第17話:水度集落跡の五芒星配置の魔物とは

 一行は、水度集落跡地へと向かう。


「水度集落跡か、人族はいないらしいので、今度は紅のドラゴンの神炎のブレスで無双できるだろうか? この宇治集落から南に行くには、旧奈良街道がずっと続いていたはずだ」


 水度集落は、元の世界では山背五里五里の街である城陽に該当する。城陽は京都へ五里、奈良へ五里で両古都の中間の位置にあった。その地には、創祀が平安時代からの水度神社が鎮座している。今世ではこの水度の名が残っていた。


「令時さん、水度へは、また牛車で移動だよね」


「ああ、お願いできるかな」


 十五夜はうれしそうに、牛ドラゴンの実態に戻り、牛車を先導することになった。


「十五夜の『神金継の牙角』は、やはり見事だな。この牛車の装飾に映える。


「旧奈良街道沿いには、実家があったけど、今世ではどのようになっているだろうか?」


(そういえば、小学生の頃はその街道はまだ道路が舗装されていなかった。その道路を綺麗な装飾された牛車が通るのを一度だけ見た記憶がある。あれはなんだったんだろうか? 当時にしても、車しか往来してないのに、なぜここに牛車なんだと思ったことがあるが、まさか今世とその過去が繋がってないよな。小学生のころに時空位相された一万年後の自分を見ていたってことはないよな)


 令時達は牛車に乗り、旧奈良街道を南に下っていった。旧奈良街道といってもスマートフォン上のオフラインマップでの名称であるが、マップ上と同じ位置に翡翠道路が続いている。今までの集落間の翡翠道路よりも幅が広く整備されていた。街路灯も一定間隔で設置されている。翡翠道路からエネルギーが供給されて、白水晶が青白く光っていた。


 自走の搬送車が時々すれ違う。色々な鉱石を搬送しており、エネルギー源はやはり、翡翠道路から得ていた。翡翠道路の両サイドには、時々建造物があったが、ここの建造物は崩壊せず建物の窓からは光が漏れていた。


「あれ、あそこの窓に人影が見える」


「令時さん、この世界でも怪異が見えるのですか? 私には何も見えませんが」


「ほら、右前方の一階の窓際にいるだろ。一緒に犬の影も見える」


「見えませんよ」


「信士には見えないのか? 十六夜は見えるよな」


「いや、我もみえんな。ただ光が漏れてるだけだが。ただ、あの窓からは近隣種の犬の気配だけは感じる」


「そうか、見えないのか。でも犬の気配は感じるんだな」


 令時には、はっきりと見えていた。子供の人影と子犬の影が。令時は確信した。あれはあの時の自分なのだと。


「子犬はクロだ! 近所でもらい受けたけど一年で病気で亡くなったクロに違いない。当時、泣く泣く近くに埋葬した。大人になっても時々、クロのことは思い出していた。そうか、あの時も牛車は南に下って行った。重要な任務だったんだな。クロは見えなくなるまでずっと吠えていた記憶がある。時空位相で思念波が、当時に繋がったのかもしれない」


「令時さん、左側の建物は何かにぎわってます」


「このあたりは昔だと宿場町だったから、この世界でも名残があるな。行ってみよう」


「これは、ホテルだ。駐車場にはいろんなタイプの馬車、牛車が駐機してある」


 令時達はロビーに向かった。少年、少女の一行に、妖精付となると周りからみて、奇妙な集団である。ロビーには数人の旅人らしき集団がいたが、令時は、気にもせずフロントに向かった。


「ツイン、トリプルそれぞれ一泊お願いしたい」


「お客さま、ツイン、トリプルとはどういう意味でしょうか」


「二人部屋と三人部屋をそれぞれ一泊」


「お一人様、銀貨五枚でございます」


(銀貨って、だれか持ってか? 銅貨は持ってるけど)


「この最上級翡翠で宿泊代に替えられますか」


「それなら、一個で十分でございます。お食事込みです」


「この周辺の地図があれば頂きたい」


「はい、ございます。こちらの領収書にサインをお願いします」


 早神令時とサインし、小粒の最上級翡翠一個を渡した。


「このサインの文字は旧古字体ですね。なんてお読みすればよろしいのでしょうか」


「ハヤガミレイジです」


「響きのよいお名前ですね。どこかで聞いたことがある気がします。こちらがお部屋の鍵でございます」


 ポーターが荷物を持っていこうとしたが、令時は自分で運ぶからと静止した。


「二階の部屋か、では部屋の組み分けだ。俺、信士、サクとでツインで……」


「まった、我と令時がツインで、その他がトリプルということで」


「え、ちょっとまずいような気がするが?」


「何が?」


「エット、ワタシはレイジの組でいいよね」


 いろいろ、揉めたが結局、令時、十六夜、十三夜組みと、信士、十五夜、サク組に分かれた。部屋は広く、ベットはふかふかのダブルベッド。(えっと十三夜は、同じ部屋でも良しとして、これって十六夜と一緒に寝ることになるのか、この歳で、体は少年なんだが…… 少女と一緒に……)


 部屋は街道を見下ろせる位置にあった。バルコニーに出ると、もう外は夕暮れで道路の緑の光の筋にそって、街灯が青白くずっと続いており、幻想的だった。


「食事をして、もうさっさと今日は寝よう。明日はここで情報を集めることにする」


 令時は、ふかふかのベットに飛びついた。十六夜も飛びついてきた。いい匂いがした。


「あれ、十六夜もう寝てしまっている……」


 朝になり、フロアーのラウンジでは、朝食はバイキング風で用意されていた。パン、ライス、パスタ、肉、卵、野菜サラダ、デザート、飲み物も豊富に並べれている。皆それぞれ好きなものを選んで、テーブルに持ってきた。


