第19話:赤眼変異体の巨大大鍬形の覚醒

 サクは更に南側の二匹の兜の足止めにも成功した。サクの撃った魔弾は脚を破壊し、宿舎前で二匹は停止していた。東の兜も、信士の魔弾によって足止めに成功していた。問題は、西の兜とボスの大鍬形であった。


「サク、魔弾は残り何発ある」


「残り二発」


「私は二発で、十六夜さんは一発か」


「サク、北西の兜を頼む。撤退時攻撃用に一発は残すように」


「わかった、信士兄ちゃん。令時兄ちゃんにいつも最終弾は切り札で残すように言われてる」


「私と十六夜さんで、ボスの大鍬形に撃ち込む、弱ったところで、ヒロト、大鍬形の牙を攻撃してくれ」


「承知致した。信士殿」


「いくぞ、第二波攻撃」


 信士と十六夜は大鍬形に魔弾を同時に撃ち込んだ。二筋の青白い光と、白い光が絡みながら、大鍬形の頭部に着弾、超爆発を誘発し、大鍬形の突進は止まった。


 サクは西の兜の角にめがけて、魔弾を放出したが、第一波攻撃の時に受けた魔弾を警戒していたのか、西の兜はその魔弾を回避し、宿舎にめがけて突進し、激突した。その反動で、気絶状態効果が発動され、信士達は数秒間動けない状態に陥ってしまった。


「まずい、ヒロト! 動けるか? 気絶状態効果が解けたら牙を攻撃してくれ。成否にかかわらず即全員、南に撤退する! 後は、令時さんが何とかしてくれるはずだ」


「承知!」


 ヒロトは大鍬形からの気絶状態効果が切れたと同時に、二刀流で、渾身の神魔剛剣を以前に入れた白い筋傷に重ねて入れた。牙を切り落とせたようだ。そのかわり、二本の刀は代償として折れていた。最上級白水晶の属性石のオーバースペックに刀が耐えられなかったのである。


「ヒロト、お見事。サク、大鍬形の牙をザックに収納してくれ。十五夜、十六夜さん背に乗るから実態に戻って。南に撤退する。急げ!」


 振り向くと、南側の二匹の兜と大鍬形が攻撃対象を上空の紅のドラゴンに変えたのか、真上に飛び立って行くのが見えた。


 令時は上空から五芒星配置の中心の宿舎から、二筋の光跡が南に移動するのを確認した。「南に脱出できたようだな」


 下からは、兜と大鍬形がこちらに飛んで来ているのが見えた。


「攻撃対象を俺にしたようだな。大鍬形の片方の牙は見事に切断されていた。ヒロトがやったようだ。魔物の思念波は、もう怒り狂っていて理解不能だ」


「ソウダネ、ワタシにもわからない」


 十三夜にも理解ができない大鍬形の思念波だった。


「回転急降下しながら、神炎のブレスを吐くから、十三夜、俺の背に並走飛行して合わせてくれ。照準を十三夜の映像から読み取る」


「ワカッタ」


 下から、二匹の兜を両翼に従え、大鍬形の後方中央の飛行形態で、迫ってきていた。


 紅のドラゴンと蜂妖精女王は綺麗な回転急降下でシンクロし、紅のドラゴンから神炎のブレスが上空から放出された。


 回転を加えることで、神炎のブレスは拡散せず、『神炎皇のブレス』となり二匹の兜、大鍬形を、射抜き、地上の宿舎に着弾、宿舎もろとも蒸発していた。


 地上に降り立ち、令時は周囲を見渡した。


(成功したようだ。ブレスも拡散せず、影響はちょうど宿舎の範囲にとどまっている)


「なんか、地面が溶解して物凄い穴が開いている」


「レイジ、これ深スギルヨ。ドコマデこの穴アイテルの?」


「ブレスを拡散せず集中したからな、でも予想外の深さだ。下が見えない。魔物は体もろとも蒸発したしから、今回は魔鉱石は採取できないか」


 新宿舎では従業員、旅人は喜びで沸いていた。天空からの神炎のブレスが柱のようになった一撃で、一瞬で魔物が消滅したのが見えていた。


「さすが、令位守護者の早神様だ。あんなドラゴンのブレスなんて見たことも聞いたこともない」


「ああ、ドラゴンのブレスは、普通は拡散するはずだ。それをあんなに収束させるなんて。着弾した宿舎あたりは、どうなっているんだろうか」


「いずれにしろ、完全にやっつけた。早神様がここに戻られたら祝宴だ」


「まずは、五芒星の頂点にある星形石から時空の欠片の回収だな」今まで回収した時空の欠片のコアナンバーは三から六の四つ、ここでは五つ回収できるはずだ。最初に、南東の星形石にやってきた。ドラゴンでは一飛びである。


「まずいな。見覚えのあるシグマ様文様が刻印されている。ということは解除順があるはずだ。たしか、上鳥羽集落の星形石の時は、信士が、一時に配置された星型の文様から、左回りに、最後に五時に配置されているシグマ様の文様に触れて解除したはず。


