腕時計、天の川に搭載された機械番号。二十一番目のフィボナッチ数は、一万九四六である』


(ふん、機械式自動巻き腕時計は大いに興味あるが、その名が天の川か、画像が無いのが残念だ。想像するにさぞ綺麗なんだろうな。まあ、ここではまったく関係ないな…… で次の行、一万九四六、ちょっとまてよ、どこかで見た数字だ。俺のスマートフォンの日時の年表示だ。万の桁が表示しきれてないから、西暦表記で一万九四六年!)


「ということは、先代令位守護者は西暦六七六五年。先代の早神心であるリムは、第二十代の令位守護者で、俺は、第二十一代の令位守護者なのか!」


(四千年もの間、この宝箱とメッセージ『過去より辿りし紅の者へ』は、俺を待っていたのか?)


 令時は全身が震えた。繋がったのである。黄金分割比に関連するフィボナッチ数列が、時空位相の発生間隔と一致しているのであった。


(フィボナッチ数は一から始まり、今は二十一番目である時空位相はこのフィボナッチ数の間隔で連綿と発生しているのか。二十二番目は一万七七一一年、それは阻止しないと。俺と同じ運命を辿ってしまうことになる)


「そうか、令時は、第二十一代の令位守護者なのか、そのフィボナッチ数に該当する時代が今世なのだな。我は令時と会うことは相当な巡り合わせということだな。十夜族の寿命はおよそ一千年。でも兄の十七夜は、特殊な法で四千年生きており、先代の第二十代の令位守護者を知っているはずだ。そのことについてあまり話したことはないので知らないが」

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