第20話:赤眼変異体の巨大大鍬形の討伐戦略と攻防

 新宿舎のロビーラウンジでは、五芒星の五体の魔物退治の勝利の宴会が始まった。皆、それぞれ好きなものを飲み食いして上機嫌であるが、まだ、赤眼変異体の巨大大鍬形が鎮座しているので、令時はそれほど喜べなかった。


「一時の休息だな、とりあえず生ビールを……」


「令時さん、我々にはビールは苦すぎて飲めません」


「そうだった。今は少年なんだ。こんなんだったら元のおじさんでいいよ。生ビールが欲しい。紅のドラゴンに変幻できるより今だけは、おじさんに変幻したい」


「令時兄ちゃん。ビールってそんなにおいしいのか」


「いや、まずいよ。苦いんだ。サクには飲めないよ」


「そうなのか、でも苦いのにどうして欲しいの?」


「おじさんなら、美味しいんだよ。ヒロトに聞いてみな」


 ヒロトはすでにビール風の飲み物をジョッキで飲んでいた。少し顔が赤く饒舌になっていた。


「ヒロト、ビールって美味しいの?」


「ああ、気分が良くなる。サクも大きくなったらわかるさ」


「そうか、早く大人になりたい!」


「サク、ヒロトの言ったとおりだ」


「早神様、ところであの、赤眼変異体の巨大大鍬形ですが、どうされます。あの魔物を放置することは、結局、京都と奈良が分断されたままです」


「そうだな、退治するには、やつの体表面をなんとかしなないといけないな。神炎皇のブレスの超高熱の二千度でも蒸発しなかったやつだ。耐熱セラミック膜を装備しているようだな。三千度以上ないと耐熱セラミック膜を突破できないだろう」


「耐熱セラミックか、令時の記憶だと物理衝撃には弱いようだな。我の漆黒の狼の黒爪で引き裂けるかもしれぬ」


「十六夜様のピュアホワイト爪に装着した黒爪ですな」


「ヒロトが、ピュアホワイトっていうと、なんかいやらしいな。顔も赤くなってるし」


「早神様それは…… 黒爪で引き裂けるということは、同じ素材で修復して頂いた、この神魔黒剛剣でも引き避けるかもしれません」


「令時さん、魔弾での破壊効果は望めませんか?」


「着弾すれば、物理攻撃が付加されるので効果はあるだろう。十六夜の漆黒の狼の黒爪とヒロトの神魔黒剛剣で、耐熱セラミック膜を引き裂く。その裂け目に魔弾を全弾撃ち込んで裂け目を広げて、俺の神炎皇のブレスで再度アタックすれば突破できるかも知れない」(それでもだめなら、続けて神風のブレスで冷却させて、熱衝撃破壊の方法を遂行するか。でもその後どうする? 攻撃の手札が無い、連続して神炎皇のブレスは打てないし……)


「よし、決まりだ。先ほどの作戦で実行する。今日はこの新宿舎で休養して、明日作戦遂行する。魔物は昼間は活動が鈍るからな」


 十六夜が元宿舎をコピーして錬成した新宿舎はあらため眺めて観ると、細部までよくコピーできている。壁にかかっている絵画までも忠実にコピーできていた。


「あの絵に描かれているドラゴンは、俺と同じ赤色をしているな。魔物と戦っている絵のようだ」


「あれ? あの絵のドラゴンは黒色のはずでしたが、なぜか色が変わってる」


 フロントに飾られていた絵を見て、係りの者がそう言った。


「あの絵は、誰が書いたものですか」


「わかりません、宿舎が建った時からあります」


「リアリティーのある絵ですね」


「はい、昔の物語の一部を描いたもので、ドラゴンは暴風の中、魔物へ急降下している様子を描いたものだと聞かされております」


「そうですか。でも体色が違ってるんですね」


「はい、元は黒色です」


「もしかして十六夜がいいように脳内記憶変換して改変していないか? そういえば、微妙に何か十六夜の趣味が反映しているような気がする。いやそうではない、俺の記憶、趣味が微妙に調度品に反映されているのか。まったく! 何か自分の部屋にいるような感覚がすると思ったら。十六夜が勝手に改変したな」


 令時は、十六夜のほうを見た。


「てへっ」十六夜はちょっと舌を出していた。


「その仕草はいつ覚えたんだよ。俺の記憶からだな」


 令時は逆に恥ずかしくなった。


 明日の決戦に向けて、令時は壁掛けの絵からひとつヒントを得ていた。


「深淵の穴から天頂に黄金の光が伸びている。あそこにやつは居るはずだ」


 穴の周囲の翡翠は溶解し、再結晶化して最上級翡翠が生成されており、最深部まで続いている。やはり凄まじい熱量の神炎皇のブレスであったことが伺える。赤眼変異体の巨大大鍬形は、穴の底で悠然としていた。