 十六夜はメインはサーモンとベーコンを山盛り。メインしかない。


「朝っぱらからその量は? 狼だから野菜は食べないのか……」


 十三夜はメインはチーズとデザートのブドウ類とロイヤルゼリー。


「そんな組み合わせでエネルギーは足りるのか? まあ、蜂妖精だからな……」


 十五夜はカルパッチョ仕立ての野菜類と卵、チーズ類。


「ベジタリアンなのか。仮にもドラゴンなんだよな…… 大丈夫かこいつらは。十六夜は別として体力は持つのか?」


 令時、信士、サクは一般の少年が好む、お子様メニューだった。食事を楽しんで、昨晩のあったことをおしゃべりしていると、隣のテーブルで一人で食事をしていた大男がやってきた。腰には、二本の刀をさしていた。(あきらかに攻撃的な態度に見て取れた)


「坊主ら、朝からうるせぇんだよ! ここはお前らがくるような場所ではない。とっとと帰えんな」(あーあ、十夜族は、もう臨戦態勢に入ってるし。落ち着けって)


「あ、うるさかったら、すまない。謝るよ。この地の魔物を一掃しにきただけなんだ」


「一掃? ふん、ふざけたことをいうな。ここにいる皆、返り討ちにあって撤退を余儀なくされてるのに、お前らみたいな子供にできるわけない。帰れ!」


「あんちゃんのほうこそ、うるさいんだよ。そっちこそ帰れよ!」(サクも落ち着けって)


 サクは大男の前に立ったが足を払われ、床に倒れた。その瞬間、令時は即座に反応し、大男を柔道の基本技、体落(たいおとし)で相手を投げつけ、ダブルバレルショットガンを額に突き付けていた。


「まあ、我々世代は、中学、高校の体育授業でみっちり柔道、剣道やらされたからな、無警戒の奴に対してなら、これぐらいはできる」


 いつの間にか十六夜は漆黒の狼の実態に戻って爪を立てていた。いつもより迫力を感じた。多分、朝食のベーコンの栄養素のせいで動きがいつもより俊敏だと令時は勝手に思った。


「待ってくれ、すまない。悪かった。出て行くよ」


 大男はしょぼくれて出ていき、周りから拍手があがった。


「早神様、ありがとうございます。あの者はもう半年もここに居ついて、旅人に難癖つけていたんです。先ほどのダブルバレルショットガンは珍しいですね。もしや今世に顕現された令位守護者の早神様でしたか」


 周りがざわついた。令位守護者早神がこの地にやってきたのを目撃したからである。


「ということは、あの漆黒の狼は、早神様の付き人兼師匠、守護者の十六夜様だ」


「おおー、少女に変幻したぞ」


 全視線は令時から十六夜に移っていた。十六夜は腕を組んでご満悦の顔であった。


「早神様はこの地の魔物を討伐に来られたのですね」


「ああ、山城に行く途中だが、この地に寄った。この地には人は住んでいないと聞いていたのだが、この宿舎の人達は何の目的で泊まっているのか?」


「各地から、この地の魔物の討伐を依頼され集まった人たちですが、誰一人、討伐に成功しておりません。名のある強者ばかりですが、この地の魔物は連携しており、敵わないのです。


 小部隊を組んで挑んだ者もいますがやはり、魔物のほうが上手でした」


「そうですか、皆、時空の欠片が目的ですか?」


「時空の欠片は令位守護者様しか扱えません。魔物に懸賞金がかかっているのでそれが目当てです。それと魔鉱石の採取です」


「そんなに強力な魔物がどうしてここを襲ってこないのですか」


「ここは、護符で守られていますので。以前に守護者、十七夜様が来られて、護符を頂きました。それ以来ここは、ベースキャンプとして成り立っています」


「兄はそれからどうなった? 我は十七夜の妹の十六夜じゃ」


「妹様でいらっしゃいますか、目元がそっくりです。十七夜様は、山城に向かうとおっしゃっておりました。不死鳥のフェニックスの実態に戻れないので、戻る手がかりが山城の地下にあると言って」


 消息を知れて十六夜は少し安堵した。


「そうか、事情はわかった。懸賞金はどこが出しているのかな」


「諸国から集められて、奈良集落より一括して出されております。この地は京都、奈良の中間点で魔物のせいで、往来が途切れております」(奈良という地名も残ってるのか。一万年経っても要所の地名は残っているようだ)


 令時は昨日、カウンターでもらった地図を思い出していた。魔物の生息場所も地図に書き示されていた。その数は五体で、この宿舎を中心にして五星芒形を描いていた。


「この魔物の陣形を何とかしないと、紅のドラゴンの神炎のブレスが吐けない。周りを巻き込んでしまう。作戦を検討する必要があるな。魔物のほうも知性があるかもしれない。その魔物はどのような種なのか?」


「北に大鍬形(オオクワガタ)、北以外は四匹の兜(カブト)が陣を張って星芒形の魔方陣を形成しています」


 令時は心が躍った。少年時代の昆虫採集のあこがれオオクワガタ。たった一度だけ小学生の時に、この集落の里山で採ったことがある。その時の興奮が蘇った。


「え、そんなのが魔物なの? 巨大な大鍬形を見てみたい。ようーし、昆虫採集だ」


「令時兄ちゃん、張り切ってるね。コンチュウサイシュウ? 今度こそ、新武器だね」


「いや、サク。ごめん違うんだ。魔物討伐のことだ」


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