「十三夜、北東の星形石の上面を望遠で映像を送ってくれ」


「ワカッタ」


 十三夜からの望遠映像が令時の脳内に展開された。


「北東一時が星型、南東五時がシグマの文様だ。やはり同じか。各頂点間の距離は二キロメートルはある。直径は三.四キロメートルの巨大な魔方陣か」


 令時は再び飛び上がり、北東の星形石にやってきて、星形石の上面の星型文様に手を置いた。星形石が解放され、そして赤い光線が上空の雲まで伸びた。中には時空の欠片が収まっていた。


 時空の神宝の組図写真と照らし合わせてコアナンバー七であることが分かった。順に半時計回りに、星形石を廻り、最後のシグマの文様に手を添えて星形石を全て解放した。コアナンバー七から十一の五つを一挙に手に入れることに成功した。これで十二個個の内、九個まで集めたことになり、残すはコアナンバー一、二、十二の三つだけであった。


 気になるのは星形石を解放した後からは、それぞれ赤い光線が上空に伸びて五本の光柱を形成していた。五芒星の中心に開いた深淵の穴からは、黄金の光が上空に伸びていた。


「巨大魔方陣が有効化しているように感じ、すごくいやな雰囲気がする」


「レイジ、穴カラ、ナニカ上がってキテル」


「俺の神炎皇のブレスに耐えた何者かがいるのか? 信じられない。翡翠を溶解できる熱量なんだぞ。温度は二千度あるいはそれ以上に達しているはずだ。防御するには、耐熱セラミックぐらいしかない。まさかそんなものを纏っているのか?」


 深淵の穴からは、地面の揺れる振動が伝わって、徐々に大きくなってきている。穴から出て来た魔物は二本の牙を持ち、目は紅で体は少し赤みがかっていた。赤眼変異体の巨大大鍬形である。その体色から、耐熱性の膜で覆われていることが推測された。


「だめだ、神炎皇のブレスが通じないのなら一度撤退しよう。攻略方法を考えないと。あの魔方陣を無効化すれば少なくともアイツはそこにとどまるはずだ」


 令時は五芒星の星形石それぞれに念の為、不活性の護符をセットしておいた。ただの紙切れであるが、思念波で不活性護符を活性かすることで、真正の護符にすることができる。思念波を五か所同時に放ち、真正護符に変えた。


「五か所の赤い光線は消失したようだ。アイツは中心に陣取ったままか」


「十三夜、やつ体表面の望遠映像を送ってくれ」


「ワカッタ」


「十三夜からの映像がきた。地の体色は黒で、その周りを赤色の薄い膜が全身に覆われている。この赤色の薄い膜が耐熱性か。変異種だな。しかし、こんな進化を獲得するには、神炎皇のブレスのような高熱量を過去連綿と受けないと進化できない。やはり、反進化論か。将来に備えての防御進化。寝た子を起こしたということだな」


「十三夜、一時撤退だ。南の新宿舎に移動する」


 紅のドラゴンと蜂妖精女王は、赤眼変異体の巨大大鍬形の上空を旋回し、いちべつの思念波を送った。待っていろよと。


 南の新宿舎の前に紅のドラゴンが着地した。皆が迎えに出てきていた。


「早神様、ご無事で」


「ああ、ヒロト。二刀流は見事だったな。剣の名はあるのか」


「ありがとうございます。神魔剛剣です。仲間の仇は少しでも討てたと思います。ただ、刀が二本とも折れてしまいました。この刀には思い入れがあったのですが残念です」


「どれ、見せてみな。サク、大鍬形の牙を出してくれ」


 令時は大鍬形の牙を削り、仮想実体魔法で剣先をつなぎ合わせた。接合部は漆黒の漆のような光沢をし、元の刀より柔軟だが強固なものとなっていた。


「『神魔黒剛剣』と名付けるか。どんな付加効果が出るか楽しみだな」


「ありがとうございます! 更に修練いたします」


「十五夜姉ちゃんと同じ金継の刀だ。刀も欲しい!」


「サク、武器はリボルバーだけにしとけ。刀を振るのはお前にはまだ無理だ」


 サクは自分のリボルバーと見比べて、刀もあきらめきれない様子だった。


「十六夜、漆黒の狼の実態に戻ってくれ」


「何故に」


「いいから、贈り物だ」


「我に?」


「そうだ」


 令時は少し顔を赤らめていた。なぜだかわからない。漆黒の狼の両手の中指の爪に、大鍬形の牙から錬成した超硬の黒爪を装着した。純白の爪に漆黒の漆のような光沢が映えた。


「十六夜姉ちゃんの黒の爪だ! 何でも切り裂けそうだよ」


「令時、ありがとう」


 十六夜は少し照れて顔が赤くなっていた。


 新宿舎のロビーには、祝いの用意がすでにされていた。「腹ごしらえしたら、あの赤眼変異体の巨大大鍬形の討伐方法を考えないとな」

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