「お前だな、この五芒星の守りを破壊したのは何者だ」


(やつからの異種の思念波を脳内で受信できた。十三夜の投影裸眼ネックレスからだ)


「俺は令位守護者の早神令時。ここの街道は、京都と奈良間を通る要所だ。魔物が居ては往来ができず、ずっと危険な峠を迂回しなければならない」


「知ったことか。ここを守れと主から言われておる」


「そういえば黄金の牙巨大蟻もそんなことを言ってたな」


「時空の欠片は返してもらおうか」


「だめだ、返すわけにはいかない、時空の神宝を作製するのに必要なんでな」


「時空の神宝を出現させてはいけないと、主に言われている」


「お前たちの主とは、どういう存在なのか?」


「人族には関係ないな。我らの主はお前たちより遥か太古からおられる」


「そうか、いずれ会えるかな?」


(十夜族の始祖、千夜一夜のアルフ・ライラで十万年前、昆虫種となると、過去の時間軸が違いすぎる。ドラゴンの始祖の恐竜と同年代だな。どんなやつなのだろう)


「いや、お前たちはここで、掃滅する……」


 巨大大鍬形は穴から這い上がって、大あごの牙で威嚇してきた。牙の威嚇だけで斬撃の衝撃波が放たれた。


「十六夜、ヒロト、作戦通り行くぞ。正面からは斬撃の衝撃波がくる。側面から攻撃しろ! 十五夜は、チャンスがあれば突進攻撃をしてくれ」


「令時さん、正面から行っていい?」


「斬撃の衝撃波を防げたとしても、あの牙に耐えられるか?」


「神金継の牙角で受け止められると思う」


「よし、十五夜は正面から突進攻撃だ。ダメだと少しでも感じたら引くように」


「わかりました。令時さん」


「十五夜の突進攻撃が、作戦開始の合図とする! 十三夜、一緒に上空に行くぞ!」


 牛ドラゴンは巨大大鍬形の大あごに突進した。巨大大鍬形の斬撃の衝撃波を受ける度に、神金継の牙角は軋み、金属音がしたが、すべて受けきり、気絶状態効果を入れることができた。漆黒の狼が黒爪を巨大大鍬形の背の耐熱セラミック膜に爪を立てていた。爪痕には赤い一線の筋ができていた。切り裂きはできなかったが、爪痕の黒い一線に合わせて、ヒロトが二刀流、神魔黒剛剣で更に切りかかっていた。赤い一線は、赤黒い一線に変わり地の体色が透けて見えていた。


 気絶状態の効果が切れて、巨大大鍬形は近くにいた十六夜を狙った。


「姉さん、危ない!」


 十五夜は咄嗟に十六夜を庇い、牙の攻撃を神金継の牙角で受け止めたが、牛ドラゴンの片方の角にヒビが入り、粉砕されてしまった。


「皆、下がれ。魔弾を放出する!」


 信士とサクは全弾、巨大大鍬形の赤黒い一線めがけて、集中攻撃をかけた。信士は、令時を信用してすべてこの時に賭けた。残りの魔弾を全弾撃ち放ったのであった。赤黒い一線に連鎖して超爆発し、赤黒い線から面に広がっていた。


「よし、撤退する。すぐに天空から神炎皇のブレスがくるぞ。十五夜、動けるか?」


「大丈夫、信士」


 巨大大鍬形が大あごを振動させただけで、無数の斬撃の衝撃波が襲ってきていたが、令時の紅のドラゴンのクレナザイト製の鱗は、その衝撃波をものともしなかった。


「十三夜いくぞ、急降下だ」


 前回よりも更に回転を与えて収束した神炎皇のブレスを巨大大鍬形に向けて放った。更に収束した神炎皇のブレスは、背の赤黒い面にヒットして、その傷は更に広がったが、それでも耐熱セラミック膜は突破できなかった。


「二千度を超えて、三千度に達しているはずなのに、あのセラミック膜は、びくともしない。十三夜は離脱しろ。このまま神風のブレスを放つ」


「レイジとコノままいっしょにイク」


「いや、暴風に巻き込まれる離脱しろ!」


「いっしょにイカないと照準がアワナイでしょ!」


「しょうがない。神風のブレスを放つ瞬間に離脱だ。いいな」


「ワカッタ」


 急降下回転は更に早まり、紅のドラゴンと蜂妖精女王は見事にシンクロし、照準が巨大大鍬形にロックされた。


 神風のブレスは『神風皇のブレス』となり、周囲を冷却しながら局所的な竜巻を起こした。竜巻からは、白い細い雲が南に延びていた。蜂妖精女王が離脱してたなびいた筋雲だった。巨大大鍬形の背は、竜巻で急冷され、熱衝撃破壊が起こって、黒い体表面がむき出しになっていた。


「このまま、体当たりだ。俺のクレナザイト製の鱗は、ダイヤモンドよりも遥かに硬い」


 地上で、紅のドラゴンが巨大大鍬形に激突し、巨大大鍬形は地に触れ伏した。


「これでもまだ絶命していないのか?」


 紅のドラゴンの上空からの急降下回転による体当たり攻撃『トルネードクラッシュ』で、巨大大鍬形は、すでに息も絶え絶え状態になっていたが、まだ絶命していなかった。令時は、神炎皇のブレス、神風皇のブレス、最後にトルネードクラッシュの連続技で思念波を使い果たし、紅のドラゴンの変幻が解除され人の令時に戻っていた。


「変幻が強制解除されたようだ。足元がふらつくし動けない。やつはどうなった」


 巨大大鍬形は最後の力を振り絞ったのか、斬撃の衝撃波を令時に向けて放った。


「道連れだ。主を永遠に!」


 令時は十三夜の投影裸眼ネックレス無しに、魔物の異種の思念波の言葉と映像を理解した。


(主を永遠にか。これがこいつらの主か……、なるほど俺も知ってる……、あの衝撃波はもう防ぎきれない。ここで終わりか、いや京都山城の地下迷宮では唐條が待ってるはず。迎えに行かないと)


 令時は衝撃波を受けたところまでは覚えていた。


「令時、令時! 目を覚ませ! お前は、令位守護者。まだ使命がある」


「レイジはダイジョウブなのか?」


「大丈夫だ、比叡山の最強護符(角大師)が衝撃を受け止めておる。令時の身代わりになって、真っ二つに切り裂かれている。護符はもう使えなくなったようだが」


 令時はゆっくりと目を開けた。目の前のソファーに、深草色のワンピースを着た少女が座っていた。額に白の菊の文様がうっすら浮かび上がっている。


「前にも見た光景だな。十六夜、十六夜か。ここは」


「レイジが目をさました! ツキミだよ、ワカル?」


「ああ、十三夜、よく暴風を離脱できたな…… 十五夜も大丈夫か?」


「私は大丈夫です。そんなことより令時さん三日も眠ってたんですよ。このまま、目を覚まさないのじゃないかと……」


「俺は巨大大鍬形にやられたのか」


「いえ、統括マネージャ、紅のドラゴンでの連続技で思念波を使いはたして倒れられましたが、巨大大鍬形は令時さんが討ち取りました」


「でも確か最後に斬撃の衝撃波を受けたはず。この最強護符(角大師)が受け止めて助かったのか」


「はい、でも、もうその護符は使えません」


「信士、心配するな、真正の比叡山の最強護符(角大師)は、こちらにある」


 令時は二重の内ポケットから、比叡山の最強護符(角大師)を取り出して見せた。


「さすが令時兄ちゃん。切り札は最大ピンチに使うんだったよね」


「そうだ、サク。切り札は最大ピンチに使う。まあ、今回はたまたまだな。コピーで予備を持っておいて助かった」


「それにしても、三日も眠っていたのか、どこまでが現実の記憶かあやふやだ。最後に、魔物の異種の思念波を直接理解することが出来たんだが、やつらの主のことなんだが」


「昆虫種の魔物の主の事だな、何かわかったのか」


「十六夜は、何か知ってるか」


「人族も一時崇めていたときもあったと聞いておるが、詳しく知らん」


「巨大大鍬形からの思念波を受け取った映像からすると、あれは、黄金の甲虫スカラベだな。古代エジプトの最強の守護神。太陽を転がし、死から再生する聖なる主だ」


「古代エジプトか。昆虫種や十夜族からすれば、古代エジプトの年代なんて新しいほうだ」


「その時代に、人族と昆虫種の主に少なからず、時空の神宝を廻って接点があるように思える」


「令時、お主は歴史学者なのか?」


「いや、俺は生物物理学と遺伝学がメインだ」


「イデンガクってやっぱり、新しい武器じゃないよね」


「そうだ、サク。武器じゃない。学問だ」


「僕もわかるようになるかな?」


「教わる先生がいればな」


「じゃあ令時兄ちゃんが先生だから、いつでも聞けるね」


「ああ、サク」


(でもなぜ、甲虫スカラベなんだろうか、ここは日本の未来のはず、甲虫スカラベなんか信奉する習慣は古代からなかったはずだ。せいぜい太陽信仰で共通点があるといえばあるけど)


「令時さん、微笑みながらまた眠った」


「また眠ったか。そうとう消耗しているようだな」


「アノ、絵のとおりダッタネ」


「ああ、あの暴風から引き出された白い細い雲は、十三夜が離脱した様子と酷似しているな」


「姉さん、でもどうして今回の戦いの様子と絵が酷似しているのでしょうか。まるで、この目でみて描いたとしか思えません。これを描いた画家は未来が見えていたのでしょうか?」


「我らが把握していない別の時空位相者がいるのかもしれないな」

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